十五、鳳凰島(1)
数日後、瘡蓋は残るものの、江親子は普通に動けるようになっていた。案の定、船はならず者達に奪われていた。親子は、貝や蟹を集め、釣竿を作って海岸近くの魚を釣った。船のことはもう諦めたようだ。いつかまた、船を手に入れる日が来るかもしれない。だが、必死になるほどの思いはないようだった。この地域は税を現物で収めても良いことになっている。それもあまり重くない、よい領主が治める土地だ。だからその分さえも、あまり気にしなくてよいのだ。二人で暮らしてよければそれでよい。そんな欲のない親子だった。
「先生がた!ちょうど良かった。今朝はたくさん取れました」
様子を見に来たバイリ老人、チャイレン、バッボウたち二人と一匹を見つけて、江親子が手を振って声を掛けて来た。
「朝ごはん、是非召し上がってってください」
「さ、どうぞ中へ」
父親が外にある調理場に向かい、息子が水を出してくれた。海岸からやや山道を登ると、澄んだ湧水があるのだ。親子は、毎日漁の後に水を汲んでくるようだ。
「実を言うと、鳳凰島には、行ってみたい気もするんです」
料理が来るのを待ちながら、ジャン・フェイユが雑談を始めた。チャイレンが相槌をうつ。
「確かに、鳳凰の羽根は見てみたいですね」
「はい。本当にあるのかどうか、気になります」
浪華の七王女チャイレンは、言い伝えが本当かもしれないと考えた。幼い頃、山の中にあるという伝説の国・雪国から来た毒使いに襲われたのだ。その頃には誰もみたことがなかった毒や武術に出会したのである。言い伝えや噂を頭から否定する気にはなれなかった。
「運が良ければ今でも拾えるかも知れないよ」
バッボウが細い声で告げた。彼は年齢不明の生き物だ。
「バッボウ、鳳凰に会ったことはあるの?」
チャイレンが聞いてみた。
「遠くからみたことなら、一度だけある」
「老医めと一緒だったの」
神医と霊亀の言葉を聞いて、フェイユが勢いよく立ち上がった。
「ほんとですか!綺麗でした?鳴いた?」
興奮して声が上擦っている。バイリ老人も年齢不詳である。永く生きていれば、不思議な生き物にもそれなりに出会う。年若いチャイレンとフェイユは、興味深々であった。
「五音を奏でる尊い鳴き声がして、見上げたら遠くの空を飛んでゆく姿が見えたんだ」
バッボウが得意そうに首を伸ばした。
「いいなあ」
フェイユは礼儀も忘れて感心していた。
「五色の羽が、遠くからでもわかるほどに鮮やかだったよ」
流石は神聖な鳥である。普通の鳥なら、遠くの空で飛ぶ羽の色など、はっきりとは分からない。
「羽根がひらひらと舞い落ちてゆくのも見えた」
バイリ老人が懐かしそうに言うと、バッボウが付け加えた。
「遠かったから、拾いには行かなかったけどね」




