表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣豪・佐々木小次郎の異世界放浪記。〜ポンコツ女神と雑草食う人魚姫を拾ったので、物干し竿一本で最強の保護者になります〜  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/30

EP 8

飛来する怪魚と、ホーリー・スマッシュ(物理)

 冒険者ギルドで請け負った討伐任務のため、拙者たちは街の外れを流れる大河へとやってきていた。

「ピ・ラ・ダ・イ! ピ・ラ・ダ・イ! 塩焼き、煮付けにお刺身だぁー!」

 紫の芋じゃあじ姿のリーザが、手頃な木の枝を片手に謎の舞を踊っている。すでに頭の中は凶暴な魔獣ではなく、高級魚のフルコースで一杯らしい。

 その隣では、桃色の『たろーまん』製じゃあじを着たリリスが、どこで買ったのか三色団子をモグモグと頬張っていた。

「んむんむっ……小次郎さん、川の中、なんか黒い影がいっぱいウネウネしてますぅ」

 胸元の若葉マークの刺繍を誇らしげに揺らしながら、リリスが川面を指差した。

 彼女の言う通り、川底には異常な数の巨大な影がうごめいていた。

 大きさは腕ほどもある。それが何百匹という群れを成し、水面からギザギザの凶悪な牙を覗かせているのだ。

「なるほど、あれが『ぴらだい』か。確かに凶暴そうな面構えよな」

 拙者は煙管を咥え、静かに『備前長光』の柄に手を添えた。

 だが、いささか分が悪い。

「……水の中では、剣の威力が削がれる。いかに神速の太刀といえど、水の抵抗を完全に殺すことはできん」

 飛び込んで撫で斬りにするのは容易いが、水飛沫で泥まみれになるのは御免であった。

「ふふん! ならば私の出番ですね!」

 串焼き用の枝を構えたリーザが、えっへんと胸を張った。

「人魚姫の権能で、水流を操ってあいつらを陸に打ち上げちゃいます! いくよーっ、それっ!」

 リーザが川に向かって両手を突き出す。

 すると、川の表面がボコボコと沸き立ち、一本の水柱が立ち上がった。水流に巻き込まれたピラダイたちが「ギギギッ!」と奇声を上げて宙に浮く。

「すごい! リーザちゃんすごいですぅ! 私も『えんじぇるすまーとふぉん』で支援しますね!」

 団子を飲み込んだリリスが、分厚いハードケースに入った板――神の道具を取り出した。

「えっとえっと、川から飛び出たお魚が、そのまま地面にドスンと落ちるように……アプリ『重力ドカーン』を、タップですぅ!」

 ぽちっ。

 ピロリン♪

 気の抜けた音が鳴った。

 リリスの指先を見ると、狙った印の隣にある『大跳躍ばいーん』という文字を押してしまっていた。

「……あ」

 リリスが顔を引き攣らせた、その瞬間。

「ギギギギギギギッッ!!」

 宙に浮いていた数十匹のピラダイたちが、空中で見えないトランポリンを踏んだかのように、凄まじい勢いでこちらに向かって弾け飛んできたのだ。

「ひゃあああああ!? お魚がミサイルみたいに飛んできましたぁぁぁ!」

「ちょっとリリス様ぁ!? ご飯が凶器になってますよぉ!」

 空を覆い尽くす、牙を剥き出しにした魚の群れ。

 それが、弾丸のような速度で拙者たちに降り注ぐ。

「……大儀である、リリス殿。水から出てくれれば、あとは斬るだけよ」

 拙者は深く息を吸い、姿勢を低くした。

 三尺の物干し竿が、音もなく鞘から放たれる。

「――飛燕ひえん、乱れ斬り」

 シャンッ、シャシャシャンッ!!

 空中に、無数の銀の軌跡が描かれた。

 弾丸のように飛来するピラダイの群れの中を、拙者は踊るように駆け抜ける。

 ただ斬り捨てるのではない。リーザが美味しく食えるよう、空中で腹を割き、内臓を抜き、三枚に下ろしていくという神業であった。

 ぽいっ、ぽいっ、ぽいっ。

「わあぁっ! 綺麗な切り身が次々と降ってきますぅ!」

 リーザが歓喜の声を上げ、空から降ってくるピラダイの切り身を器用にキャッチしていく。

 だが、その最中。

 拙者の太刀筋を運良く潜り抜けた一匹の巨大なピラダイが、あろうことかリリスの顔面を目掛けて一直線に飛んでいったのだ。

「ギガァッ!!」

「ひっ!? いやぁぁぁぁ! 私はお団子じゃないですぅ!」

 巨大なあぎとが、リリスの顔に迫る。

 拙者が刀を返すより、魚の牙が届く方が早いか――そう思った、刹那。

「こっちこないでぇぇぇっ!!」

 パニックに陥ったリリスが、両手で握りしめていた分厚いハードケース付きの『エンジェルすまーとふぉん』を、フルスイングで振り抜いた。

 ――ガァンッ!!!

 鈍く、そしてエグい破砕音が響き渡った。

「ギュビェッ!?」

 ピラダイの顔面のど真ん中、眉間みけんの急所に、スマートフォンの『もっとも硬く尖った角の部分』が、クリーンヒットしていた。

 どんな魔法装甲すら無視する、純粋にして最悪の物理攻撃。

 目玉をひん剥いたピラダイは、そのまま白目を剥いて地面にドサリと落ち、ピクピクと痙攣して事切れた。

「……ゼェ、ゼェ……や、やりましたぁ……!」

 肩で息をするリリスが、へなへなとその場に座り込む。

 胸元の若葉マークが、誇らしげにピコピコと輝いていた。

「……見事な一撃であったぞ、リリス殿」

 拙者は刀を血振るいし、鞘に納めて歩み寄った。

「その分厚い板の『かど』を狙い澄まして眉間に打ち込むとは。いかなる魔術よりも、純粋な質量と角度の暴力こそが真の脅威。……お主、暗器使いの才能があるかもしれんな」

「えへへ、それほどでも……って、魔法の褒め言葉じゃないですよねそれ!?」

 最終奥義『ホーリー・スマッシュ(物理)』の威力を遺憾なく発揮した新米女神に、拙者は思わず笑みをこぼした。

「よしっ! 新鮮な切り身がいっぱいです! 早速塩焼きにしましょう!」

 大漁のピラダイを前に、リーザがヨダレを拭いながら薪を集めようとした。

 だが、討伐任務はまだ終わっていなかった。

 ゴゴゴゴゴ……ッ!!

 突如、川面が爆発したかのように大きく盛り上がり、巨大な水柱が天を突いた。

「な、なんですかぁ!?」

 水飛沫の中から姿を現したのは、先ほどのピラダイとは比べ物にならない、牛ほどもある超巨大な魚のバケモノであった。

「……ほう。あれがヌシとやらだな」

 拙者は再び鞘に手をかけ、不敵に笑う。

 腹ごしらえの前の、最後の一仕事といこうではないか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ