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剣豪・佐々木小次郎の異世界放浪記。〜ポンコツ女神と雑草食う人魚姫を拾ったので、物干し竿一本で最強の保護者になります〜  作者: 月神世一


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EP 8

デリバリー業者と、アイドルバフ

「ふ……ふざ、ふざけるなァァァッ!!」

 夜のポポロ村に、魔人ギアンの悲痛な絶叫が響き渡った。

 彼が丹精込めて作り上げ、天魔窟から連れてきた恐怖の死蟲軍団。それが今、目の前の村人たちから「エビだ!」「カニだ!」「新鮮な海鮮デリバリーだ!」と完全に『食材』として歓喜の眼差しを向けられているのだ。

「この魔人ギアンを、出前持ち(デリバリー)扱いするなど……許さん! 貴様ら全員、私の『死の糸』で永遠に踊り続ける操り人形にしてくれるわッ!」

 ギアンがピエロの衣装の袖から、無数の妖しい光を放つ『操り糸』を射出した。

 対象の神経に直接入り込み、意思を奪って肉体を意のままに操る、魔人ギアンの必殺の搦手からめてである。

「ひゃああっ! 蜘蛛の糸みたいのが飛んできましたぁ!」

 リリスが慌てて頭を抱える。

「させません! せっかくのタダ飯(海鮮バーベキュー)を邪魔する奴は、私が成敗します!」

 いち早く動いたのは、食い意地――もとい、アイドル魂に火のついたリーザであった。

 彼女はどこからともなく『みかん箱』を引っ張り出してその上に飛び乗ると、店先にいた全員に向けて高らかに歌い始めたのだ。

「絶対無敵のスパチャアイドル!

 お腹が空いたら 歌を聴け!

 御縁をちょーだい キラキラ☆キラリ

 今夜の主役は エビとカニ!」

 パァァァァッ……!!

 リーザの歌声が響いた瞬間、彼女の周囲に黄金色の音符のエフェクトが舞い散り、強烈な『バフ』が発動した。

 人魚姫の権能が乗せられた『Love & Money(今回は食欲マシマシ版)』の波動。

 これがイグニスやルーベンス、そして拙者の身体を包み込んだ瞬間、内なる闘気と魔力が爆発的に底上げされるのを感じた。

「おおおっ! なんか知らんがスゲェ力(と食欲)が湧いてきたぜェ!」

「フッ、素晴らしい高揚感だ。胃袋のアルコールが分解され、最高のコンディションで次の一杯が飲めるぞ!」

 バフによって強化された男たちの闘気オーラが、物理的な障壁となって立ち昇る。

 ギアンが放った必殺の『操り糸』は、その強烈な闘気の壁に触れた瞬間、ジジッ……と嫌な音を立てて弾き返され、チリチリと燃え尽きてしまった。

「なっ……バカな!? 私の魔糸が、こんな小娘のフザケた歌で防がれるだと!?」

 ギアンが目玉をひん剥いて驚愕する。

「あわわわわ! 私も手伝いますぅ! お食事の前は、食材を綺麗に『除菌』しないとだめですよね!」

 リーザの活躍を見て焦ったのか、見習い女神のリリスが、分厚いハードケースに入った『えんじぇるすまーとふぉん』を取り出し、画面を慌ただしくタップし始めた。

「えーっと、たしか『神聖浄化クリーン』のアプリが……あ、あれ? これ全選択になっちゃってます? えいっ、これでお掃除ですぅ!」

 リリスが、適当に画面をスワイプした、その直後。

 ――ピキィィィィンッッ!!!

 夜空を真っ二つに割るような、神々しくも暴力的なまでの『極大の聖なる光』が、上空から死蟲軍団のど真ん中へと降り注いだ。

 それはただの除菌魔法などではない。

 テンパったリリスが操作をミスり、最高位の神聖魔法である『大いなる浄化のホーリー・サンクチュアリ』の出力をMAXにしてブッ放してしまったのだ。

「ギ、ギャァァァァァッ!?」

「ピギィィィッ……!!」

 死蟲機たちは、邪悪な魂と暗黒魔力で駆動する魔道機械である。

 そこに、一切の手加減がない女神の純度100%の神聖エネルギーが直撃した結果どうなるか。

 バチバチッ! シュゥゥゥ……。

 死蟻や死蜘蛛の体内を巡っていた瘴気しょうきが、一瞬にして『完全浄化』された。

 動力源である悪意を綺麗サッパリ消毒された死蟲機たちは、一切の動作を停止し、ピクピクと痙攣したまま、その場に完全麻痺状態で崩れ落ちたのだ。

 しかもご丁寧に、神聖な光で甲殻の泥汚れまでピカピカに洗浄されている。

「……あ、あれ?」

 リリスがスマホを持ったまま、キョトンと首を傾げる。

 目の前には、完全に無力化され、下処理(洗浄)まで完璧に終わった『極上のエビとカニ(死蟲機)』の山が、綺麗に並べられていた。

「え、ええええええええっ!?」

 ギアンが、悲鳴ともつかない声を上げてその場にへたり込んだ。

 手塩にかけて育てた悪逆非道の軍団が、一人のポンコツ女神の操作ミスによって、一瞬で「ただの新鮮な魚介類」へとランクダウンさせられてしまったのだ。

「……見事な下処理だ。これならすぐに鍋に入れられるぞ」

 厨房の奥から、龍魔呂が感心したようにボソリと呟く。

「ひ、ひぃぃ……っ! バケモノだ、貴様ら全員バケモノだぁ!」

 ついに魔人ギアンの心が完全にへし折れた。

 彼は大鎌を放り出し、震える足で後ろずさりしながら、天魔窟の方向へと逃げ出そうと背を向けた。

「……待て」

 だが、その背後に、低く冷たい声が響いた。

 紫煙をくゆらせた着流しの男。

 佐々木小次郎が、ゆっくりと『備前長光』の柄に手をかけて、ギアンの退路を塞ぐように立ち塞がっていた。

「宴の席を荒らした落とし前。……キッチリとつけてもらおうか、無粋なデリバリー業者殿」

 最強の剣豪による、容赦のない「お仕置き(逆ざまぁ)」の時間が、いよいよ始まろうとしていた。

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