唱えただけで上手くいく
それから、魔力を抑える練習をすることに。が、
「魔力少な目~、ほいっと、“欠片の水”」
「……本当にコップ一杯の水くらいになっている」
二回目は普通のコップ一杯くらいの水が地面に落ちていくのが見える。
どうやら私が“少な目で”、や、コップ一杯と想像すると上手く実行されるようだ。
今の所はそこまで複雑でないためか上手くいっているようだ。
とりあえず二度目をやって見せた私はクロードに、
「どう? これでいいのかな? 魔法制御?」
「……普通、こんな簡単に魔力を動かしたりできないはずなのに。異世界から呼び寄せたから、魔法との親和性がいいのか? それとも、言語適正自体がそもそも魔法やこの世界に適応しているから……いや、良よそう。そろそろミドリはただのこういった“生命体”だからで済ませておこう。考えれば考えるほど頭がこんがらがっていくし」
「思考停止は、退化の始まりだよ」
「いや、考えても分からなそうなことは飛ばさないと時間の無駄だからな。それで、この調子だと、今の学年にあった魔法もミドリは使えそうだからそれを覚えよう」
「じゃあ炎の魔法がいい! 明るくて七色に輝くような!」
「……そんな大道芸みたいな魔法、あったかな……あった」
そこでクロードが、青い本を引っ張り出してきた。
背表紙には“色彩の魔導書”と書かれている。
属性を色で分けて章ごとに区切られているようだ。
今見ているのは赤い炎のページだ。
見ると“虹の祝福”という魔法であるらしい。
七色の炎を次々と生み出して攻撃するらしいのだが、
「青い炎は敵を凍らせる……それって炎なのかな?」
「炎に偽装した氷魔法だな。炎の魔法だと思って防御した相手に氷の魔法をぶつける、といった奇策の魔法の一種だ。それもこれは七色だから、それぞれが違う効果があるみたいで、でもそのうちの幾つかは炎に関係するものらしい。相手がどんな防御をしているのか分からない時はとりあえずこれをぶつけておけば何とかなるだろう、といった感じか」
つまり、どれが効果があるのか分からないので全部攻撃してみたよという……色々とどうしようもなくなった時に使う技であるらしい。
けれど七色というあたりが綺麗に思えたので、
「私、この魔法を覚えたいかも」
「……ミドリが自発的に覚えたいと言っているし、いいか。じゃあここにある呪文を唱えるんだ」
「呪文が必要なんだ?」
「普通は呪文や魔法陣や杖が必要なんです。ミドリ、お前のあの特殊能力を基準にするな、いいな?」
「はーい」
私はそう答えながら、呪文を口ずさんでいく。
それはそこまで長くないものだった。
そして口にすると、滑らかに言葉が舌の上で踊る。
するりと言葉が私の中に入ってくる。
『空の影に生まれしは、光の欠片
落ちて砕けたその色は、かつてを夢見て旅立つだろう
一つは炎に、一つは風に、一つは雷に、一つは水に
別れし瞬きは、その身を焦がし
新たな姿を現すだろう……“虹の祝福”』
呟くと同時に私の手の平に、小さな魔方陣とその上に七つの炎のようなものが現れる。
それぞれが小さく輝いて綺麗だ。
小さめ小さめと願ってちょうどいい大きさに私は思えた。
そこでちらりとクロードを見ると私と同じように成功している。
「チュートリアル君も上手くいったね」
「当然だ。でもミドリも唱えただけで上手くいくんだ」
「? 行かないものなの?」
「普通はいかない。……そしてミドリが敵に回ったら危険だな」
ちらりと皮肉を滲ませてくるクロードに私は、
「そもそも私は元の世界に帰りたいから、チュートリアル君側だと思う」
「だが、他の人間が唆してくるかもしれない」
「でも、“闇の影”は“嘘つき”だから信用できないよ」
「……俺、まだミドリにその話はしていないぞ?」
「そうだっけ? まあいいや。事実なら問題ないでしょ」
「いや……うん、もういいや。とりあえず今の魔法を先生に見せて、この授業を終わらせよう」
もう何もかも考えるのが嫌になったとでもいうかのように、クロードがそう答えたのだった。
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