外伝1話 女子会に呼ばれたので部長に服を相談したら全部おかしかった話
昼休みのオフィス。
いつも通りの空気の中で――俺は、少しだけ迷っていた。
「片桐部長、お話があります」
「何だ……」
書類から目を離さず、低く返される。
「あの先輩についてなんですけど……」
「また早瀬が何かやらかしたのか?」
間髪入れずに来た。
「それとも、お前が扱いに困ってるとか?」
「……いや」
一瞬、言葉を選ぶ。
「ちょっと、色々ありまして」
部長の手が止まる。
ゆっくりと顔が上がった。
「……重要な話か?」
「はい」
短く答える。
少しだけ、間。
「……会議室行くか」
「部屋、取ってくる」
立ち上がる音が、やけに重く響いた。
そのまま、並んで歩く。
廊下の空気が、少しだけ張り詰めている。
(……これ、どう説明するんだよ)
ドアの前で立ち止まる。
部長が、無言で先に入った。
俺も続く。
静かに、扉が閉まる。
「その……相談なんですけど」
「早く言え」
即答だった。
「そんなにあいつがおかしなことしてるのか?」
「いや……」
少しだけ間を置く。
「早瀬先輩のお友達に会うことになりまして――」
「そろそろ、どうしようかと思ったのですが……」
「……」
部長が、じっと見る。
「そもそも最初は、いきなりだったんです」
「急に呼ばれて」
「休みの日に“今から至急来て”って」
「……」
眉が、わずかに動く。
「何があったんだと思って」
「俺、すぐ行ったんです」
「もしかして事件なんじゃ……って」
「……ああ」
小さく頷く。
「普通はそう思うな」
「ですよね?」
「それで?」
「そうしたら――」
一瞬、間。
「女子会に参加することになったんです」
「は?」
止まる。
完全に。
「……女子会?」
「はい」
「……お前が?」
「俺です」
「……」
沈黙。
数秒。
「……何でだよ」
「俺もわかりません」
即答だった。
「で?」
少し低い声。
「今日は何の相談だ」
「はい」
姿勢を正す。
「でも、俺――」
少しだけ困った顔。
「何着ていけばいいかわからなくて……」
「どうすればいいですか?」
「……は?」
「もう、三回くらい呼び出されてるんですけど」
「さすがに何着ていけばいいかわからなくなって」
「……」
部長が、ゆっくり顔を上げる。
「三回?」
「はい」
「……」
少しだけ間。
「最初は“至急来て”だったから、何も思わなかったんです」
「まあ、そこまではいい」
小さく頷く。
「でも」
「日程決められて」
「集合場所教えてもらって」
「……」
言葉が止まる。
「どうすれば……」
「……」
沈黙。
数秒。
「……お前、それ」
ゆっくり口を開く。
「完全に“予定”に組み込まれてるぞ」
「え?」
「呼び出しじゃない」
「イベントだ」
「……」
少しだけ考える。
「イベント……」
「女子会イベントだ」
「……」
「お前、ゲストじゃない」
「え?」
「レギュラーだ」
断言だった。
「……」
(確かに、席も毎回同じだったな……)
「だから服を悩むのは正しい」
「え?」
「ようやくそこに気づいたのは偉い」
「ありがとうございます」
素直に頷く。
「ただ」
指を軽く叩く。
「根本からおかしい」
「え?」
「そこは悩むな」
「え?」
「悩むなら“なんで参加してるか”だ」
「……」
少しだけ考える。
「でも」
顔を上げる。
「ケーキは美味しいんですよ」
「そこじゃない」
即答だった。
「だいたい、月一ランチなんです」
「……月一?」
部長の眉が、ゆっくり上がる。
「はい」
「それで、唯さんがマニアで」
「全部お店決めてくれてるんです」
「……」
「だいたいそこから、はしごして」
「スイーツも食べに行く流れになるんですけど」
「……」
沈黙。
「結構安くて、美味しいんです」
「……」
「でも、服変なの着てくのもまずいかなって……」
少しだけ困った顔。
「女子って、わからないし」
「……」
数秒。
「……お前」
ゆっくり口を開く。
「それ、“女子会”じゃない」
「え?」
「“定例会”だ」
「……」
「完全に」
断言だった。
「え?」
「企画があって」
「店が決まってて」
「ルートも固定されてる」
指を折る。
「もうイベント運営側だ」
「……」
少しだけ考える。
「確かに、毎回同じ流れですね」
「だろうな」
ため息。
「で、お前はそこに組み込まれてる」
「え?」
「逃げ場はない」
「……」
(でも、安くて美味しいんだよな……)
「で?」
部長が、少しだけ顔をしかめる。
「結局、何が聞きたい」
「はい」
姿勢を正す。
「服、どうすればいいですか?」
「……」
沈黙。
「……そこだけはまともだな」
ぽつりと呟いた。
「で、持ってるのがこんな感じなんですけど」
スマホを差し出す。
「どう思います?」
「……」
部長が画面を見る。
「……ああ」
小さく頷く。
「これでいいんじゃないか?」
「結構、格好いいぞ」
「本当ですか?」
「ああ」
「無難でいい」
「じゃあ、これにしよう」
ほっとしたように息を吐く。
「……」
部長が、スマホから視線を外す。
「……で」
少しだけ間。
「結局、お前は何なんだ」
「え?」
「後輩だろ」
「はい」
「なのに女子会のレギュラーで」
「服を相談しに来て」
「ケーキの話をしてる」
「……」
少しだけ考える。
「普通じゃないですか?」
「普通じゃない」
即答だった。
「……」
(でも、楽しいんだよな……)
やっぱり、少しズレていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は少し本編から離れて、外伝としての一話になりました。
……とはいえ、気づいたらいつも通り、少しズレた話になっていた気がします。
最初はただの「服どうしよう」という相談のはずだったのに、
気づけば女子会の話になり、
さらに部長まで巻き込まれていく流れに。
本人は普通のつもりでも、
周りから見るとどこかおかしい――
そんな関係性が、少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです。
本編ではなかなか見えない、
日常のちょっとしたズレや空気感を描けるのが外伝の面白さだと思っています。
また機会があれば、
今回の続きや、別の形での外伝も書いていけたらと思います。
そして、シリーズの続きとして
「恋を知らない先輩が近すぎる」本編も進んでいきますので、
そちらもあわせて楽しんでいただけたら嬉しいです。
これからも、少しずつ進んでいく二人を見守っていただければ幸いです。




