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剣豪・佐々木小次郎の異世界放浪記。〜ポンコツ女神と雑草食う人魚姫を拾ったので、物干し竿一本で最強の保護者になります〜  作者: 月神世一


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EP 6

恐怖の客間と、ぬるいお茶

 村長宅の奥にある、応接間。

 上質な革張りの長椅子に腰を下ろしたルナミス帝国の徴税官は、ハンカチで滝のような冷や汗を拭いながら、貧乏揺すりを繰り返していた。

「……っ、……っ」

 無理もない。

 窓の外の広場では、紅蓮の鎧を着た戦乙女ダイヤと、いかつい竜人のイグニスが、魔導バズーカの砲口をこちらに向けながら「いつ撃ちます?」「村長がウインクしたら即ブッ放すっス」などと物騒な談笑をしているのだ。

 拙者は部屋の隅の柱に寄りかかり、静かに煙管きせるを吹かして事の成り行きを見守っていた。

「お待たせいたしました。粗茶ですが……」

 重苦しい沈黙を破り、部屋に一人の男が入ってきた。

 隙のない燕尾服に身を包んだ、銀色の毛並みを持つ人狼族の男だ。村の宰相兼執事を務める『リバロン』である。

 リバロンは洗練された無駄のない動きで、役人の前に湯呑みをコトンと置いた。

 役人は震える手で湯呑みを掴み、喉の渇きを潤そうと一気にあおった。

「……ん? なんだこの茶は。……ぬるいぞ!」

 役人が顔をしかめる。

 リバロンが出した『陽薬茶』は、わざと絶妙に人肌以下の温度に冷まされていた。

「おや、申し訳ございません。当村はのどかな田舎村ゆえ、火の加減も満足にできず」

 リバロンはうやうやしく一礼したが、その目は全く笑っていなかった。

 客に対して意図的に『ぬるい茶』を出す。それはすなわち「貴様をもてなす気など毛頭ない」という、執事流の強烈な宣戦布告である。

「き、貴様ら……帝国をコケにする気か! 外の物騒な武器はなんだ! これが知れれば、騎士団が黙っていないぞ!」

 役人が虚勢を張って声を荒げる。

 だが、リバロンは涼しい顔で、白手袋のシワをスッと直した。

「騎士団を派遣する? はて、それは割に合う『投資コスト』でしょうか?」

「な、なに……?」

「当村は税を遅滞なく納めております。それを不当な理由で制圧したとなれば……私共は真っ先に、隣接するアバロン魔皇国、およびレオンハート獣人王国へ『不法侵略からの救援要請』を出します。……もちろん、豊かな『隠田かくしだ』の利権を割譲するという手土産付きで」

 リバロンの言葉に、役人の顔からスゥッと血の気が引いた。

「そ、そんなことをすれば……」

「ええ。三大国のパワーバランスは崩壊し、大陸全土を巻き込む『世界大戦』が勃発するでしょう。……さて、徴税官殿。ご自身の出世欲と大根のために、数百万人の命と国家の存亡を背負う覚悟は、おありですか?」

 静かな、だが逃げ場のない論理の刃。

 役人はワナワナと唇を震わせ、言葉を失った。

「そ、そんな脅しに屈するルナミス帝国では――」

「グダグダ言うと……アゴ、砕いちゃおっかな〜?」

 背後から、ふわりと甘い声がした。

 役人のすぐ真後ろに、いつの間にか村長キャルルが立っていた。

 カチッ……バチバチッ!

 キャルルが足元で床を叩く。特注の安全靴から紫電の火花が散り、部屋の空気がビリビリと震えた。

「ひぃっ!?」

 チャキッ、ジャキッ!!

 キャルルの声に呼応するように、窓の外から『魔導ライフル』の安全装置セーフティを一斉に外す、冷たい金属音が響き渡る。

 政治的な退路を断たれた上に、物理的な死の気配が役人の首元にピタリと突きつけられたのだ。

「あ、あぁ……っ」

 役人はもう、腰が抜けて椅子から立ち上がることすらできない。

「ほな、ワイからも一つ、ええ話させてもらいまっせ」

 絶望する役人の前に、今度は派手な着物を着た猫耳の男――ニャングルが、パチパチと算盤そろばんを弾きながら歩みみ出てきた。

「ポポロ村の独自通貨『PGポポロゴールド』の力、舐めたらアカンで。あんたらの態度次第じゃ、経済戦争でも通貨戦争でも仕掛けたろか? ルナミス帝国の札束を空売りして、ただの『ケツフキ(紙屑)』にしてもええんやで?」

「け、経済戦争……?」

「いや〜、そんな怖い顔しなさんな。冗談や、冗談♡」

 ニャングルはニタニタと笑いながら、役人の胸ポケットに最高級の『ポポロシガー』をねじ込んだ。

「ほら、震える口でこの葉巻でも吸いなはれ。……あ、一本銀貨十枚(約十万円)になりまっせ。ツケにしとくさかい、後でキッチリ回収させてもらうで♡」

「あ、あわ、あわわわ……っ」

 役人の目は完全に焦点が合わず、恐怖でガタガタと歯の根が合わない音を立てていた。

 部屋の隅でその一部始終を見ていた拙者は、思わず煙管を落としそうになった。

(……なんという事だ)

 剣を抜かず、血を一滴も流さず。

 言葉と、金と、圧倒的な状況証拠だけで、一国の権力者をこうも無惨になぶり殺しにするとは。

 拙者がかつて生きた戦国や江戸の世でも、ここまでの陰湿でえげつない『兵法』はお目にかかったことがない。

(……武蔵よ。兵法とは『戦わずして勝つ』のが最上のことわりだと申すが……これはいささか、エグすぎないか?)

 武力しか知らぬ拙者は、目の前で精神を徹底的に解体されていく役人に、ほんの少しだけ同情の念を抱いてしまった。

 だが、ポポロ村の『恐怖のおもてなし(迎撃プロトコル)』は、まだ終わっていなかった。

 彼らの真の地獄は、この後に控える『社会的・精神的抹殺』というトドメの段階へと移行しようとしていたのである。

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