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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
3章 消したい邪心、消えない純心

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魔弾の射手

 彼女と共に向かったエレベーターで移動する。押されたボタンは地上ではなく、地下に続くものであれだけ上に伸びたビルには入らないんだなと一瞬がっかりする。

「どうぞ」

 そう言って開のボタンを押したまま三人が出るのを促す。

 廊下はまるで刑務所のようで鋼鉄を無造作に貼り付けたように壁も床も、天井も銀一色。隅の方に捻子の跡がある。歩く音の響く廊下を抜けて現れたドアの前に彼女が立つ。

 光彩認証に指紋認証、加えてIDをかざした上にパスワードを入力するという徹底っぷりに思わずカラ爺は苦笑いする。

「相変わらずここのセキュリティは厳しいね」

「私もこれを毎回するのは面倒だとは感じているんですけど、仕事ですので」

 赤く点いていたランプが青色に変わる。ロックの外れる音がしてその鋼鉄のように見えた壁が左右に開いた。中には数人の男女が、僕たちが来るのを待っていたかのように扉の方を向いていた。

「ようこそ、特務課へ」

 こんなところに来てもよかったのかと改めて思いつつ、雪広と家接は湯中に連れられて入った会議室でお茶をしながら待つことになる。ドアについた子枠の窓から、カラ爺と彼らが会話をしている様子が見て取れた。

「なんで、私たちも連れてこられたんだろうね」

「こんなところあるなんて初めて知った」

「私も話でしか聞いたことないよ。たぶんカラ爺なりの理由があるんでしょ」

 しばらくしてカラ爺が部屋に入ってくる。隣には湯中さんと、そのわきに抱えられた資料に目がいった。席に着くと資料を広げて彼女は言った。

「結論から言うと、あのアパートに住んでいた夢原花菜さんは五年前にすでに亡くなっています」

 資料を広げると、一枚の人身事故の記事が貼られたページを資料を開いて見せる。死因は自殺と仮定して捜査を進めているという文言と共に、死亡した女性の名前もイニシャルで示されていて、それは彼女と一致している。だけど、たぶん二人が聞きたいことはそんなことじゃないことも彼女は分かっていた。 

 続けて捲ったページにはその事故についての調査結果のようなものが書かれていた。

 そこには死因の欄に他殺と書かれていて、さっき見た記事とは違う結論が出されている。

「そして私たちの調べによれば、彼女は今も地縛霊となって今も彷徨っています」

「……それってどういうこと?」

 急に彼女は問いただすようにカラ爺の方を向いた。まぁ落ち着きなよ、と言いながら彼女をいったん座らせる。

「雪広ちゃん、この人たちは運び屋について知識のある人たちだ。心配することはないよ」

 そうか。当たり前に聞き流していたけど、普通の人には魔術や運び屋について話すことは禁止されている。彼女たちがそれについて理解を示しているということはつまりここは。

「湯中さんたちも魔術を使えるってことですか?」

「もう引退したけど、一応は使えるよ」

 そう言って彼女は持っていたペンで小さな円に五芒星を書くと、そこだけが水に染み込んだ。

「私のことは良いよ。さっきの話の続きね。亡くなった彼女のことなんだけど、別に地縛霊になったところまでは良かったの。それくらいは誰にだって起こりうることだから。ただ、それが厄介な人たちに目をつけられて」

 さらに一枚捲ったページには一枚の写真が貼られていた。

 それは微かにぶれていて、人物像をはっきりさせることはできない。はっきり分かるのは見たことのあるアイデンティティのようなもの。

「懐中時計……」

「この人物がNo.0の幹部の一人、Ⅰです」

 その様相はフードで見えず、体系も判断はつかない。きっと人ごみに紛れ込んでいても気づかないような。ある意味でオーラを感じない。

「そもそもですがNo.0は皆さんの所属する蝋火会のように幹部ごとに基本的な管轄が決まっています。そしてこのⅠの管轄は日本です。なので、この先敵対関係となる人たちが現れた際には大抵はこのⅠもしくはその手下と考えるのが妥当だということを頭に入れておいてください」

 ここ最近、というより僕が自分の力に気が付いてからずっと彼らに振り回されている気がする。

 そして今回も襲撃にあった。彼らとの関係がないと思わない方がおかしな話だ。

「前提ですが、彼らの幹部にはそれぞれ目的という名の役割があります。そのうえで第一段階の目標として世界に存在している精霊の先祖返りを手に入れることが分かっています」

 それは前回カラ爺から聞いた。最初に現れたサラマンダーの先祖返りはすでに彼らの手の中にある。僕自身がその標的であることは今も変わらない。

「なので本来であれば家接君、君は我々の保護下にいることが良いというのが本心です。ですが私たちは協会とは違います。人道を発展させるために非人道を良しとするのは間違いなので。それにきっと君は嫌がると思うんですよ、ね?」

 彼女がそう尋ねてきたので僕はもちろん頷く。そんな生き方はしたくはない。

「もし彼が良いと言っても僕は賛成しなかったよ。いくら二十年ほど前だからといっても協会ほどの警備システムで突破されたなら大抵のシステムは意味がない。それなら対抗策を身に着ける方がいいだろうから」

 湯中は頷いて、それかけていた話題を元に戻した。

「本題はここからです」

 次のページを捲ると夢原の亡くなった駅と住んでいた住宅、それを線でつないだうえで半径10キロ圏内を円にして示した図が出てきた。

「これが恐らく夢原花菜さんが霊として出現するとされる予測地域です。加えて先ほど彼女の部屋に向かった際に襲われた鴉の写真を空咲さんから頂いて解析を頼みました。たぶん、そろそろ来る予定なのですが」

 タイミングよく会議室の扉が開く。ガタイの良い無精ひげを生やした男が数枚の紙と小さな瓶を持って中に入ってくると、それを湯中さんに渡す。ありがとうとお礼を言う彼女に「あいよ」と言いながら出て行った。

 かっこいいな。

「解析結果は、大方事前に空咲さんから聞いていた通りですね。それでこれが魔術を使用した人の魔力です」

 置かれた瓶の中は水で満たされていて、その中に小さな石が一つ浮いていた。

「これは彼の現像魔術です。写真に写ったものに付与された魔術を現像させて封じ込めることができるんですよ。そしてこの中にある石が魔術使用者に近づくと共鳴して発光するという仕組みになってます」

「最初にすることが決まったね」

 四人は立ち上がった。

「まずは、その人を探して捕まえます」

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