5-14 俺は、優しくなんてない。
5ー14 俺は、優しくなんてない。
俺は、バサラティ王に訊ねた。
「この話をなぜ、俺にしたんです?」
「姫とあまり馴染んでいない君なら、真実を受け入れやすいと思ったからだ」
バサラティ王は、答えた。
「君なら取り引き相手に相応しい」
「取り引き?」
「ああ」
バサラティ王は、頷いた。
「私と取り引きをしないか?勇者 カナメよ」
「どんな取り引きですか?」
俺がきくと王は言った。
「私がこの秘密を黙っている代わりに、君は、クリスティア王国に捕らえられている私の娘 アデルを救い出して、私のもとへ連れ帰ってもらいたい。もちろん、私が黙っているのは、姫のことのみだ。君が娘を無事に救い出してくれれば、カリファのことは、ホムンクルスだと証言しよう」
うん。
俺は、少し考えていた。
姫は、このままだと本当の一人ぼっちだ。
父も母も、いない。
ほんとの一人っきり。
「あなたの頼みをきいてもいい。ただし、条件がある」
俺は、言った。
「あなたが、秘密にするのは、姫のこととカリファのこと、両方だ」
「なぜだ?」
バサラティ王がきいた。
「姫だけが救われれば充分だろう?」
「いいんだよ」
俺は、答えた。
「あなたは、関係ない。俺たちの国の話だ。あなたは、しっかり口を閉じていてくれればいいんだ」
「わかった」
バサラティ王は、了承した。
「ところで、その奴隷も知ってしまったわけだが、どうするね?カナメ殿」
俺は、ちらっとホリィの方を見た。
ホリィは、青ざめて立ち尽くしている。
俺は、はぁっと溜め息をついた。
ピコン、と音がした。
『記憶操作しますか?』
仕方がないな。
俺は、ホリィの記憶を消すことにした。
バサラティ王と俺が話したことについて、ホリィは、なんにも覚えてはいない。
その方がいいだろう。
「心配しなくってもいいから」
俺は、ホリィに言うとそっとその額に触れた。
一瞬のことだった。
はっと気づいたホリィが俺にきいた。
「わ、わたし、いったい、何を?」
「大丈夫」
俺は、ホリィに微笑んだ。
「何もなかったんだ。帰ろうか、俺たちの国へ」
俺は、バサラティ王直々の見送りで王宮を後にした。
俺とホリィは、バサラティ王国の国境を抜けると地竜に乗り込みエレクシア王国へと向かった。
もう、辺りは、秋の風が吹いていた。
ホリィがくしゃみをしたので、俺は、ストレージからローブを1つ取り出してホリィに渡した。
「ありがとうございます」
ホリィが微笑んだ。
「あなたは、お優しい方ですね、カナメ様」
「俺が?」
俺は、答えた。
「俺は、優しくなんかないよ」
本当に。
俺は、思っていた。
俺は、決して優しくなんてない。
ただ。
この世界にたった1人の姫と、姫と同じ立場のカリファを同じ血族として認めることにしただけ。
それだけのことだった。




