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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
1章 あなたはきっと、生きていく
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一から彼を育てましょう

「魔狩師になるということはそう難しいことはない」

 なんていう雪広の言葉は嘘と言っても差し支えないだろう。

 そもそも、前提として彼女が魔狩師としての資格を有したのは特例措置であり一般の試験を通過して得たものではない。つまり、家接に先輩面をして語る彼女を一体何を知っているんだろうと冷めた目で見ていたのがカラ爺であった。

「まぁ、まずは自分の力に気づくというところから始めないとお話にならないわね。何か感じない?」

 最初の数分を眺めていたカラ爺の感想は、教える才能がないということだった。

 彼女は自分ができることは他の人にもできるはずだと信じている節があるため、無理難題を時折人に押し付けることがある。

 それはなにも魔術に限った話ではなく料理の際、目玉焼きくらいしか焼けないカラ爺の料理の腕を信じられないといった目で見たことで彼を料理恐怖症に陥らせたこともあるくらいだ。

「そもそも、僕にそんな能力があるの?」

「あるはずよ。先祖返りのせいかもしれないけど、あなたには常人よりも魔力の量が多いの。これで魔術が使えないなんていうのはあまり考えられないもの」

 圧倒的感覚派の彼女にはものを教えるということはおそらく最も不得意とする分野だ。

 だが、それでも彼女はそんな自分を信じられないのでカラ爺に自ら助けを求めるなんてことをするつもりはない。小一時間ほど続いた彼女の指導だったが、特に成果を見出さなかったことで初めて雪広は観念して地下室にこもっているカラ爺を叩き出した。

「ど、どうしたの急に」

 今日も今日とてなにやら分からない札を作成しているカラ爺は、突然後ろから肩を叩かれて振り返る。雪広がなにかいいたそうにこっちを見ているので作業を辞めて地下室から出た。

「ああ、家接くんのことか」

 外に出て一人残された彼を見てカラ爺は察すると、家接の隣に腰を下ろす。

「それで雪広ちゃんは何を教えてくれたのかな?」

「自分の力を感じるのが初歩だって言われました。でも、そんなの全然感じないんです。なんなら前回の先祖返りの時だって僕はその違和感を感じ取れなかった」

「うーん。でもまぁ、雪広ちゃんの言っていることはなにも間違っているっていうわけじゃないんだ。普通の魔狩師はその違和感に気づいて自分の能力を開花させるものだから。ただ、君の場合は少々特殊だからね」

 こうなったら本部に行くしかないかなぁ。

 いやでも行きたくないしなぁ。

「勘違いしないでほしいのは、先祖返りと魔狩師の二つの要素を兼ね備えている人は確かに存在するっていうこと。だから諦めないでほしい」

「分かりました。ならもう少しだけ試してみます」

 理解したわけじゃない。納得をしているわけでもない。ただ、そうせざるを得ないといった反応。

 あまりにも申し訳なくなったカラ爺は、重い腰を上げて行きたくもない場所に足を運ぶことにする。


「ここが魔狩師協会の本部」

「そう、魔狩師は絶対に避けて通ることのできない関所。それがここ。君にはまたいずれここには来てもらうことになる」

 雪広はあんな辛気臭いところなんかに行きたくないと、ふらふらと外に出て行ってしまったため二人でここまでくることになった。この本部は特殊な結界内にあるため、専用の鍵を用いて空間を繋がないと訪れることができない。逆に言えば鍵があればドアのある場所という条件付きでどこからでも来訪することができる。二人は家の鍵穴に差して来たため時間はかかっていない。

 本部に入るや否や、カラ爺は知り合いと会うことになる。

「あ、ユズ~。久しぶりじゃん。どしたの、協会嫌いは治った?」

「空咲か。治ってないよ。少し用事があっただけだ」

 カラ爺と親し気に話す女性は、とても彼と近しい年齢には見えない。こちらの存在に気が付いて顔を寄せてくるが、まるで年齢を感じさせないのと女性慣れしてないせいで緊張する。

「大丈夫?めちゃくちゃ固まってるけど」

「家接くん、この子は白井柚葉。君と同じ高校生だよ」

「違う違う。私もう大学生なんだから」

「え、そうだったの?いやぁ、成長したね」

「今絶対バカにしたでしょ。私だってもうあいつには負けないんだから」

「雪広が聞いたらきっと鼻で笑ってうだろうね」

「うわっ、思い出しただけで腹立ってきた!」

 二人の仲睦まじい会話を聞いているあたり、どうやら家接の推測は間違っていただけで、彼女はちゃんと見た目と年齢はあっているみたいだ。

「あ、そうだ。酒花くんはいる?」

「確かさっき見たような。たぶんそこらへんにいると思うよ。あいつに用?」

「うん、ちょっと体質というかそこらへんで聞いてみたくて」

 彼女は再び家接のほうを覗く。一瞬彼女の手が光ってすぐに消える。

「なるほど。そういうこと。なら私は専門外だから手を引こうかな。それじゃ、あいつによろしく」

「分かったよ」

 そう言って彼女はまた荷物を抱えてどこかに消えていった。

「さっき人は?」

「あの子は、雪広ちゃんと同じ魔術学校の出でね。成績の一、二を争っていた仲なんだ。それからもなんだかんだ競い合ってる、いわゆる腐れ縁ってやつかな」

「そうなんですね」

 彼女にもそんな間柄の人がいるなんて、少し意外だったな。

「それは置いておいて、今日の予定は少し違うよ。さっき彼女にも言ったけど今日は酒花君に会いに来たんだ。彼が君と同じ先祖返りと魔狩師のどちらの能力も有した存在だから」

 それを聞いて家接は嬉しさと同時に少しだけ不安になった。

 自分と同じ境遇の存在はただただ嬉しいはずなのに、どうしてか会ってしまえば自分は失敗できなくなるんじゃないかという心配に駆られる。

 向かおうと歩き出したカラ爺にすぐについていくことができずに彼は振り返った。

「どうしたの?」

「いや、なんでもないです」

 すぐに追いついた家接を不審に思って彼はそれ以上歩みを進めない。

「もしかして、怖いのかい?」

「そんなことは、、」

「あるんだね」

 カラ爺は近くのベンチに彼を座らせて、少し待っていてと言ってどこかに行ってしまう。

 次に来たのは青い髪をした青年で、言われずとも彼が酒花さんだというのは理解できた。だけどカラ爺はどこかに行ったきり帰ってこない。青年は座っている家接に「隣いい?」と聞いて腰かけた。

「君が家接くんだよね」

 晴れ渡るようなその笑顔で、僕の心を締め付けた。

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