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剣豪・佐々木小次郎の異世界放浪記。〜ポンコツ女神と雑草食う人魚姫を拾ったので、物干し竿一本で最強の保護者になります〜  作者: 月神世一


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EP 4

人魚姫の事情と、パンの耳が実る奇跡

「……して。シーラン国の王女ともあろう者が、なぜこのような森の奥で草を食んでいるのだ」

 死蜂の死骸を片付け、川のほとりで一息つきながら、拙者は煙管を吹かして尋ねた。

 リーザと名乗ったその人魚の娘は、紫色の『いもじゃーじ』の膝を抱え、マヨネーズのついた口元を腕で拭った。

「元々は、ルナミス帝国との親善大使として来たんです。でも……私、歌うことの喜びに目覚めてしまって!」

 リーザは急に立ち上がり、川辺の石を舞台すてえじに見立てて登った。

「『愛! アイ! ラ〜ブラブ!』って、自分で歌って踊る地下アイドルになったんです! でも、アイドル業は衣装代とか場所代とか、維持費がかかって……気がついたら全財産がスッカラカンに!」

 娘はあっけけらかんと言い放った。

「今は、ルナミスマートの試食コーナーとか、公園のハトの餌やりのオジサンから餌を分けてもらったりとか、タローソンの廃棄弁当を野良犬と奪い合ったりして、力強く生きてます! アイドルは施しは受けない主義なので、この草も立派な自給自足です!」

「…………」

 自給自足の言葉の意味を違えている気がしてならないが、要するに『極貧』ということであろう。

 一国の姫君が、野犬と飯を奪い合い、雑草に調味料をかけて飢えを凌いでいる。あまりにも不憫であった。

「うぅ……っ、ひぐっ……!」

 隣で、ずびずびと鼻をすする音がした。

 見れば、見習い女神のリリスが大粒の涙を流し、桃色のじゃあじの袖を濡らしている。頭上の初心者マークも、悲しげに青白く点滅していた。

「リーザちゃん……そんなに苦労してたなんて……っ! アイドルなのに、ハトの餌や野良犬と争うなんて、可哀想すぎますぅ!」

「えっ、別に可哀想じゃないですよ? ハトには三戦全勝してますし」

「だめです! 私が、女神の力で美味しいお腹いっぱいのご飯を出してあげます!」

 リリスは涙を拭い、懐から『神導らくらくスマートフォン』を取り出した。

「えっとえっと、飢饉を救う『豊穣の奇跡』のあぷり……これですね! 対象はこの野原の雑草全部! 黄金の小麦よ、実れぇーっ!」

 リリスが、デカ文字の画面を力強く叩いた。

 ピロリン♪

 またしても、気の抜けた音が鳴り響く。

「ああっ!? 手が滑って『小麦』じゃなくて、『加工食品』の項目を押しちゃいましたぁ!」

 ボフゥン!

 その瞬間、野原一帯を眩い光が包み込んだ。

 光が収まった後、拙者は我が目を疑った。

 なんと、川辺に生い茂っていた青々とした雑草が、すべて茶色く細長い『棒状の何か』に変化していたのだ。

 しかも、ほのかに甘く香ばしい匂いまで漂っている。

「……リリス殿。これは、何だ?」

「や、やっちゃいました……。これ、全部『調理済みのパンの耳』ですぅ……。豊穣の奇跡なのに、中身がなくて耳だけ実っちゃいましたぁぁぁ!」

 リリスが頭を抱えてしゃがみ込む。

 やはりこの女神、奇跡の一つもまともに起こせぬらしい。どこまでも間の抜けた――。

「――っ!? ぱ、パンの耳!?」

 だが、その光景を見たリーザの反応は違った。

 彼女は石の舞台から転げ落ちるように飛び降り、地面から生える『パンの耳』を一本引き抜いた。

「サクサクしてる……! しかも、ほんのり砂糖がまぶしてある、おやつ仕様のパンの耳……!」

 リーザはそれを口に咥え、信じられないものを見るようにリリスを見つめた。

 その瞳から、滝のような涙が溢れ出す。

「め、女神様ぁっ!!」

「ひゃうっ!?」

 リーザはリリスにすがりつき、地に額を擦り付ける勢いで拝み始めた。

「パンの耳が実るなんて、奇跡です! これならマヨネーズをつけても最高に美味しいし、三日は食いつなげます! あなたは私の、パンの耳の女神様ですぅぅ!」

「えっ? あ、あれ……? 私、もしかして感謝されてます?」

 先ほどまで落ち込んでいたリリスが、手のひらを返したようにえっへんと胸を張った。頭上の初心者マークが、得意げに黄金色に輝いている。

「ふふん! 女神たるもの、迷える子羊のお腹を満たすのは当然の義務ですからね!」

「一生ついていきます、パンの耳の女神様!」

「もっと崇めてもいいですよぉ!」

 ……地獄絵図であった。

 パンの耳をむさぼり食う人魚と、それを自慢げに見下ろすポンコツ女神。

(……やれやれ)

 拙者は深くため息をつき、煙管の灰をトントンと落とした。

 このままでは、二人とも遠からずパンの耳と雑草しか食えぬ体になってしまうだろう。

「リリス殿、リーザ殿。その妙なパンの耳の収穫が終わったら、街へ向かうぞ」

「街ですか? 小次郎さん、お金持ってるんですか?」

 リーザがもぐもぐと咀嚼しながら首を傾げる。

「一文も持っておらん。だが、お主たちの言う『冒険者』とやらになれば、手っ取り早く金が稼げるのだろう? 何、その辺の鬼や魔物を数匹、撫で斬りにしてくるだけの事よ」

 拙者は物干し竿を肩に担ぎ、ニヤリと笑った。

「肉だ。街に着いたら、まともな肉を食わせてやる。パンの耳はおやつにしておけ」

「「お肉っ!?」」

 リリスとリーザの目が、獲物を見つけた獣のようにカッと見開かれた。

「小次郎さん、一生ついていきます!!」

「小次郎さんは、私の太客パトロンです!!」

 かくして、拙者という強力な『ヒモ(養い主)』を手に入れた二人の足取りは、先ほどまでの疲労が嘘のように軽くなった。

 未知なる異世界の街。

 そこに何が待ち受けているかは分からぬが、少なくとも、己の剣が通じぬ事はあるまい。

 拙者たちは連れ立って、森の出口へと歩みを進めた。

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