何を忘れているんだっけ
こうして魔法を見せて授業をクリアした私達。
もしクリアできないと、次の回に持ち越しで、三回に一回ずつ期限があるらしい。
なのでこの授業をクリアする戦略として、あらかじめ一つ魔法を覚えておき三回の間は適当に図書館内で時間をつぶすという物もあるらしい。
「それも手だったのだろうか」
「ミドリ、ミドリはこの世界に来たばかりだから、この世界に馴染むという意味でも特殊能力だよりは良くない。というわけで魔法を少しでもいいから覚えるぞ」
「はーい」
「それでさっきの魔法、呪文は覚えたか?」
「うん」
「……ミドリは記憶力がいいな」
呆れたように私はクロードに言われるが、私としては、
「私はそんなに記憶力が良くないよ? でも何て言うのかな? 口ずさんでみると、“とてもよく知っている歌詞”を口にしているようなそんな感じになるんだ。なんでだろう?」
「……ミドリに覚えさせる魔法は俺が選択する。あまり魔法を覚えさせると、もしかしたらミドリと魔法との“境界”が曖昧になってしまって、自我が消えるかもしれないからな」
「……今、すごく怖い事を言われた気がする」
「言われたんだよ。全く、また余計な仕事が俺に増えた」
そうクロードが小さく愚痴を言う。
けれどそれは、私が“私”でいられるようにしてくれるという意味で、
「私の事を心配してくれているんだ」
「それはまあ、折角呼んだ“聖女”だしな」
「でも自我があまりない方が扱いやすいんじゃないのかな?」
「……面倒だなとは思っているけれど、ミドリの事は“気に入っている”んだ、俺は」
そう言って、そっぽを向いてしまうクロード。
クロードは素直じゃないし、言葉も時々傲慢さがにじむけれど、本質の部分は“悪い人”じゃなくてむしろ“優しい”と私は思っている。
以前それを口にしたらクロードは凍り付いた後、頭痛がするからそれ以上言わないでくれと言われた。
どうやら精神攻撃にこれは使えそうである。
対、クロード用の言葉攻めに設定しておこうと私は決めた。
そんなことを考えていた私はそこで、ある人物たちに気付く。
「おーい、マリア~!」
「あ、ミドリちゃん、授業が終わったのですか?」
「うん、新しい魔法を覚えたよ!」
「異世界からいらしたのにすぐ魔法が使えるのですか。羨ましいです」
マリアにそう言われたが、なんだかよく分からないけれど使えたと告げると困ったような顔をされて次に、近づいてきたクレイに、
「またマリアに変な事を吹き込んでいるのか?」
「吹きこんでいないよ。ちょっと新しい魔法を覚えたって話しただけ」
「……異世界から来たばかりなのにもう覚えたのか」
「うん、見せてみようか?」
「……やってみろ」
クレイに言われたので私は呪文を口ずさみ魔法を使う。
使えるようになった魔法は、“虹の祝福”。
それを見せるとクレイは目を丸くして、
「それは、高度な魔法じゃないか! まさかそんな魔法が口にするだけで出来るようになるなんて……異世界人はそんな規格外なのか?」
恐る恐るといったようにクレイがクロードに聞くが、クロードは少し考えるように黙ってから、
「異世界の常識がこの世界の“常識”の外にあるんだろう。まあ、意思の疎通もできるし倫理感もあるから、今の所は大丈夫だ。いざとなったら俺が命懸けで止めるから安心しろ」
その時のクロードの瞳は、私が今まで見たものの中で一番“冷たい”物だった。
覚悟があって、真剣だったと思って、あまりこの話題は聞きたくないなと思いつつ、何かを忘れているような気がした。
「何を忘れているんだっけ。……そうだ、マリアも“聖女”だったんだ!」
そう私が思い出したのだった。
評価、ブックマークありがとうございます。評価、ブックマークは作者のやる気につながっております。気に入りましたら、よろしくお願いいたします。




