第二十六話-2
「真っ・・・行きましょう。遅刻するわ」
そう言って踵を返し、坂を上り始める。
「え?あ、うん。・・・ほら、綾香さんもっ!」
歩き出してから、半身後ろに向いて、軽く手を差し出す。
私も、少しだけ振り返って視線を贈れば、ぱぁっと明るい笑顔になった綾香さんが小走りに追い掛けて来る。
真と肩を並べ
私と肩を並べ
そして・・・
先へと駆けだす。
・・・あれ?
一緒に行くんじゃないの?と思い、視線を綾香さんの先に向ければ、校門のところに人影が。
あれは、祐也?それと・・・柚葉だ。
先週と同じ。
それまでのギャルっぽい着崩しを辞めた柚葉だ。
・・・今日は眼鏡をかけてるの?
その隣には、昨日モールで見かけたギャルっぽい子。
そうだ、あのビビッドレッドと黒髪のツートンは、あの時の子だ。
そっか、うちの学校の子だったんだね。
私に直接の面識はなくても、祐也や柚葉との繋がりがあったんだ。
という事は、私もどこかで会ってたって事か・・・。
それが誰かまでは判らなかったけど、でもひとつ納得がいった。
今はそれで充分。
きっとこれから先に、彼女とも縁が深まる事もあるのだろう。
「お~い、おはよう~っ!!」
そんな私の考えなど、どこ吹く風。
嬉しそうな顔で大きく手を振る綾香さん。
その声が届いたのか、こちらを向いて手を振ってくれる三人。
「おはよ~っ!!柚葉っ!碧さんっ!」
・・・
え?
えぇっ??
あまりの事に足が止まり、目を大きく見開く。
隣で肩を並べる真も、思わずあんぐり・・・。
『え?碧さんって・・・碧さん?』
多分、私たちが考えてる事って、こんな間抜けな事だと思う。
碧さんは優等生で、優しくて清楚で、控えめでお淑やかな可愛い人。
いつもニコニコと微笑んでいて、騒がしい事や派手な事には近づかず、静かに過ごしてる人。
だから、真は碧さんがバイトを始めたって言った時に驚いたんだし、『岡本琢磨』が柚葉や碧さんに再接触して来た時に、『危ない』と思って祐也にフォローを頼んだのだから。
それが・・・。
ふたり、顔を見合わせた後、ゆっくりと歩を進める。
よく見れば、校門あたりの人も皆、戸惑いなのか驚きなのか、歩を止め、あるいは気まずそうに足早に通り過ぎる。
私たちだって、知らずに顔を合わせれば、彼らと同じリアクションだったかもしれない。
・・・それはそれで、自然だけど。
でも、仮にも友達なんだし、大声で『え?どうしちゃったの?』とか『何があったの!?』なんて事は言いたくない。
・・・碧さんの選んだことを、否定するみたいで、なんか嫌だ。
そういう意味では、早めに声を掛けてくれた綾香さんに感謝・・・かな?
もちろん、足を止めたところは見られてるだろうし、それが意味するところも碧さんは判っているだろうけど。
「綾香お姉ちゃんに感謝・・・かな?」
聞こえないように、小さく呟く。
視界の隅で、小さく笑う真。
「・・・何よ」
もう一度、優しく笑う。
「・・・別に」
そう言って、楽しそうな顔をして見せる。
前を見れば、四~五人分ほども先を、速足で進む綾香さんがいる。
釣られるように、僅かに歩を早めようとした途端に、真の姿が一歩先にある。
『タッ』という、靴音が聞こえた気がした。
少しだけ振り向いて、
「さっ!瑠璃もっ」
手を伸ばして、私の手を取る。
・・・力の入らない左手で。
だから・・・
・・・
笑顔で握り返して、頷き、私も坂を蹴る。
・・・
「おはよう、綾香さん」
「おはよ~っ!・・・柚葉は眼鏡始めたの?」
うん、と頷く柚葉ちゃん。
少し微笑んで、ブリッジに軽く触れる。
「でも、まだ慣れなくて・・・」
困り眉なのも可愛いけど、俯きながら眼鏡のつるを触る。
眼鏡を掛けるのも慣れだというけど、やはり最初は違和感があるのかな?
「・・・変・・・かな?」
少し照れたような顔で、祐也を見る。
桜色に染まった頬が、とても愛らしい。
もちろん、今までのような明るい笑顔も可愛かったけれど・・・。
「そんなっ!よく似合ってるし、可愛いよ」
「・・・そう」
真っ赤になって下を向く柚葉ちゃん。
・・・あれ?
柚葉ちゃんって、こんな顔するの?
いつも明るくて、元気で。
俺の周りで『可愛い』女の子と言えば、柚葉ちゃんが自然に上がるくらいだったけど。
でも、誰かに『可愛い』って言われても、『それ、似合ってるね』って言われても、明るい笑顔を返していたのに。
その柚葉ちゃんが、真っ赤に?
・・・
やっぱり、数日休んだ後だし、少し思うところもあるのかな?
「碧さんも、髪キメてきたね~っ!あの美容院、良かったでしょ!?」
綾香さんの声が、今度は碧さんに飛ぶ。
「えぇっ。時間は掛かりましたけど、本当に良くして頂いて・・・。春日さんに感謝です」
「あはは~っ春日さんって。キヨちゃんって呼んであげてよ。本人も喜ぶんだし」
あぁ、見た目は変わったけど、話し方や表情はいつもの碧さんだ。
・・・メイクも強めだし、結構変わった印象だけ・・・ど?
「着崩してみて、改めて思うけどさ。・・・碧さんって、スタイル良いよね・・・腰ほっそっ!」
そう言って、カーディガンを巻いてる腰のあたりに顔を近づけ、さらには触りだす綾香さん。
「えっ?えぇ・・・そ、そうですか?」
「うん、出るとこ出て、絞るところ絞ってるもの。絶対好きっ超好きっ!太もものむっちり感も最高過ぎない?大好きなんだけど!?」
・・・コメントがおじさんのそれなんだけど、良いの?綾香さん・・・。
「ねぇっ!真ちゃんもそう思わない!?」
って、俺に流れ弾飛んできたしっ!
えぇ・・・どう答えるのが良いんだろう。
変な事言うと・・・気持ち悪がられたりしないかな・・・。
少しだけ・・・目線を送って瑠璃に助けを求めるけど、
「昨日、モールで見かけたの碧さんだったんだ~・・・」
と、何やらひとりで得心している。
こうなったら・・・




