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剣豪・佐々木小次郎の異世界放浪記。〜ポンコツ女神と雑草食う人魚姫を拾ったので、物干し竿一本で最強の保護者になります〜  作者: 月神世一


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EP 10

ポポロ村の用心棒(最強の保護者)

 天魔窟から溢れ出た死蟲しちゅうの群れは、ポポロ村の自警団と拙者の剣によって完全に殲滅された。

 広場に散乱する魔道機械の残骸と、緑色の体液。それらを前に、村人たちは勝利の歓声を上げるどころか、手慣れた様子でテキパキと『解体作業』を始めていた。

「っしゃァ! この甲殻、戦車の追加装甲に使えるぜェ!」

「魔石はこっちや! 傷つけんように丁寧に抜きや! これ全部ルナミスに裏ルートで卸したら、今年の村の予算が三倍になりまっせ!」

 イグニスが巨大な斧で残骸を叩き割り、ニャングルが算盤そろばんを弾きながら指示を飛ばしている。

 先ほどまで気絶していたルナミス帝国の徴税官は、いつの間にか身ぐるみ(服から下着まで)を剥がされ、「送料着払い」の札を貼られて魔導車の荷台に放り込まれていた。情け無用にも程がある。

「……小次郎。あんた、とんでもない剣を使うのね」

 カチャリ、と金属音を鳴らして、紅蓮の鎧を着た戦乙女――自警団リーダーのダイヤ・マーキスが歩み寄ってきた。

 彼女は拙者の腰にある『備前長光』を、畏敬の念が入り交じった目で見つめている。

「私は『ウェポンズマスター』のスキルで、どんな武器でも最適解で扱える。でも……あんたのあの『燕返し』だけは、どうやっても再現できない。刀で空間を三分割するなんて、物理法則を完全に無視してるじゃない」

「何、ただ速く振っただけのことよ。それに、お主の采配も見事であったぞ。あの鉄の車(戦車)の砲撃、実に小気味良かったわ」

 拙者が煙管きせるを吹かしながら言うと、ダイヤは頬を僅かに染めて「ふんっ」とそっぽを向いた。

「あーあ! ダイヤさん、照れてますぅ! 小次郎さんに褒められて照れてますよぉ!」

「う、うるさいわね新米女神! あんたこそ、さっきのあの謎の打撃(スマホ角殴り)はなんなのよ! 魔導装甲を物理で叩き割るなんて、ゴリラか!」

「ご、ゴリラじゃないですぅ! ホーリー・スマッシュですぅ!」

 顔を真っ赤にして言い合うダイヤとリリス。

「パンパカパーン! 皆さーん、注目でーす!」

 広場の中央で、突如として澄んだ声が響き渡った。

 見れば、紫の芋じゃあじ姿のリーザが、どこから持ってきたのか『みかん箱』をひっくり返して台座(お立ち台)にし、その上に堂々と立っていた。

「死蟲軍団の討伐、ならびに悪代官の撃退、おめでとうございます! 勝利の女神……じゃなかった、勝利の人魚アイドル・リーザちゃんが、皆さんに極上の『バフ』をお届けします!」

 リーザはコホンと咳払いし、自作の歌を歌い始めた。

「絶対無敵のスパチャアイドル!

 五円が積もれば 山となる!

 御縁をちょーだい キラキラ☆キラリ

 推しの生活 支えてちょーだい!」

 その歌声が響いた瞬間、広場にいた自警団や農民たちの顔に、パァァッと活力がみなぎっていくのが分かった。

 人魚姫の権能が乗せられた『Love & Money』のバフ効果。疲労が抜け、闘気オーラが底上げされる。

「おおおっ! なんか知らんが元気出てきたでェ!」

「さすがリーザちゃんや! ほな、お布施スパチャや!」

 チャリン! チャリンッ!

 ニャングルや農民のおじいちゃんたちが、気前よくみかん箱の前に銅貨や銀貨を投げ入れ始めた。

「わぁぁっ! ありがとうございますぅ! 五円で繋がる無限のループ! ハイ! ハイ! スパチャよろしく!」

 投げ銭(現金)を見て、リーザの歌声のバフ効果がさらに倍増する。

 歌えば歌うほど小銭が儲かり、村人は元気になるという、まさに究極の愛と経済の循環システム(永久機関)がそこには完成していた。

「……ふふっ。本当に、賑やかな人たちですね」

 拙者の隣に、いつの間にか村長キャルルが並んで立っていた。

 彼女の足元、あの恐ろしい特注の安全靴からは、すでに紫電の火花は消えている。

「小次郎さん。先ほどは、私たち村人を護るために前に出てくださって、ありがとうございました」

「いや。拙者は用心棒ゆえ、当然の働きをしたまで。……それに、拙者が出るまでもなく、村長殿がアゴを砕いて終わっていたであろうからな」

 拙者が皮肉めかして笑うと、キャルルは「えへへ」と可愛らしく首をすくめた。

「これで正式に、小次郎さんはポポロ村の『用心棒』です。このカオスな村の新しい家族として、どうかよろしくお願いしますね」

「うむ。承知した」

 宴が始まった広場。

 ルナが善意で金塊を錬成しようとしてはキャルルにハリセンでツッコミを入れられ、イグニスが酔っ払って火炎ブレスを吐いてはダイヤに怒られている。

 ふと、視界の端で、黒いレザージャケットの男――龍魔呂が、大きな重箱を抱えてこちらに歩いてくるのが見えた。

 龍魔呂は無言で、その重箱――『PRO型(ポポロ弁当)』を拙者の前にドンと置いた。

「大仕事の後は、腹が減るだろう。食ってくれ」

「……かたじけない」

 蓋を開ければ、月見大根のおでんに、サンライスの塩むすび。極上の香りが立ち昇る。

「ああっ! 小次郎さん、それ龍魔呂さんの特製ポポロ弁当じゃないですかぁ! 私にも一つ、おむすびください!」

 匂いを嗅ぎつけたリリスが、猛烈な勢いで突撃してきた。

 彼女の両手にはすでに三色団子と焼き鳥が握られているというのに、まだ食う気らしい。胸元の若葉マークが「ご飯! ご飯!」と言わんばかりに点滅している。

「まったく、お主の胃袋はどうなっておるのだ。ほれ」

「わぁぁい! あむっ! んんん~、お米が甘くて最高ですぅ!」

 頬をリスのように膨らませて満面の笑みを浮かべるポンコツ女神と、みかん箱の上で「もっと投げてー!」とがめつく歌い踊る極貧の人魚姫。

(……やれやれ。手のかかる娘たちだ)

 拙者は重箱からロックバイソンの牛すじを一つ摘み、口に放り込んだ。

 とろけるような肉の旨味。そして、美味そうに飯を食う少女たちの姿。

 空を見上げれば、月が静かにこのカオスな村を照らしていた。

 巌流島で命を落とした、敗北の剣豪・佐々木小次郎。

 まさか二度目の生で、異世界のバケモノじみた村人たちに囲まれ、二人の少女の最強の保護者ヒモとして生きることになるとは。

 人生とは、まことに数奇なものである。

「……だが、悪くない村だ」

 紫煙をくゆらせながら、拙者は誰に言うともなく、小さく呟いた。

 剣豪・佐々木小次郎の、トラブルだらけの異世界放浪記。

 最強の剣と、笑いと、極上の飯に彩られた彼らの明日は、果たしてどんなカオスが待ち受けているのだろうか。


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