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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
8章 貴方が見えない世界の果てで

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盲目少女は見逃さない

「久しぶりだね家接君、それに静」

 エスファント・サイドゥンが日本に来るという知らせは、Ⅰの大往生を見届けて数日した頃だった。なんでも日本の観光がしたいという単純な私利によるものだったということもあって交友のある雪広が対応することになったのだが、なぜか僕もそれに呼ばれた。しかも現在時刻は朝の6時。あまりにも早すぎる。

「なんで僕も?」

「それはあれだよ。ひ弱な少女二人ではどうにもならないことがあるからだとも。もし路地裏で襲われたりしたらどうする?私なんて盲目なんだそれはもう屈強な男たちにされるがままに……」

「もう黙って。家接を揶揄いに来たんだったら帰るよ」

「冗談だよ冗談。本当はただ日本を観光したかっただけだよ。このご時世、魔術師とか祓魔師とかの界隈も高齢化が進んでてさ、同い年の子とこういうことを一度はしてみたいと思っていたんだ」

 理由を聞いてみるとそれはなんとも子供らしい理由だった。それを聞くと僕も帰るという選択肢はなくなる。純粋に楽しんでもらおうと携帯で観光地についていろいろと調べ始める。そこで見つけた観光地に向けて新幹線に乗ることになるとは思ってもみなかったけど、カラ爺に聞いてみたらそれは経費で落ちるから心配しなくてもいいって言われたので安心した。

 古い建物が並ぶ町並みは新鮮で修学旅行で来た以来のような気がする。だけど僕達以上に興奮を隠せないでいたのはサイドゥンだった。彼女は行く先々の建物を見ては声を上げていた。

「やっぱり歴史的価値のあるものっていうのは面白いね。長年の魔術の痕跡だったりを見ることができるし、こういう新たな発見もあって楽しいよ」

 彼女の幽世の魔眼はこの世の生物ではないもののみを見通すことができる。つまり彼女が見通したものが何かと言うと……あまり考えないでおこう。僕達は必要以上に彼女の解説に耳を傾けないようにしながら建物を巡っていく。いろんな場所を巡っているうちに気づけば昼になっていた。

「さて、こうしてずっと建物などを見ているのもいいけどお腹も空いてきたね。何かおすすめのご飯は静は知ってたりするかい?」

「そうね……別に何でもいいなら日本っぽいものの方が良いと思うし。……寿司なんてどう?」

「ありきたりだね。家接くんもそう思うだろう?」

「まぁ普通かな」

 内心てんぷらを考えていた僕も人のことは何も言えないけど、口にしていないのでセーフということにしておこう。手軽に入ることも考えて今回は回転ずしにすることにした。回らない寿司でも良かったのかもしれないけどそんなお金はきっと彼女しか持ち合わせていない。

「寿司、美味しいね」

 視覚を遮断されている彼女にとってそれは美味しい料理の一つにすぎず、回転寿司が勢いよく新幹線に乗ってやってくることを知ることはない。運ばれてきた寿司を雪広がせっせと彼女に食べさせているのを見ているとどうしてか心が穏やかになる。僕はそれを見ながらゆったりとお茶を啜った。

 安くて美味しいのが庶民向けの回転寿司の良いところで、僕たち三人で食べてもお腹いっぱいになるには5000円もかからなかった。

「いやぁ、満足だよ。本当に美味しかった」

「だね。僕も久しぶりに寿司なんて食べれて良かった」

 安いとは言ってもなぜか高級感があって中々いけないのでこういう機会になら手軽に行けて嬉しい。唇に残る醤油の香りを感じながら次にどこに行こうかなとスマホでここから近い観光地を探していると、突然杖を突く彼女の足が止まった。

「……消えた」

 突然彼女がそんなことを口にした。消え入りそうなくらい小さな声を雪広は聞き取ることができて彼女の方を見る。そこには見えていないはずなのに何かが本当に見えている様な、そんな悲しみとも憐れみともとれないような瞳が瞼を開けてどことない空を見る。

「サイドゥン?」

「……観光はこれで終わりかも知れない。とりあえず、魔狩師協会の本部に行こう。きっともうすでにそこでは色々と慌ただしくなっているはずだから」

 直近で飛び立つはずの飛行機に急いで三人分の席を確保してUターンする。彼女の言葉の通り、魔狩師協会に向かうと誰も彼もが動揺を抱えたような様子だったが努めて冷静になろうと各方面に連絡を取っているみたいだった。

 その人の動きの中にはカラ爺や蝋火会の人もいる。知っている人達も集合しているので何も分かっていないけど深刻なことが起こったのはきっと確かだ。

「何があったんですか?」

 ちょうど通りかかった酒花さんに声をかけた。

「お、久しぶりだね。もしかして今の状況を聞いてるのかな?……詳しくはあっちの人だかりで聞いて欲しいんだけど簡単に言うとたくさんの人が突然消えたんだ、大陸ごと」

 どういうこと?

 その疑問を投げる前に彼は忙しそうにしながら行ってしまう。隣を見ると雪広もどういうこと?と言いたげだ。もちろんサイドゥンも詳細を知りたくて仕方が無いようなのでカラ爺が話をしているところに行くとこちらに気づいて会話を中断してくれた。

「やぁ、二人とも。それにキミがエスファント・サイドゥンだね?」

「いかにも。貴方がかの有名な空咲譲かな」

「こんなイギリスの少女に知られてるなんて、僕も有名人になったなぁ」

 お互い社交辞令を手短に済ませると状況を整理してくれた。カラ爺はそれがまるで起こっても不思議ではないといった様子でさきほど起こったことを三人に伝えた。

「まぁさっき酒花くんから聞いていると思うけどね、ちょうど一時間前にオーストラリア大陸が消滅した。No.0が関与していることはほとんど確実かな。そして君たちには酷なお願いをしないといけない」

「ちょ、ちょっと待ってください。オーストラリアが消えたってどういうことですか?」

「大丈夫、落ち着いて」

 カラ爺は慌てた僕の言葉をゆっくりと飲み込みながら宥めた。もちろん後ろの二人も聞きたいことはきっと山ほどあったが言葉にせずに飲み込んでいる。あんなに大きな大陸が消えるというのが現実としては理解できない。

「ごめんね、でも今は詳しく話をしている時間がないんだ。とりあえず君たちには今からオーストラリアに向かってもらう」

「ちょっと待って、どういうこと?さっき無くなったって言ったところじゃない」

 黙っていられなくなった雪広がカラ爺の言葉を途中で遮る。サイドゥンだけが静かにこの状況をどうにか理解しようと杖を持っている手の指を何度も動かしていた。

「最近、オーストラリアにある魔術師協会の姉妹協会である発見がされたんだ。ノームの先祖返り、と言えばきっと理解できると思うよね」

 地の精。僕と同じ妖精の先祖返りだ。

 確かNo.0には火の精の先祖返りがいるはず。これで残るは水の精だけか。

 いやいや、そんなことより。まだそのノームの先祖返りが生きているとするならオーストラリアが完全に消えたということじゃないのかな。

「彼の先祖返りの力で地脈を支配したことでどうにか大陸の一部を維持できたみたいだけど、そのほとんどは消滅?したみたいなんだ。詳しいことは直接現地に行ってみないと分からない。とりあえず言えることとしては少なくともオーストラリアにあるほとんどの魔力を持つ人間の反応が消えたってことだね」

 その宣告は、実質オーストラリアが消えてしまったというのと大差ない事実だった。

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