外伝3話 最強家族に巻き込まれました
「はじめまして。片桐修司です」
――そう言った瞬間、なぜか“最強家族”扱いされた。
軽く頭を下げる。
「こちらが家内の彩乃で、息子の翔です」
「幹事の園田唯です。よろしくお願いします」
にこっと微笑んでから、唯が続けた。
「早瀬さんから聞いてます」
一拍。
「最強家族だって」
「……え?」
修司の思考が止まる。
「……最強?」
思わず聞き返すと、隣で彩乃が楽しそうに笑った。
「あ……美形家族ってことです」
さらっと言い直される。
「お父さん、美形だって。よかったね」
「……ああ」
反応が一拍遅れる。
「あら、嬉しいわ」
彩乃がくすっと笑う。
翔も、ぱっと顔を上げた。
「ねえ、僕、イケメン?」
「イケメンだね」
即答だった。
「やった」
満足そうに頷いてから、翔はすぐに続ける。
「お姉さんも美人だよ」
「ありがとう」
あっさり成立する会話に、修司は少しだけ目を瞬かせた。
(もう順応してるのか……)
取り残されているのは、自分だけな気がする。
「翔くん、めっちゃ可愛い!」
「イケメン!」
「最高ね」
口々に声が上がる。
「彩乃さん、毎日愛でられますね」
「尊いでしょう」
彩乃が楽しそうに言う。
「わかります?」
「はい」
即答だった。
「ご主人もイケメンだし、言うことないですね」
「そうなんですー」
嬉しそうに頷く彩乃。
そのやり取りを見ながら、修司は少しだけ遠い目をした。
(会話が成立してるな……)
そのとき、川上が当然のように口を挟む。
「ね。部長。完璧でしょ」
「大丈夫だって言ったでしょ」
「部長、イケメンですから」
「いや……あのさ……」
修司は、少し言いづらそうに口を開いた。
「何ですか?」
「お前、このノリ大丈夫なのか?」
「普通ですよ」
即答だった。
「……」
(普通か……)
修司は少しだけ遠い目をする。
でも、よく考えたら――
翔のクラスの子にも、よく言われるのだ。
「翔くんのお父さん、かっこいい」
「イケメンだね」
……確かに。
「……そんなものか」
小さく呟く。
やっぱり、川上が言うなら普通なんだろう。
(あいつ、こういうの詳しそうだしな……)
まあ――
「俺も、面食いだしな」
心の中で、そっと認める。
そして改めて周りを見渡した。
美人が多い。
(早瀬の友達って……こんな感じなのか?)
妙に納得しかけた、そのとき。
「ねえ」
不意に、声が割り込んだ。
翔だった。
「お兄ちゃんって――」
一拍。
「お姉ちゃんと付き合ってるの?」
「……」
空気が、一瞬止まる。
けれど川上は、少しも慌てずに答えた。
「俺は、このお姉ちゃんの後輩なんだ」
「実は、いろんなことをこのお姉ちゃんたちに教えてもらってるんだよ」
「え? お勉強してるの?」
「実はそうなんだ」
軽く頷いてから、川上は続ける。
「それに、翔くんのお父さんにもいろんなことを教えてもらってるんだ」
「難しいことも教えてもらってるし――」
少しだけ間。
「どうやったら翔くんのお父さんみたいにイケメンになれるか、とか」
「……」
「ああ……お父さん、イケメンだもんね」
「でしょう」
翔は、迷いなく頷いた。
「翔くんのお父さんのイケメンアドバイスは、的確なんだよ」
さらっと言い切る川上に、周囲の視線が集まる。
「え? そうなの?」
「……ああ」
修司は一拍置いてから、短く答えた。
「完璧さ」
迷いのない断言だった。
「確かに、納得だわ」
誰かがぽつりと呟く。
それをきっかけに、
「わかる」
「説得力あるよね」
口々に声が重なった。
「……」
気づけば、全員が頷いている。
そして。
「部長のイケメンアドバイスは違いますからね」
早瀬まで、さらっと言った。
「……は?」
「やっぱり」
当然のように頷かれる。
「……」
(何が“やっぱり”なんだ……?)
修司だけが、少し取り残されていた。
すると今度は、彩乃まで何でもないことのように口を開く。
「昔から、修ちゃんは完璧だったわ」
「え?」
思わず聞き返す。
「だって、イケメンだもの」
当然のように言い切られた。
「奥様、そうですよね」
「そうよ」
早瀬と視線を合わせて、こくりと頷き合う。
「……」
(共有されてるな……)
修司だけが、少しだけ遠い目をした。
「俺は普通のことをしてるだけだが」
そう言うと、智也がきっぱりと言った。
「尊いんです」
「納得」
唯たちも当然のように頷く。
「智也くんのイケメンスキルとは、また違う感じだわ」
「わかる」
口々に声が重なる。
「……」
その流れのまま、唯がさらっと告げた。
「これからも、メンバーとしてお願いします」
「え?」
一瞬、思考が止まる。
「もちろんです」
彩乃が楽しそうに頷いた。
「僕も行きたい」
翔まで嬉しそうに乗っかる。
「……」
もう、決定らしい。
(決定したな……)
修司だけが、静かに飲み込んだ。
「由奈ってさ……」
誰かが、しみじみと呟く。
「上司と後輩に恵まれすぎじゃない?」
「上司イケメン」
「後輩もイケメン」
「おいしすぎでしょう」
「でしょう。最高よね」
楽しそうに頷き合う声を聞きながら、修司はまた少しだけ黙る。
「……」
すると智也が、さらっと言った。
「俺はともかく、部長はイケメンですよ」
「わかる」
「それは間違いない」
即座に同意が重なる。
「……」
(俺、評価されてるのか……?)
修司だけが、少しだけ複雑な顔をした。
そして、もう一度だけ考える。
(……これ、普通か?)
周りを見る。
全員が、満足そうに頷いている。
(……普通、なのか)
修司は、静かに諦めかけた――そのとき。
「でも、彩乃さんって――」
誰かの声が、ふと重なった。
「めちゃくちゃ美人ですし、若すぎません?」
「……」
一瞬、空気が揺れる。
(……まだ続くのか)
修司は、ほんの少しだけ遠い目をした。
外伝3話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、修司視点で“最強家族”に巻き込まれる回でした。
本人はずっと「普通」のつもりなのに、周りからはしっかり評価されている――
このズレた感覚が、この家族の面白いところかなと思っています。
そして、気づけば家族ごと参加が決定。
このあたりの流れも含めて、「ああ、もう逃げられないな」と思っていただけたら嬉しいです。
次回は、そんな流れのまま“奥様最強説”がさらに加速します。
空気がどう転がっていくのか、楽しんでもらえたらと思います。
引き続き、よろしくお願いします。




