第二十六話-3
「そ・・・そうだね。碧さんって、スタイル良いから、何着ても似合いそうだよねっ!」
ちょっとだけ冷や汗が出てないでもないけど。
俺の言葉に満足したのか、ニンマリと笑う綾香さん。
そして俺を見てニコリを笑い、
「ありがとう、真ちゃん」
その笑顔は、いつもと変わらない。
優しい碧さんのままだ。
でも。
そのまま、祐也の方を向いて、
「ほらぁ、真ちゃんも言ってるんだし、服選ぶの付き合ってよ。ね?・・・良いでしょ、祐也くん」
・・・
え?・・・祐也、くん?
ついこの間まで『如月くん』呼びだったのに?
なに?何があったの?
当の祐也は、赤い顔をしながら慌ててるけど、お前本当に何したの。
「ね?柚葉ちゃんも、祐也くんに服選んで欲しいよね?」
「え・・・あの・・・」
少し言い淀むが、
「うん、私も・・・祐也くんの好みの服、選んで欲しい・・・な」
・・・
柚葉ちゃんも!?
真っ赤な顔で恥じらいながら、祐也の服の裾を摘まむ仕草が可愛いんだけど。
でも、こっちとしてはそれどころじゃない。
どういう事?
柚葉ちゃんに碧さんという、学年でも可愛い方から数えた方が早い子ふたりに、何したの?
本当に落ち着かないから教えて欲しいんだけど?
「あ~・・・」
俺が目を丸くして慌ててる横で、瑠璃はやや気が抜けたような声を上げる。
「それで昨日、3人でモールにいたんだ」
え!?
思わず、驚いた顔で瑠璃を見る。
昨日?モールにいたの?
「え?うん。琥珀をお手洗いに連れて行ってくれてる間に、ちょうど・・・」
「何それ。・・・聞いてないんだけど?」
非難するような目ではなかったと思うけど、それでも少し驚きが強かったのはあると思う。
ちょっとだけ瑠璃の瞳が揺れる。
「あ~・・・見られてましたか~・・・」
なんとなくバツが悪そうな碧さん
そして、真っ赤な顔のまま目を逸らしている、柚葉ちゃんと祐也。
「うん。祐也とデートしてるんだ~って思ってて。・・・流石に、真に内緒とは思わなかったけど」
いや、そもそも瑠璃が知らない時点で、俺も知らないんだけどね?
「デ・・・デートぉ・・・」
あ、柚葉ちゃん、耳まで真っ赤だ。
そんな自覚が無かったのか、それとも言われて恥ずかしくなったのか。
祐也も、同じように真っ赤になってる。
普段は飄々として、何事も引いて見るようなどこか達観した祐也だけど、色恋沙汰は慣れないのかな?
・・・と言うか、祐也は彼女くらいいると思ってたけどね?
「い・・・いる訳ないだろ?大体・・・どこで出会うんだよ・・・」
そりゃまぁ・・・学校とかバイト先?
ピクリと飛び跳ねる様に驚く柚葉ちゃん。
そして、意外な事かもしれないけど、碧さんも。
「バイト先はね・・・うん」
「そう・・・ですね」
え?そうなの?
「あ、でも。真ちゃん、勘違いしないでね?」
少し慌てた様子で、碧さんが口を挟む。
「私は、バイト先で祐也くんと会ったんじゃないの。祐也くんと居たいから、同じ書店でバイト始めたんだからっ!」
碧さん!?
「碧さん!?」
「え?そうなの??」
祐也も柚葉ちゃんも驚いてるけど・・・?
3人で、それぞれちゃんと話した上で、デートしてたんじゃないの?
「違うよ?」
「えぇ、違います」
・・・違うんだ。
ごめん、ますますわかんなくなってきた。
誰か助けて?
「ご・・・ごめんね?実はね・・・」
柚葉ちゃんが、真っ赤な顔のまま説明をしてくれる。
先週の、琢磨の一件の時に、碧さんと『ピアスを選びに行く』約束をして、日曜に一緒に出掛けた。
ところが、ナンパ男に絡まれて困っているところ、偶然通りかかった祐也が
『俺の彼女たちに何してるんですか?』
と、極めて紳士的に助けてくれた。
「あ~・・・多分、そのナンパ男、私に絡んできたのと同じ奴」
「瑠璃っ!?」
その後も、ふたりきりになるのが心配だからって、祐也がガード役を務めてくれた・・・と。
「なるほどね」
聞いてみれば、なるほどと思えるところ。
祐也らしいと言えばそうなんだけど、それにしてもデートと勘違いとはね。
「あ、それは勘違いじゃないですよ?」
碧さん!?
「だって、その後、柚葉ちゃんの眼鏡を選んで、私と柚葉ちゃんのピアスも一緒に選んでくれて」
うんうん、と頷きながら聞く。
「お勧めのお店で、一緒にランチをしてね」
「・・・なんでうちのお好み焼き屋に来ないの?」
・・・そうだね。
綾香さんちのお店、モールから近かったね。
「・・・ごめんなさい。次のデートの時は、ちゃんと伺います」
「約束よ?お父さんの焼くお好み焼き、大好評なんだからっ!」
あの、続きを。
「その後、3人のお揃いのアクセサリーを買いに行きまして」
「え?あれ、俺のアクセも見ればって言われたから、馴染みの店に行ったんだけど?」
・・・祐也ぁ。
ふふっと笑い、ポケットからブレスレットを取り出し、左手首にくるりと巻く。
柚葉ちゃんに目を遣れば、ちょっと躊躇しながらも、碧さんと同じようにブレスレットを巻く。
呆気に取られる祐也。
「・・・それからね」
頬を染めながら、言いにくそうに眼を伏せる碧さん。
「・・・」
え?なに?なにしたの、祐也?
「な・・・何もしてないよ?」
その言葉に、驚いたような顔をする柚葉ちゃんと碧さん。
そして、口元が戦慄き、俯いてしまう。
両手で口元を隠し、肩を落とす。
「そんな・・・」
そんなって。
「私たち、初めてだったのに・・・」
・・・
・・・
は!?
ゆっ・・・!!
「祐也っ!?あんた、ふたりに何をっ!」
俺が言い出す前に、瑠璃が喰って掛かる。
それは当然。
俺だって、問い詰めたい。
「ちょっ・・・あ、碧さんっ!」
祐也が抗議の声をあげるが、多分誰も聞いてない。
「ち・・・違うよ」
「何が違うのよっ!」
瑠璃が、今にも噛みつきそうな勢いで祐也の前に進むけれど、
「・・・くすっ」
碧さんの顔を見て、足を止める。
「・・・ほら」
髪を掬い、耳を見せる。
そこには、青い石がはめ込まれたピアスが輝いていた。
見れば柚葉ちゃんの耳にも・・・こちらは赤い石のピアスが。
「これ、私たちのファーストピアス。・・・本当は、お互いで開けるつもりだったんだけどね」
「・・・うん、いざとなったら、やっぱり怖くて。・・・それに痛そう、だし」
・・・びっくりした・・・。
俺はてっきり、3人で・・・ううん、何でもない。
「・・・で、俺にお鉢が回ってきたの。俺、自分で開けてるからさ」
少しだけほっとしたような顔で、息を吐く祐也。
「ちゃんと印付けて、アイシングもしてさ」
「アイシング?」
「あぁ、ピアッサーで開ける前に、耳たぶを冷やすんだよ。・・・ほら、冬場に寒さで手がかじかんで、感覚なくなるだろ?あれだよ」
あぁ、なるほど。
「で、ふたりのピアスを付けたの。・・・ほんとにそれだけだから」
大慌てで弁解する祐也が面白いのか、綾香さんは終始笑ってる。
俺や瑠璃は、それどころじゃないんだけどね?
まぁでも、少しだけほっとした。
みんなが笑ってる。




