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晩年こそ本番。42歳会社員、喋る猫と現代ダンジョン攻略──ここからが本番だ  作者: 七乃白 志優
第九章:盤上は世界へ、扉は奪還へ

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148話『終わりじゃなく、区切り』

昼前から94階へ移動する。


訓練は長く引っ張らなかった。

今日は結果だけで十分だった。


詩織のレベルを確認する。


「……31」


来た時が14だったから、17も上がっている。

順調に伸びてる。かなり伸びてる。


「上がってるな」


「……はい」


「かなり」


「……自分でも、少し驚いてます」


詩織は驚いた顔をしなかった。

むしろ、やることをやっていたらこうなった、みたいな顔で、それが少しだけ照れくさそうだった。


「ルミエルも、かなり育ってるわよ」


ディアが言う。


契約モンスターの方も順調に伸びている。

レベルも詩織に連動して上がっているし、スキルも増えている。攻撃も支援も、最初に会った頃とは別物だ。


一般的な契約モンスターは、こうしてレベルアップや成長で新しいスキルを覚えていく。

その点、コユキはやっぱり特殊だ。レベルで積むというより、模写捕食(ミミック・イーター)で奪って広げていく。


同じ契約モンスターでも、伸び方がまるで違う。今さらだけど、その差は見ていて面白い。


「うん、悪くない」


コユキが短く言う。


その一言に、詩織が少しだけ姿勢を正した。

コユキやディアに褒められると、詩織はまだ少しだけ真面目に受け取りすぎる。


昼の訓練を切り上げて、夕方前には94階から戻った。身支度を整える。


送別会は18時半から梅田。

その前に、難波へ寄ってオフィスの本契約を進める。


まだ法人登記前なので、契約者は個人名。

6月1日以降、法人契約へ切り替える前提で進める。


鍵の管理。

セキュリティ。

入退館のルール。

郵便物の扱い。

共同受付と、会議室予約の運用。


一つずつ確認していく。


「6月1日から使用可能です」


「分かりました」


会社を辞めるのに、まったくゆっくりはできない。

でも、不思議と嫌じゃなかった。


ずっと同じ場所で回してきた日々が、少し遅れて別の形の刺激を返してきている気がする。

今まで積んだものが、ようやく別の場所で繋がり始めた、そんな感覚だった。


「メールのやり取り、すごくスムーズでしたよ」


不動産屋が何気なく言う。


僕は少しだけ視線を逸らした。


実際に窓口の文面を整えていたのはユキ丸で、裏ではレグリスが相談役をやっていた。

僕が現実で動く前に、ゲート側で分業体制が完成しているの、本当に強すぎる。


「……分業体制が強すぎるな」


小さく呟くと、コユキが影の中から得意げに言った。


『今さら?』


夜。


送別会は、15人前後だった。


今のプロジェクトの全員じゃない。

むしろ、過去に一緒だった中堅とかベテランが中心だ。若手が少ないのが、かえって今の自分の立ち位置をよく表していた。


竹島さんが乾杯の音頭を取る。


会が始まると、あちこちから声が飛んでくる。


「時任さんなら、辞めてもどこでもやれそうですね」


「前のプロジェクトではほんとお世話になりました」


「もっと一緒にやりたかったです」


笑って受ける。


「そんな大したことしてないよ」

「いや、してますって」

「してないよ。だいぶ記憶が美化されてる」


そんな返しをしながらも、内心では少しだけ照れる。


承認欲求が満たされる、という感じではなかった。

それより、仕事が残した縁を感じる、という方が近い。

時間を使って、ちゃんと何かを渡せていたんだな、と分かるのが少し嬉しい。


酒は飲む。

でも、飲みすぎない。

そこはいつも通りだ。


しばらくして、締めの挨拶を振られた。


「時任さん、最後お願いします」


「わかりました」


そう言って立ち上がると、場が少し静かになる。

長くはしない。


「今日はありがとうございます」


一度、全体を見渡す。


「最後なので、三本締めでいきたいと思います」


今日は、一本締めではない。驚きから軽く笑いが起きる。

でも、意味はちゃんと添えた。


「一本目は、みなさんの健康と活躍」


「二本目は、会社の発展」


「三本目は……僕のこれからの無事と成功を願って」


一拍置いて、手を上げる。


「お手を拝借――よーぉ!」


パパパン、パパパン、パパパン、パン。


「よっ!」


パパパン、パパパン、パパパン、パン。


「もう一丁!」


パパパン、パパパン、パパパン、パン。


「ありがとうございました」


拍手が起きて、会がほどける。


解散して一人になった時、不思議と“終わり”という感じはしなかった。

区切りだ、と思う。


晩成アークという箱の中に、次の本番が少しずつ入っていく。

そんな感覚のまま、僕は駅へ向かった。


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