この機会でなければ
どうやらこの世界では特殊な魔法であるらしい、浄化の魔法。
やはりそれらが使えるのも一応は“聖女”だからだろうか?
といった新たな情報を得た私。
さらに進んでいくと蝙蝠のような魔物が現れたが、リーンフリークスが手を振ると何処かへと去っていった。
「リーン先輩は魔物を操れるのですか?」
「操っているわけではないよ。もともと顔見知りなだけだよ」
「魔物と顔見知りなのですか」
面白い人だなと思ってリーン先輩を見上げる私だが、そこで再びリーン先輩は何かを思いついたらしく嗤う。
「この洞窟は元々、“竜”が住み着いていて、いわば住居のようなものだった。その“竜”には色々な噂が付きまとっていたという。巨大な力を持つその“竜”はとある村に貢物を要求し、町を一つ破壊した。そしてあるとき一人の“聖女”を連れ去ったと言われている」
マリアが一瞬びくりと震えたが、私としては、そこはお姫様じゃないのかな? という気がしないでも無かった。
途中、再び魔物と遭遇する。
今度は蛇の魔物だがリーンフリークスを見て、そのままどこかへと消えていく。
まるでこの洞窟の支配者のようだと私は、リーンフリークスを思う。
そこでリーンフリークスが告げる。
「その“聖女”は姉妹の姫であったらしい。その妹姫を攫った“竜”だが、初めはただ単に“聖女”として有名な姫のどちらかに興味を持った、だけだった。けれど攫い、共にいるうちにその“竜”はその“聖女”に恋をしてしまったらしい。それ故に、この洞窟の誰にもたどり着けないような奥深くに、“聖女”を連れ去ってしまったという」
楽しそうに歌でも歌うように語るリーンフリークス。
そうなのか~、と思った私の手をクロードが握る。
どうしたんだろうと思っていると私の前にクロードが出る。
クレイもマリアの前に出てリーンフリークスを警戒しているようだった。
そんなクロードとクレイに相変わらず微笑みながらリーンフリークスは、
「おや、どうしてそんなに警戒しているのかな?」
その問いかけに答えたのはクレイだった。
「もしもお前が“竜”だったならその、誰にも辿り着けない場所にマリアを、“聖女”だから連れていくかもしれない」
「どうだろう? もしかしたら、そちらの“聖女”ではないかもしれない」
そこで意味ありげにクロードをリーンフリークスは見る。
私の場所からはクロードが背を向けていて、クロードがどんな表情をしているのか分からない。
ただ今の話を聞いていると、
「リーン先輩は、私を捕まえる?」
「そうかもしれない。“聖女”で可愛いからね、ミドリちゃんは」
そう言いだしたリーンフリークスを見て私は以前放した時に聞いた、“悪趣味”が出たと気付いたので、
「天井も道だよね?」
「うん、冗談だから、天井を壊すのは止めてね」
あっさりとその言葉にリーンフリークスは手のひらを返した。
この洞窟はリーンフリークスにとっても大事そうだったのでうまくいったのだろうと私は思う。
大事でなければ、“黒の影”の影響やここの魔物達を見送るリーンフリークスの様子が優しげにはならないだろう。
そうして更にいくつもの道を曲がったりしながら進んでいく。
どう考えても案内人なしで動くには危険な洞窟だった。
そして歩いていたマリアが、
「どうしよう、全然道が分からない」
「いざとなったら、根性で連れ出すから安心しろ」
「うん、クレイ」
クレイの名を呼んでマリアが嬉しそうに笑う。
クレイをマリアはとても信頼しているようだった。
この人たちの関係、どういう関係なのだっけと思った私は、ふっと脳裏に様々な情報があふれ出る。
どうやらかけた記憶は、切っ掛けを元につながり連鎖的浮かび上がるようだ。
そこでクロードがリーンフリークスに、
「“聖女”を連れて、どうして“今”見に行こうと思った?」
「“闇の影”の動きもあるし、ミドリちゃんがそこにはないよというのも気になったのだけれど……やはり、“聖女”のためのアイテムが本当はどの程度効果があるのかがこの目で見てみたい、というのもあるのかな」
「好奇心が最優先ですか」
「……どうだろうね。でも、幸運の女神様は前髪しかないから走り去った後では遅く、来た時に前髪を掴むしかない、ともいう」
「この機会でないと実際にどの程度効果があるのかが見れない、と?」
「うん、ここに“聖女”が来たのは百年以上前だからね。この機会でないと僕も、それを見ることはできないだろうね」
そう告げたリーンフリークスの目の前に、更に隠し扉が洞窟の中で現れたのだった。
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