EP 3
カオス極まる村内観光と、武闘派百姓の隠田
「兄貴ィ! こっちっす! ここが村のメインストリートでさァ!」
翌朝。すっかり拙者の舎弟面をしている竜人族のイグニスの案内で、ポポロ村の見学へと繰り出した。
一行は拙者とイグニス、そして朝から『たろーそん』なる店の廃棄弁当(肉じゃが弁当)を頬張っているリーザと、三色団子を片手に持つリリスである。
「……ほう」
村の中心部を歩きながら、拙者は煙管の煙を吐き出しつつ、周囲を見渡した。
木造とレンガ造りの家屋が並ぶ、一見すればのどかな田舎村。だが、その合間に建つ施設が異常だった。
二十四時間営業で肉が食い放題だという『タロキン』。極彩色の看板がチカチカと点滅し、『CR異世界転生トラックでドン!』という謎ののぼりがはためく遊技場。
「南蛮のからくりか、あるいは妖術か。夜通し明かりが灯る不夜城のような店が、こんな片田舎にあるとはな」
「へへっ、兄貴も驚いたっスか! 俺も最初来た時は『すげェ!』って腰抜かしかけたっスよ!」
イグニスが自慢げに胸を張る。お主の作った村ではあるまいに。
「ごきげんよう、皆様方。こんな朝早くからお散歩ですか?」
ふと、ふわりとした甘い香りと共に、声が降ってきた。
見れば、フリルがたっぷりとあしらわれたお嬢様のようなドレスを着た、長い耳の美しい娘――エルフが立っていた。
「あ、ルナちゃんだ。おっはよー!」
「おはようございますぅ!」
リーザとリリスが手を振る。
ルナと呼ばれたエルフの娘は、拙者の着流し姿と、イグニスのチンピラのような格好を見て、なぜかハラハラと涙をこぼし始めた。
「まあ……なんてお労しい。こんな粗末なお着物で……殿方、お金に困っていらっしゃるのですね?」
「……ん? いや、別に困ってなど――」
「遠慮なさらないで! さあ、私がすぐにそこらの石を『純度百パーセントの金塊』に錬成してさしあげますわ! はい、えいっ!」
ルナが世界樹の杖を振るおうとした瞬間、背後からリーザが「だめえええええ!!」と叫んで飛びついた。
「ルナちゃんストップ! それコンプライアンス違反! 経済が崩壊してハイパーインフレが起きちゃうから! キャルルちゃんにまた怒られるよぉ!」
「ええっ!? だって、貧しい方を救うのが女王の務め……ああっ、ならばせめて癒やしを! 『ハッピー・ドリーム』さん、出番ですわ!」
ルナが杖を振ると、地面から突如、人間の背丈ほどもある奇妙な植物が生え出た。
その植物は、だらしない笑みを浮かべたような蕾から、ダラダラとヨダレのような粘液を垂らし、触手を拙者に向けて伸ばしてくる。
「さあ、これで酒池肉林の幻覚を見て、少しでも人生に希望を……」
――スッ。
拙者は無言で『備前長光』の鞘を振り抜き、迫り来るヨダレ触手を綺麗に弾き飛ばした。
「……娘。親切心は痛み入るが、幻覚の酒など美味くもなんともないわ。それと、拙者はこれでも『傾奇者』の端くれ。この着流しを粗末と言われるのは心外だな」
「ひゃうっ!? す、申し訳ありませんわ! 私ったらまた善意で暴走を……!」
顔を真っ赤にして謝るエルフの娘。
聞けば、彼女はエルフの次期女王候補でありながら、致命的な天然と善意で市場を破壊しかける『歩く自然災害』らしい。
(……この村、まともな人間はおらんのか)
拙者が密かにこめかみを押さえていると、イグニスが「じゃあ兄貴、次は地下を案内するっスよ!」と、道端にある偽装された井戸の底へと続く階段を指差した。
◇ ◇ ◇
地下階段を降りた先には、広大な空間が広がっていた。
天井には人工の魔導太陽が輝き、地上と変わらぬ明るさを保っている。
「……ほう。隠田か」
拙者は、眼前に広がる広大な畑を見て、納得の息を吐いた。
地上からは絶対に見えない地下農園。そこには、金になりそうな青々とした草(ポポロシガーの葉)や、大量の穀物が栽培されていた。
「お主ら、地上の役人の目を盗んで年貢をごまかしておるのだな。ふっ、いつの世も百姓の逞しさというものは変わらぬわ」
「せやで兄貴。ええ読みしてまんなぁ」
背後から、コテコテの関西弁が聞こえてきた。
振り返ると、派手な着物を着て算盤を片手に持った、猫耳の男がニヤニヤと笑いながら立っていた。
「ワイはニャングル。この村の財務担当や。兄貴の噂は聞いとるでェ。剣一本でイグニスのドアホを大人しくさせたっちゅうんやから、たいしたモンや」
ニャングルは算盤をチャキッと鳴らすと、地下農園のさらに奥を指差した。
「隠田だけとちゃいまっせ。この地下はな、『ドンガン地下帝国』っちゅうドワーフの国とパイプが繋がっとるんや。非課税の作物を流す代わりに、向こうからは最新の『オモチャ』を仕入れとる」
ニャングルが指差した先を見て、拙者は思わず煙管を落としそうになった。
そこには、鉄の装甲で覆われた巨大な車(魔導戦車)や、太い鉄の筒(魔導バズーカ)、さらには黒光りする奇妙な銃火器が、山のように積まれていたのだ。
数人の村人が、鍬を置いた手で、その鉄の車をピカピカに磨き上げている。
「……して。この筒や鉄の車は何だ。南蛮渡来のからくりか?」
「ルナミス帝国の最新兵器の『違法コピー品』や。ドワーフはんからモニター価格で仕入れとる。これで地上のアホ役人どもが調子こいて攻めてきたら、ハチの巣にしたるんや」
ニャングルが悪びれもせずに笑う。
「ひぇぇ……何が置いてあるか、私よくわかんないですけど、すごく物騒な気配がしますぅ!」
「あ、あの鉄の塊、売ったらいくらになるかな……じゅるり」
リリスが青ざめ、リーザがよだれを垂らす中、拙者は静かに煙管を拾い上げ、ポンと灰を落とした。
「……ふむ。なるほど」
のどかな田舎村の地下に広がる、莫大な裏金を生む密輸ルートと、一国の正規軍を相手取れるほどの過剰な最新兵器の山。
「お主ら、農民というより、もはや一向一揆の武闘派集団ではないか」
「ガハハ! 兄貴の例えはよくわかんねェっスけど、俺たちポポロ自警団は大陸最強っスよ!」
「儲かりまっせ〜、ホンマに」
胸を張る田舎ヤンキーと、算盤を弾く守銭奴猫耳。
武士としての常識が、音を立てて崩れていくのを感じる。だが、不思議と不快感はなかった。
権力に媚びず、己の才覚と力(と密輸と武力)で強かに生き抜く村。
「……悪くない。用心棒のし甲斐がありそうだ」
佐々木小次郎は、カオス極まる魔境の村の全貌を前に、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべるのであった。




