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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
1章 あなたはきっと、生きていく
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晴れている日は、外に出ましょう

 あくる日、見慣れない天井で目が覚めた家接はそのあとに襲ってきた頭痛に頭を抱えた。

「っ――――!」

 昨日の出来事を思い出そうとするが、余計に頭が痛くなる。

 ベッドから起き上がろうとすると今度は体が痛みを発した。

「僕は昨日何をしたんだ?」

 久方ぶりにテニスを一日中した時のような、全身が動けないくらいの筋肉痛。

 とりあえず人に見せられる格好だということを確認してあたりの散策を始める。

「あ、目覚めたの。おはよう」

 扉を開けて廊下を出たあたりで雪広に会う。彼女はすでに着替えを済ませていて、いつもの調子で後ろ髪を束ねた姿だ。

「おはよう雪広さん。悪いんだけど、昨日僕って何かしてた?」

 それを聞いて彼女は廊下の先を示す。

「その話はカラ爺から聞いた方が早いと思う。たぶん私より説明うまいと思うし」

「そっか。ありがとう」

 彼女とすれ違って廊下の先に行こうとすると、彼女に引き留められる。

 振り返ると彼女は髪をいじりながら上目遣いで

「あとで話がしたいから私の部屋に来て」

 と言うとそのままどこかに行ってしまった。

 あまりに唐突な出来事に頭が追い付かないまま居間に向かう。

 扉の奥では、カラ爺が朝ご飯を食べていた。

「おはよう家接くん。君も朝ご飯食べるかい?」

「頂ます」

 カラ爺はフライパンに作り置きしていた目玉焼きとベーコンをよそうとサラダとご飯をついで食卓に並べた。

「ありがとうございます」

「いいや、礼を言うほどのことじゃないよ。それより体はもう大丈夫?昨日のはかなり体に響いてると思うから」

「そのことなんですけど、詳しく聞いてもいいですか?」

 箸を動かしながら、昨日の出来事を大まかに聞いた。

 話が終わって家接は一度箸を止める。

「すみません。僕なんかのせいでみなさんに迷惑をかけて」

 だいたい、本来なら殺されてもおかしくはない身。

 自覚は無くてもそんな危険を持ち合わせた僕を守ろうとしているんだからただ、ひたすらに感謝するしかない。

「そんなに謝らないでよ。僕らだって承知の上だから。でも、このまま生活していたら僕らも君もあまり良いとは言えないかな」

 カラ爺は食事を終えて食器を流しに置く。茶碗に水を注いでまた椅子に座った。

「だから僕から一つ提案がある」

「提案、ですか」

「そう。雪広ちゃんと一緒に魔狩師としてやっていくつもりはないかい?」


 いつもの日課を終えて、ゆっくりと背もたれにもたれかかる。

 パソコンで時事的ニュースをぼーーっと眺めて、そのあとは適当に音楽を流して椅子から離れると床に寝転がる。

「………はぁ」

 首を傾けると、本棚にある教科書に目がいった。

 学校をやめていなかったら今ごろ私も友達と楽しく過ごしていたりした未来があったのかなと思うと少しだけ寂しい。

「やめやめ」

 慌てて首を振ってそんなタラればを考えるのをやめる。

 端末を開くと、今日の運び屋出現予想が表示されていて近くにはその予想はない。

「今日は非番かな」

 魔狩師協会の運営する運び屋出現予想は体感七割くらいの確率で当たる。

 つまりは今日は家でゴロゴロする日というわけだ。

 どうせ、カラ爺は今日もなにか作っているだろうし。

「そうだ、家接」

 すっかり彼のことを忘れていた。彼と話がしたいと約束を取り付けていたんだった。

 起き上がって服に付いたごみをころころで取る。

 ベッドに座って彼を待つことにした。

「—――――n」

 返事はない。もう一度声を掛ける。

「—―――さん」

 優しく彼女の肩をゆするとゆっくりと目を開けた。

 ベッドに寝転がっていた彼女は目を擦ったまま目の前にいる人物を把握しようとする。

「!?」

 やっと彼女は自分が寝ていたということに気が付いたみたいで取り繕うように急いで起き上がる。

 冷静な風を装ってはいるが、耳が真っ赤になっていて恥ずかしさを誤魔化しきれていない。

「や、やっと来てくれたの。遅かったわね」

「うん。朝ご飯おいしかったよ」

 彼はベッドに座る雪広が見下ろすように床で星座している。それがなんだか嫌で彼女もベッドから降りて座った。

「それで話っていうのは何かな」

「そんなに急かさないでよ。もう少しゆっくり話しましょう、具体的には外で」

 彼が周りに狙われている現状を鑑みても、彼は外にあまり不用意に出すべきではないのは重々承知の上ではあるけれども雪広はカラ爺に確認をとって二人で外に出た。

「ここで話を?」

「そうよ」

 彼は困惑した様子だったが、肯定されては返す言葉もない。そのまま彼女がカートを引いていくのについていく。雪広は家接にとってほしいものを頼みながら、自分は安売りになっている商品から良いものを目利きで選んでいく。決められたルートがあるかのように店内を回り終えるとすぐにレジでの会計は終わる。カートを荷物を詰めるスペースに運んで、彼女はやっとさっきの話を始めた。

「単刀直入に言うけど、私と組まない?」

「組む?」

「そうよ。なんだかあなたを見ていると不安で心が落ち着かないの」

「それは……」

 申し訳ない限りだなと、家接は猛省する。確かに昨日の出来事は僕自身自覚がないのも含めて彼女や他の人には大変に迷惑をかけているはず。たとえ隠匿の法があったとしてもその対象にならない彼女らには、僕はそう見えているんだ。

「別にいやなら断ってくれてかまわないけど。それならそれで、その先祖返りをどうにか制御でもできないと一人で外を歩くなんて夢のまた夢よ」

 ぐうの音も出ない。

 荷物を詰め終わって店を出ると、日が昇ってまぶしさに顔を隠す。

「僕も、雪広さんとは仲良くしていきたいので正式に魔狩師を目指します」

「そう?ならよろしくね」

 彼女の差し出された手を、家接は優しく握り返した。


「家接くん………?」

 にじり寄る彼女に家接は両手を上げたまま居間の端まで追いやられる。

「カラ爺と話が済んでたんなら、最初からそう言いなさいよ!」

「すみませんでした」

 頭を必死に下げる彼に文句を垂れ流す雪広を、カラ爺は微笑ましく眺めていた。

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