十七、鳳凰島(3)
百里老人は、八宝を見下ろして微かに笑った。
「だいぶ前に行ったきりだからね。今どんなだか知りたくなったよ」
「動物だけじゃ無くて、植物も変わってるかもしれないねぇ」
バッボウと老医は話を続けた。
「鳳凰の羽に影響を受けた生き物もいるんじゃないか?」
「ハンチェン、見に行きたい?」
「行きたいねぇ」
それから一人と一匹は、身を乗り出している若い二人を交互に見た。
「私も、興味が沸きました」
チャイレンがはっきりとした声で言った。フェイユは黙っていた。その目は好奇心でキラキラと輝いていた。フェイユが期待を込めて父親を見ると、あからさまな拒絶の色を浮かべていた。父のいつにない圧力に、フェイユはたじろいでしまった。父は心配しているのである。鳳凰島には今、息子に斬りつけた男がいる筈だ。わざわざ危険に近付こうとは思わない。
「興味があるなら、明日の朝、海岸に来たらいい。連れて行ってあげよう」
「僕たちがついてるから、命の危険はないよ」
心が揺れるフェイユと不機嫌な父親は、黙ってしまった。その後は気まずい雰囲気の中で、食事は終わった。
翌朝神医師弟は、親子が倒れていた海岸の岩場に出向いた。晴れた夏の荒波が砕けて、キラキラと輝いていた。飛沫が踊る岩場には、漁師の息子が朝陽を浴びて立っていた。剥き出しの手脚は浅黒く日焼けして、少年らしい瑞々しい筋肉で覆われている。海の男のがっしりとした骨格だ。立ち姿にはどこか武人の風格も見えた。
布包みを斜めがけにして背負っている。着たきり雀の貧しい少年だ。包みの中は食べ物だけだろう。小屋の外で干していた海藻、小魚、仔蟹などを持って来たに違いない。対する百薬の谷師弟は、いつものように箱笈を背負っていた。薬や道具が詰め込まれている箱の上に、着替え一式の布包みが載せてあった。バッボウはバイリ老人の襟元から、無邪気な顔を覗かせていた。
「や、行くのか」
老医がフェイユ少年に声を掛けた。
「はい」
「お父さん、よく許してくれたね」
バッボウが意外そうに言った。フェイユはきまり悪そうに苦笑いをした。どうやら、内緒で抜け出して来たようだ。
「まあいい。出かけるとしようか」
百里老人は、気にもとめない様子で頷いた。手には竹を持っている。大人が片手で握っても指が届かないくらい太い竹だ。スパリと切られた斜めの突端はまだ新しく、青竹の香りが潮風に煽られて清々しい。
「ほっ!」
掛け声と共に、バイリ老人が竹を海面へと投げた。同時に飛雨少年の腕を掴んで、跳び上がる。チャイレンはひとりで岩場を蹴った。竹は岩礁の上を滑るように飛ぶ。波飛沫が届く程度の高さだ。三人は、岩礁地帯を越える頃、青竹の上に足を下ろした。




