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晩年こそ本番。42歳会社員、喋る猫と現代ダンジョン攻略──ここからが本番だ  作者: 七乃白 志優
第八章:割れる言葉、繋ぐ言葉

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129話『本丸は、SNS』

九条さんが、軽く咳払いをして流れを切り替えた。


「……じゃ、次。首輪の追加の依頼だ」


柊さんがメモを見ながら、淡々と読む。


「Sサイズを200個、Mサイズを300個、Lサイズを300個、2Lサイズを200個。合計、1000個手配したいです」


僕は反射で、頭の中の電卓を叩いた。


120万×1000。

頭の中の数字だけ先に出て、息が一瞬だけ止まった。


「……12億円、ですか」


声が少しだけ上ずったのを、自分でも分かった。

普段なら数字は“ただの数字”として扱える。――でも、これは桁が違う。


詩織が、隣で小さく息を呑む。


九条さんだけが平然としている。


「金は用意してる。事情が変わった」


柊さんが補足する。


「国内でも、自衛隊の“1階クリア訓練”を正式に回し始めます。海外はもっと早い。軍が動いてる国もあるし、米国は一部、一般向けの枠も出し始めました」


九条さんはそこで、少しだけ声の温度を落とした。


「スキル持ちが増えりゃ増えるほど、影で犯罪に使うやつも出る。山田みたいな危ないスキルを掴むやつも、これからもっと増えるだろう」


詩織の表情が、ほんの少し硬くなる。

“自分も対象に入るかもしれない”――そんな想像が先に走ったのが分かる顔だった。


だから僕は、驚くより先に質問する。


「首輪の対象は、自衛隊だけですか。それとも現帰還者も含みますか?」


九条が即答した。


「自衛隊だけ。現帰還者は対象にしない。まずそこを広げたら、社会が持たん」


詩織の肩が、ほんの少しだけ落ちた。

九条が、淡々と続けた。


「自衛隊は、ゲートに入る前に同意書にサインしてもらう。サインできない奴には、スキルは取らせない。――取らせることを強制もしない」


言い方は硬い。でも、線引きがある。


「何のスキルを取ったかは、どう判断するんです?」


僕が聞くと、九条は迷いなく答えた。


「10階のクリア報酬で“鑑定”を取った帰還者がいる。そいつに見てもらう」


柊がすぐ横で頷く。


そこから先は、短いやり取りが何往復か続いた。

首輪1000個という数は、国内だけの都合じゃなかった。

海外からも追加要請が飛んでいて、出荷前提で押さえておく必要がある――そういう温度の話だった。


1階でのスキル取得方法も、九条さんは驚くほど素直に教えてくれた。


「1階のクリア手順が確立しているゲートに、銃を持って入れて、1階を抜けさせる。2階に上がったら、そこには帰還者を一人待機させる。安全ルートで奥まで行って、帰還ゲートで戻す。――事故る確率を潰していく」


合理的すぎて、逆に冷える。


さらに柊が補足する。


「研究も進んでます。ゲート内の資源を持ち出せないか、という話まで出ています。契約モンスターやスタンピードで“中のものが外に出る”なら、持ち出す方法もあるはずだ、と」


「実現してるんですか?」


「まだ。武器を持ったモンスターが外に出ても、倒した瞬間に武器も腐敗して使えなくなるケースが確認されています。今は“持ち出せない”前提が強いです」


……そういう制約すら、もう検証が走っている。


話が一段落したところで、僕はふと、思ったことを口にした。


「九条さんは、スキルを取りに行かないんですか?」


九条は肩をすくめるだけだった。


「俺は自衛隊でもない。今のところ、取りに行く予定はない。……ただ、今後どうなるかは分からん」


……その“分からん”が、いちばん現実的だった。


僕はもう一つ、確認を重ねる。


「……ここまで話しても、大丈夫なんですか」


九条が、口の端だけで笑う。


「大丈夫かどうか、じゃない。お前は巻き込んでおいた方が得だって判断だ」


言い切ってから、さらっと付け足す。


「それに今日は、WEBじゃないだろ」


「確かに。そうですね」


「山田の件以降、基本WEBは続けてる。……けど、お前とは会っといた方がいいと思った」


言葉は乱暴なのに、やってることは丁寧だ。


――仕事でやってる引き継ぎ挨拶と同じだな。

画面越しの挨拶じゃなく、会って、顔を見て、空気を合わせる。

それだけで、信用は一段だけ“乗る”。


九条が、椅子の背に軽く体重を預けた。


「で。本丸。……お前のSNSだ」


来た。

柊の視線が、メモから一段上がる。


九条は牽制の言い方をする。


「もう“個人の遊び”には見えない。大国の情報網なら、シュナ=時任、くらいは当たり前に辿れる。新大阪担当って線までバレていても不思議じゃない」


僕は頷いて、今朝の件を切り出した。


「中国からDMが来ました。宛名が“時任秀人様”でした」


詩織が、横で小さく固まる。

僕は落ち着いて続けた。


「監視は、たぶん入っていません。入っていたら、僕なら気づきます。ただ、隠し通せるとも思っていません。政府に共有する以上、漏れる可能性もある。――だから、意見が欲しいです」


九条が目を細める。


「想定内で動いてる、って顔だな」


「はい。で、その上で——」


僕は一拍置いて、言った。


「新大阪ゲート、52階までクリアしました」


会議室が、綺麗に止まった。

柊の指が止まり、九条さんも、さすがに言葉を探している顔をした。

詩織は一瞬、呼吸を止めかけて、慌てて吸い直した。


その瞬間、影の奥から、コユキの念話がぼそっと刺さる。


『この流れ、毎回そう。秀人、驚かせるために、わざと後半で言ってるでしょ』


『驚かせたいとかじゃない……』


すぐに、ディアが小さく被せる。


『コユキ、しー。いま秀人、ちゃんと頑張ってるところなんだから』


(……ちょっとだけ肩の力が抜けたな)


九条が先に戻ってくる。


「……52?」


「はい。雪山の階層でした。録画もあります」


僕はそこから、相談を置く。


「52階の動画、公開してもいいですか」


九条は即否定しなかった。

その代わり、短く聞く。


「理由は?」


「49階までと、50階以降で難易度が跳ねます。49階を抜けた感覚のまま50階に入ると、たぶん全滅する。……ゲート内の死者を減らしたいんです」


沈黙。

柊がメモを取る音だけがする。


九条が、ふっと息を吐いた。


「好きにすればいい」


詩織が横で目を見開く。

“許可”の軽さに驚いてる。


九条は続ける。釘は必ず刺す。


「ただし、過信するな。家族、兄妹、友人。お前にも弱点は必ずある。力が強いほど、そこを狙われる」


「分かってます。動くにも気をつけます」


九条は、少しだけ笑った。


「……お前、ほんと面倒なやつだな」


「褒め言葉として受け取ります」


「褒めてねぇ」


——そのやり取りに、詩織が一瞬だけ戸惑った顔をした。

でも、すぐに飲み込む。

今日の宿題は、ちゃんと続いているらしい。

打ち合わせが終わって、施設を出る。


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