5-6 観光ですか?
5ー6 観光ですか?
地竜のスピードは、時速80キロぐらいの速さだ。
このスピードで、エレクシア王国からバサラティ王国までを約10日間で往復する。
その間、乗客は、地竜の背中にあるホテルで缶詰状態になるのだ。
だが、スピードのわりに揺れも少ないし、快適な旅だといえた。
俺の他には、二十人くらいの乗客が乗り込んでいたが、俺は、たまたま、その中の中年の夫婦連れの行商人と知り合いになった。
その薬を扱っているという夫婦は、エレクシアの国民でもと奴隷だったのだという。
彼らは、俺にきいた。
「あなたは、バサラティに観光で行かれるのですか?」
この時期のバサラティは、ちょうどカジカの祭りの頃だとかでビジネスより観光で訪れる人の方が多いのだという。
カジカの祭りというのは、昔話をもとにした祭りで、一年に一度、願い事を書いた魔力を込めた珠を空に飛ばすという祭りだとか、姫が言っていた。
俺は、この世界の祭りなんて、あまり見たことがなかったので、ちょっと楽しみにしていた。
俺は、その夫婦に頷いた。
「そうです。カジカの祭りは、初めてなのでとても楽しみです」
ちょっとだけ、俺は、アズミちゃんを残してきたことを後悔していた。
きっと、この祭りに連れていってやれば喜んだのだろう。
それに、男が1人で祭り観光って。
ちょっと、怪しい感じがするかも。
だが、その夫婦は、なぜか、俺にわかりますよ、という笑顔を向けてきた。
「そうですか。この祭りは、昔、巫女の娘であるカジカ様が失った恋を天に返したという物語がもとになっているそうですからね。きっと、あなたもカジカ様のご加護があることでしょう」
ええっ?
もしかして、この人たち、ちょっと誤解してる?
俺が失恋してそれを癒すために1人旅をしてるって思ってますか?
俺は、溜め息をついた。
うん。
まあ、いいんだけどな。
俺は、その夫婦に訊ねた。
「あなた方も祭り目当てですか?」
「はい」
白髪の混じった茶色の髪の奥さんが答えた。
「娘が、バサラティの都の魔法学校に、この春から入学したんです。本当なら、私たち家族にこんな幸せは、なかったはずなのですが。全ては、私たちを奴隷から解放してくださった、クリスティア女王様のおかげでございます」
そうなんだ。
俺は、誇らしげに娘のことを語る夫婦を見て、嬉しくなった。
いや、姫は、何もしてないけどな。
でも、幸せな人を見るのは、嬉しいことだ。




