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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
7章 不死に至る路

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最愛の我が子へ

 毎年、この日は必ず見舞いに来ると決めている。

 こんな場所には誰も来ない。先祖代々の墓にはもう名前も読めないようなくらい風化で削れてしまった石から順々にまるで棚田のようにして同じ苗字の名前が刻まれている。そして一番新しい墓石の前に百合の花を置いて線香を立てると、少女はゆっくりと手を合わせた。

「お母さん、私ずっと勘違いしてたみたいなんだ。お父さんは私たちのことなんて考えていないわけじゃなかったの。お母さんのことを第一に考えていたし、私や兄さんのことを大事にしてた。でも勘違いしてたことを謝れなかった。………もし先にそっちに行っちゃったら伝えて欲しいな、私が謝ってたよってさ」

 ついていた膝を立てて立ち上がる。ゆっくりと桶に入った水で墓石を洗う。

「私はまだまだやらないといけないことがあるから、そっちには行けないんだ。もちろん兄さんもそっちにはいかせられないよ。もう少し待っててね、お母さん」

 

 目を開けると、誰かの寝顔が見えた。

「ここはどこだ」

 身体を起こそうとすると全くといって良いほど身体が動かない。まるで長い夢から意識だけが覚めたみたいに酷い倦怠感と体中の節が産声のような悲鳴をあげて痛みを伴う。

「兄さん?兄さん!」

 痛みで声を漏らしてしまい、足下で眠っていた少女は顔を上げた。

 そのまま伏せって寝ていたのか顔には布団の皺のような跡が付いている。

「静?ここがどこか分かるか?」

「ここは病院だよ。あの後ずっと寝たきりだったから」

 だからこんなに身体が痛いのか。どうしてか分からないが、四季は目覚めてからずっと冷静だった。

 静が色々とこれまであったことや、四季自身の容態について。どのくらい自分が意識を失っていたのかなどを教えてもらうことで、より自分の置かれた状況が明白になってきた。

 自分の事を心までも偽ってⅣのもとで過ごしていた日々。あと一歩のところで彼女に終止符を打つことはできなかったが、自分の成すべき事はできたはずだ。

「あのあと、どうなった?」

「それは……」

 静の表情を見れば分かる。これはきっとダメだったんだろうな。

 Ⅳはずっと人形を操っていたこと、彼女の目的は魔術学園の位置を晒すことであってすぐに逃げてしまったことを知らされた。

「あれは、人形だったのか」

 四季は驚きで口に手を当てたままになる。あれほど身近にいて違和感を感じたこともなく、ましてや人形なんて考えたこともなかった。もともと自分の手に負える相手ではないことは分かっていたが、そこまでだとは。

 結局自分がやったことがただの自爆行為にしかなっていなかったというのは母の復讐のためにこれまで捧げてきた身としてはなかなかにきついものがあった。

「でも兄さんがしたことが全部無意味になったってことじゃないから安心して」

 静は慌てて取り繕うように四季のフォローをする。実際、四季が致命的な一撃を与えるまではあれが本体ですらないということにきっと誰も気づくことができなかった。それくらいに精巧に作られた人形であることは間違いない。それだけでもNo.0の幹部相手の戦果としては十分すぎるくらいのものだ。それが親の復讐であるということを除くのであれば。

 たとえ実の妹にそこまでして慰められたとしても、自分の手で葬る事ができなかったのはとても悔しかった。あれほどの無茶をした代償はすでに支払われていた。

「もう魔術はきっと使えないんだろうね」

「可能性は低いって。でも、このままリハビリを続けたら使えるようになるかもしれないって言われたから諦めないでね」

 そうは言うが魔力を全く感じない。希望があまりないのは自分の身体が一番分かっていた。

「ありがとう静。僕はもう大丈夫だからみんなのところに行ってきな。ⅠがⅣを倒すっていう場面には間に合わないかもしれないけど、もし倒せたならお礼を言っといてくれないか?」

 そう言って彼女が病室を出るまで何でもないように振る舞った。足音が遠のいていくのが聞こると、ゆっくりとまた意識が遠のいていくのを感じた。一か月以上寝た身をいきなり酷使してしまった。

「次起きたら、またお礼を言いに行こう」

 そう思いながらゆっくりとその瞼を閉じた。


 雪広が家に戻ると、扉を開ける前から中が騒がしいことに気が付いた。

 玄関で靴を脱いでいてもおかえりの一言すらない。何やら騒がしいのはリビングみたいだ。

「ただいま……って何してるの」

 見るとカラ爺が今もせこせことお札を並べていて、それをまるで鑑定商のように家接たちが眺めていた。あまりに異様な光景に言葉も出ずに見ていると雪広の帰りに気が付いた家接が顔をあげて彼女を手招いた。

「なんか、今回の事があってメイニーみたいな非戦闘員も強制的に炙りだされる可能性があると思うから一人一枚好きな札を持っておいて良いよってカラ爺が」

「もちろん雪広ちゃんも持っていて良いよ」

 そう言いながらもカラ爺は隙間無くお札を並べていく。その枚数はゆうに1000は超えている気がするけど、毎日毎日札の制作ばかりに費やしているのを見ていたのでさほど驚きはない。だけど、これだけ多岐に渡った性能の札を作り出す技術がどうなっているのかは未だに謎に包まれたままだ。

「本当に、何でもいいの?」

「大丈夫。僕の切り札的なのは渡せないけど、ほとんど趣味で作ってる札たちだから。むしろ活躍の機会を作ってもらえてこっちとしては嬉しい限りだよ」

 いつも持ち歩く札を決めて行くので自ずと使わない札は増える一方。きっとこの札を使って祓魔師・魔狩師専門の店なんて開いたら稼げそう……なんて一瞬思ってしまった。

「そういえば、お兄さんは良くなっていたのかい?」

 カラ爺は雪広だけが席を外していた理由を察していたようだった。もちろんいつも通りなら変わらないと答えていたところだが、今日は違う。兄さんは、目覚めたのだ。

「目を覚ましたよ。なんか、お医者さんにも聞いたけど遅くても数か月もすればリハビリが終わって普通に過ごせるようになるみたい」

「そっか。それなら良かった」

 安心したといった様子で彼はまた札を並べていた。

 その後、選んだ札はしっかりしまっておくようにということとそれぞれの詠唱についてカラ爺に教えてもらう。久しぶりにカラ爺がイキイキしているところを見た気がした。

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