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晩年こそ本番。42歳会社員、喋る猫と現代ダンジョン攻略──ここからが本番だ  作者: 七乃白 志優
第八章:割れる言葉、繋ぐ言葉

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135話『未来に名前をつける』

「会社名だけど……これまで会社も生活も、普通に回ってたんだよ」


僕は画面を見ながら自然と、そんな言葉が出る。


「大きな不満があったわけじゃない。ちゃんと回ってたし、生活に困っていたわけでもない。でも……ずっと退屈だった。」


詩織が少し意外そうな顔をする。


「退屈……?」


「刺激が欲しいって意味じゃない。……自分が生きてる実感が薄い感じ」


ディアが静かに言う。


「ゲートに入って、変わった」


「うん。コユキやディアに会って、生活の一部はそんなに変わってないのに――中身が変わった」


詩織が、言葉を選ぶみたいに小さく言う。


「……じゃあ、今が“ここから”って感じなんですね」


「たぶんそう。というか……“本番”って感じがする」


コユキがすぐ刺す。


「その年齢で本番って、遅い」


「いいだろ……いつでも“本番はこれから”、って言うじゃん」


僕は少しだけ笑ってから、口に出した。


「僕も、もう42だし。“晩年こそ本番”みたいな名前を英語に文字ったものでもいいんじゃないかって、ちょっと思った」


詩織が即座に反応する。


「晩年……って、おじいちゃんのイメージです」


「だよね」


コユキも頷く。


「人間の晩年って、たしかに“終盤”感ある」


ディアが、それを少しだけ整える。


「でも秀人の場合、終盤っていうより“第二幕”よ」


「第二幕……」


僕は頷いた。


「晩年って言葉は、年齢じゃなくて“今まで積んだものが効く段階”って意味にして使ったんだけどね」


「じゃあ、セカンドステージ」


詩織が言う。悪くない。でも、少しだけ綺麗すぎる気もする。


「悪くない」


コユキが次を出す。


「ネクストアクト」


それも意味は近い。ただ、僕の中ではまだ少し借り物っぽかった。


「ラストアクトは?」


「縁起悪いだろ」


「コユキ合同会社」


「却下」


コユキが即答した。


ディアが笑う。


「そこは否定早いのね」


少しだけ言葉が行き来して、最後にコユキが言った。


「じゃあ、“晩年”じゃなく“晩成”の方がいい」


僕が顔を上げる。


「晩成?」


「遅咲き、じゃない。積んだ分だけ強いって意味。で、アーク。方舟でも、弧でも、架け橋でもいい」


ディアがすぐ反応する。


「……晩成アーク。いいですね」


僕も、言葉の響きを頭の中で転がしてみる。


晩成アーク。

硬すぎず、軽すぎず、意味も乗る。


「じゃあ決めよう。晩成アーク合同会社」


詩織が、最後に小さく笑いながら言う。


「……でも、晩年はやめてくださいね」


「努力する」


コユキが、すぐに返す。


「努力なんだ」


ちょうど会社名の話がまとまりかけた時、インターフォンが鳴った。


玄関に出ると、やけに重い箱が届いていた。

持ち上げた瞬間、腕が止まる。


「……これ何?」


リビングに運び込むと、コユキが当然みたいに答えた。


「チタンの塊」


詩織が目を丸くする。


「え、金属……?」


僕も普通に驚いていた。


「……いつの間に」


「発注は済ませてたから」


「済ませてたのか……」


箱を影に沈めて、その足で94階へ向かった。


レグリスがいつもの丁寧な所作で現れた。

相変わらず無駄がない。メイド風の立ち姿なのに、空気はもっと機能的だ。


「お待ちしておりました」


僕はチタンの箱を示した。


「スキル封じ首輪。これで1000個、作れる?」


レグリスは顔色ひとつ変えない。


「数量は問題ありません。今日中にはできあがります」


相変わらず、こういう話への反応がぶれない。


僕は続けた。


「あともう一つ。洗脳とか催眠系を防ぐ装備、作れないかな」


レグリスが少しだけ目を細める。


「帰還者であれば可能です。一般人は魔力を保持できず、蓄えた魔力が切れます」


「回数制にできる?」


「可能です」


ディアがすぐに口を挟む。


「“消耗”が見えた方がいいわね」


レグリスが頷く。


「視覚化、ですか」


「青い宝石にして、発動ごとに色が変わるとか」


そこからは早かった。


一回目で青から黄。

二回目で黄から赤。

三回目で色を失って、割れる。


偽物と判別するため、魔力をもつ帰還者が触るとうっすら光る。一般人が触っても反応しない。


「それでいこう」


「承知しました」


レグリスは一礼した。

話が早い。こういう時、このチームは本当に強い。


そのあと、訓練。


僕は動きを確認して、詩織は自分の課題を口にした。


「近い距離で、目を逸らさないのを続けたいです」


「了解。じゃあそこだけ見る」


僕は手を出しすぎない。事故ラインだけ止める。

ディアが小さく言う。


「今日の詩織、悪くない」


押しつけじゃない、その一言だけで、詩織の表情が少しだけ明るくなる。


夜。


ソファでスマホを見ていたら、後ろから声がした。


「……それ、ナナさんのチャンネルですよね」


さすがに飛び上がるほどじゃない。

でも、ちょっと気まずい。


女子高生帰還者のナナと、うさぎ型モンスターのもっちん。二人の掛け合いが売りの『みみモン日記』だ。


「たまたま」


「また見てる」


コユキが即座に刺す。


「勉強だよ。世論の温度を見るのも仕事」


「趣味でしょ」


「半分は」


詩織が、少しだけ笑った。


「……面白いですよね。あの二人」


その言い方が、妙に“普通”で。

普通に同じ動画の話ができることが、なんだか少しだけ温かかった。


こういう、別に大げさじゃない話を共有できるのは、悪くない。

たぶん、生活ってこういうものでできていく。


日曜が終わる。

また明日から午前中は仕事だ。けれど、今日は“先の形”が少しだけ現実になった気がした。


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