表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨に響く鈴  作者: 黒森 冬炎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/15

十四、百薬の谷(7)

 手当ての甲斐があって、程なくして壮年の男性が目を覚ました。


「おお、気がついたな」


 バイリ老人が側に寄ると、男性は起きあがろうとした。


「もうしばらく横になっていなさい」

「先生、ありがとうございます」

「いや、気にしなさるな」

「お代はいかほどなんでしょう?」


 見るからに貧しい漁師である。感謝の中にも治療費への心配が滲んでいた。


「お前さんは傷の手当と着付け薬だけだから、大したことはないが」


 バイリ老人は、申し訳なさそうに刀疵のある若者を見た。


阿飛(アフェイ)!」


 漁師は横たわる息子を目にして取り乱した。


「先生!息子は大丈夫ですか?助かりますよね?」

「落ち着きなさい。傷は幸い浅かったから、安心おし。無理をしなければ、数日もすればすっかりよくなるよ」


 漁師は安堵のため息を吐いた。二人とも傷が多く、倒れていた岩場にまで血が流れてていた。だが、ひとつひとつは浅い傷だったのである。もっとも、薬王師弟が通り掛からなければ、脱水で命を落とした危険はあった。


「お代は、そうさなあ、明日、様子を見に来るから、その時に美味しい魚でもご馳走になるとするかの」

「分かりました!明日は良い魚をご用意致します」


 高額の医療費を覚悟していた漁師は、晴れやかな顔で約束した。


「ジャンさん、だね?」

「さいです。あれは息子の飛雨(フェイユ)です」

「ジャンさん、差し支えなければ、何があったのか話しておくれかの?」

「先生、沖にある鳳凰島の噂はご存知ですかい?」


 漁師は寝たまま話し始めた。


「うん。大昔に鳳凰が訪れたという孤島だな?」


 バイリ老人が頷いた。バッボウも興味深そうに目を輝かせた。


「鳳凰の羽が落ちているという噂がありましてな」

「五色集めると幸運がやって来るという言い伝えだな?」

「はい、その言い伝えです」

「うん、それで?」


 師弟と亀は、興味深そうに聞き入った。


「島に渡ろうとする者が時々いるのです。大方は自分で船を用意するので、特に問題はないのですが」


 漁師のジャンは、苦々しそうに眉を寄せた。


「今回の奴らは、家の船を使わせろと脅してきまして。船がなければ漁に出られませんので、断りましたら、殴られたんです」

「酷い」


 チャイレンは思わず言葉を溢した。


「息子が助けようと駆け寄って来たところ、奴らのひとりが短刀で切り掛かったんです」

「まあ」


 チャイレンは青褪めた。幼い頃に受けた襲撃の悪夢が蘇ったのである。


「船はおそらく奪われてしまいましたが、なに、他にも魚を捕る方法はございますんで」

「ああ、いいよ。そういうわけなら、魚はそのうちでいいよ」


 バイリ老人の優しさに打たれて、漁師は涙ぐんだ。


「ほんとうですか?」

「ほんとうだとも」

「ありがとうございます。必ずお代は支払います。ご恩は忘れません」

「なに、気にしなさんな。ともあれ、明日また様子を見に来るよ。無理はしないことだ。いいね?」

「はい」


 二人と一匹は、軽く挨拶をして漁師小屋を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ