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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
10章 Ⅳに誘って

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203/212

底なしのハッピー

「まぁ、導主に話が通してあるなら少しは話を聞いても良い」


 記録科の導主であるレイモンド・クリスタが遅れてやってきたことで何とか話が終わらずに済んだ。だが話が終わらなかっただけでアイオーンの閲覧許可がもらえたわけでは決してない。ここからさらに彼に納得してもらうという最大の関門が待っている。


 レイモンドは話し合いをしていた両者に挟まれる形で腰を下ろすと、なんとも居心地が悪そうな顔をしながら恐る恐る頂主に声を掛ける。


「では僭越ながら。頂主、彼らにアイオーンの閲覧権利を与えてください。彼らであればⅤの行方を見つけることができるはずです」


「そうなる確証は何かあるのか?」


「彼らはNo.0の幹部のうちⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅷと接触しています。これだけNo.0の幹部と接触している一行は雪広・家接を始めとした魔狩師協会のメンバー以外にいません。加えて生死不明のⅠ、大陸と共にその存在を閉ざしたⅡ、アメリカでの祭典を繰り広げたⅢと最後に接触しているのは彼らです。これだけで十分に可能性があると僕は思います」


「…………それであれば、この魔術協会の倉庫にでも彼らを括りつけておけばいいのではないか? 彼らがNo.0の幹部を引き寄せる体質だとするならこちらに来るようにした方が簡単に炙りだせる。それに、そこまでNo.0の幹部と会う機会が多いのであれば彼らの中に裏切り者がいると考えた方が論理的だろう。例えばそこの、家接孝也という男。何やらNo.0に狙われているらしいじゃないか。怪しいとは思わないのか?」


「それは聞き捨てならないわね」


 導主やローズが反論しそうになった中で真っ先に彼に言葉を返したのは雪広だった。日頃言い返されるということがほとんどない頂主にとってそれは予期せぬことであったが、むしろ彼はその言葉に聞く耳を立てていた。


「あなたが一体どういうつもりで言っているかは知らないけど、私たちがNo.0の幹部とよく遭遇するのは家接がシルフの先祖返りだからよ。ある日突然意味も分からずにその力を得た家接がどれだけ頑張ってここまで来たと思ってるの? 私やマイクラストやメイニーなんかよりもよっぽど理不尽で無慈悲にこんな魔術の世界に放り込まれて懸命に生きている人に対して裏切り者だなんて言ったことだけは許せないわ。今すぐ謝りなさいっ!」


 ドンッ! と机を両手で叩くと部屋の中は静寂で満ちる。誰もそこから身動きをすることすら許されず、ゆらゆらと燃え上がる彼女の怒りだけが沸騰したように彼女の顔を赤くした。やがて頂主が口を開こうとして全員が固唾を飲んで見守った。


「あぁ、そうだ。私はあくまで一つの可能性を提示したに過ぎない。もちろんその可能性が低いことは当然理解しているつもりだったが、アイオーンの閲覧についてにばかり意識が傾いていたせいで彼の尊厳を踏みにじろうとしてしまったことには深く詫びよう。そしてその無礼に免じてアイオーンの閲覧許可を特例として頂主の名において出そう。当然だがこれは今回限りだ。後にも先にも外部の人間に閲覧権限が与えられることは無いということを頭に入れておいてもらいたい」


「…………心の底から謝る気のない人間にこれ以上話しても無駄ね」


 ゆっくりと拳を降ろして椅子に体を預けた雪広は、それ以降一言としてこの部屋で喋ることはなく頂主の方に顔を向けることはなかった。だが、雪広がここまで自分のことに対して怒ってくれたことが家接はとても嬉しかった。言葉では言い表せないが、心が動いたようなそんな気がする。この気持ちは大切にしまっておくことにした。


「ありがとうございます。順次、そのように進めさせてもらいますね」


 平和的に解決できた……のだろうか。何はともあれ、アイオーンでの閲覧許可を貰うことができた。これで心置きなくⅤについて調べることができるわけだ。一件落着だと手続きに向かった記録科の導主に着いていくように部屋を出ようとするとなぜか家接と雪広だけ呼び止められる。


「少しだけ話をさせてもらえないか」


「私はけっこうです」


 彼の言葉など聞こえていないかのようにして真っ先に部屋から出ていく。それを慰めるようにしてマイクラストやメイニーも部屋かいなくなると、一人取り残された家接はどうすればいいか分からなくなりとりあえず椅子に戻る。明らかにさっきよりも空気が悪くなっているのはもう目に見えそうなくらいによく分かるが、まるでここに縛り付けられたみたいに体がいうことを聞かない。


「……………………話っていうのは、なんでしょうか」


 どうしてこんなにも緊張感が走るのだろう。今すぐにでも三人のところに駆け出してしまいたい。


 人の事を呼び止めたというのに相手は家接が返事をしてからも何も語ろうとしない。そして男がそれだけ溜めてから吐き出すように問われた質問の真意は理解できなかった。


「私は君に少しだけ聞いておきたいことがあるんだ。先祖返りの力に耐えられるような人間というのは私が見てきた限り、例外なく誰もが魔術師の家系から生まれている。さっきの少女の言う通りだとするなら、君は突然先祖返りの力と魔術を使えるだけの魔力を手に入れたということみたいだがそれはとても気になる。君の家系に魔術師だった人はいないのかな」


「すみません、その話なら多分一生分かりませんよ」


「言っている意味が理解できないな。話せないことでもあるのか?」


「いや、そういうわけではなくて。僕は自分の両親のことについては何も知りません。話がそれだけなら僕もみんなのところに行きますね」


 親がいないということに彼は申し訳ないと思ったのか、それ以上追求してくる事は無く部屋を出ることができた。自分の親の事なんて聞かれたの話いつぶりだろう。物心ついた時からいなかった人のことなんて考えようとも思った事は無い。それに、もし両親に会えたとしてもそこにあるのは親に会うことのできた感動なんかじゃなくてもっと違う別の感情なんだと思う。


 部屋を出ると、廊下に三人が僕を待つように立っていた。雪広は壁に耳を当てていて僕が扉を開けて出てきたのを見て慌てて壁に寄りかかったが流石に遅すぎる。いくらなんでも馬鹿じゃ無いんだから騙されたりはしない。


「聞いてた?」


「まさか、そんなわけないでしょっ!」


「がっつり聞いてたぞ。なんなら隠れてるけどメイニーも」


「え、ちょっ、マイクラスト!」


 メイニーが気づかれていなかったのに雪広のついでにばらされたことでマイクラストにぽかぽかと叩いて抗議しているが彼には全然効いていない。恥ずかしそうに謝る彼女だったがそれはそれで新鮮なので見なかったことにしておこう。


「まぁいいや。そんなことより早くアイオーンに行こうよ。ローズさんは?」


「それなら先に導主と一緒に入るための準備を整えるって言って先に行ったぞ。たぶんここを進んだ先にあるはずだ」


 早速向かうがどこにもそれらしき部屋はない。何も告げずに行ってしまったものだからと困っていると部屋から出てきた頂主が廊下を後ろから歩いてくる。困った様子の四人を見て察したのか足を止めると声を掛けてきた。


「こんなところで何をしているんだ。アイオーンの閲覧をするために向かったんじゃなかったのか」


「それが、ローズさんがいなくなってしまって」


「…………まったく、部下の教育もまともに行っていないのか彼は。アイオーンの場所なら私が案内しよう。あそこは記録科の人間と導主、そして私くらいしか繋がる道を開けられないようになっている」


 彼に導かれるままに向かって進んでいく。この建物には似つかわしくないようなエレベーターが一台、クラシックな雰囲気を纏って溶け込んでいた。ボタンがあるはずの場所には手形のようなものがあり、頂主がそこにかざすとドアがゆっくりと開く。


「ここから降りるのが一番早い。閉めますよ」


 ゆっくりと扉が閉まる。よく見るとボタンが一つも設置されていない。それはどこかに直通するためにだけ設置されていたものであってただひたすらに下へ、下へと向かって行く。一分以上それは続いたがこんなにも長くエレベーターに乗ったのは人生で初めてかもしれない。


 やっと動きを止めて扉が開いたかと思うと、そこから見えるのはただ一直線にだけ広がった通路。壁には申し訳程度の光源としてランプが設置されているがそれもところどころが消えているせいで不気味な雰囲気を隠せていない。遠くには頑丈な鋼鉄で施された扉のようなものが見えるが、あの奥にあるんだろう。


「さて、ここからは君たちに任せよう。恐らく入った瞬間は驚くかもしれないがじきに慣れる。詳しい話は中にいる彼らに聞いてくれ。ではまた」


 そう言って認証を突破した扉はゆっくりと開く。頂主は踵を返して開いたままのエレベーターに乗って消えていった。四人は恐る恐るその扉の奥へと進むが、そこには見渡しても果てが見えないほど地下に広がる埋め尽くされた本棚が地下へ地下へと広がっていた。


「あ、皆さん来たんですね。待ってました!」


 どこからともなく現れたローズだったが、全員の雰囲気を感じ取ってか何かを忘れていたことに気が付く。


「そういえば、私ここまで案内してませんでしたね。…………どうやって来ましたか?」


「さっき頂主が送ってくれたぞ」


「ローズさん…………」


 後ろから来た導主もこれには呆れ顔だった。とはいえやってしまったことは仕方がない。四人は導主に連れられてさらに下層へと進んでいく。ここは魔術協会の最下層である15層目だというのだが、度重なる拡張によってさらに下へと広がり続けているらしい。


 そのため初めは作られていた階段も移動手段としては満足なものとは言えなくなってきたために現在は飛行魔術を転用した装置がこのアイオーンの中を縦横無尽に動き回れるように設置されている。途中途中には小空間のような作業を行うために設けられた六畳ほどの場所があり、そのうちの一つに向かって進んでいく。


「ここにNo.0に関する資料は予め集めておきました。特にⅤに関するものはここですね」


 見ると、No.0の幹部それぞれの数字が背表紙に書かれた資料が置かれておりその厚さは薄い教科書のようなものから辞書ほどの厚さまで。さらに旧幹部についても情報があるようで恐らく公にはなっていないだけでほとんどの幹部については情報を持っているんだろうなと思う。


「…………これってⅠの情報が載ってるってこと?」


「そうなりますね。でも、今探しているのはⅤなのでは?」


「それもそうね。やめておくわ」


 手に取りかけていた雪広だったがすぐにそれはⅤの資料に向かった。Ⅴについては見たことも聞いたことも無いため、ここで見る情報はどれも初出と言って過言ではない。開いて四人に最初に目に入ってきたのはレポートの冒頭、まるで彼を象徴する言葉でも見つけたように書かれていた。


『彼の掲げる正義は歪んでいる』


 まるでそれは、見えていないこちらに警告をしているかのような前書きだった。その言葉を飲み込んで雪広は次のページを捲っていく。現行のⅤは魔術協会にある資料によれば三代目であり、ついこの間に代わったばかりだという。


 どうやらその人物に代わってから急激に動きが活発になったようだ。手始めに行われていたのがロシアの代表的な魔術組織となった”クォデネンツの守り場”の威を借りる形で、”クォデネンツの守り場”が最初に構えた場所を拠点として部下が派遣された。そこから傘下となっている組織の中で辺鄙な村の中で圧政を敷いているような組織を片っ端から壊滅させているというのがここ数か月でのⅤが成したことだという。


「なるほど…………確かにこれは、歪んだ正義という言葉の意味も理解できますね」


 隣には壊滅が確認されている”クォデネンツの守り場”の傘下である組織が記載されている。すでにその数は20を超えており、どれだけ根っこから腐っていたのかが分かる。ほとんどは近代化に伴ってそうなっていたのだろうがそれで済まされないこともある。彼らは自分たちの掲げる正義に従って排除していったのがあの結果か。


「だとすると、探すべきはⅤなのかな。それとも”クォデネンツの守り場”の傘下の組織の方?」


「でも家接さん、それだとⅠの偽装遺体の説明はつきませんよ?」


「それもそうだ。”クォデネンツの守り場”から魔術協会に送られたのにⅤは関わっていない。なんか、闇が深そうな話だな」


 正直なところ、Ⅴの問題についての解決は本来であれば”クォデネンツの守り場”が率先して行うべきであるのだがそのあたりの交渉は魔術協会側ではあまり上手くいっていない。やはり傘下であったとしても表向きでは悪とされている組織が潰される分には口も出せないんだろう。


 レイモンドは組織間のいざこざについては疎いがそれくらいの推測はできる。だがそれは逆に考えれば外部の介入に関して、特にⅤを相手取ったことについては目を瞑る可能性が高いということでもある。


「みなさん、ひとまずは”クォデネンツの守り場”の事は頭から離しましょう。これは全くの別問題ですから。魔術協会としても掛け合ってみるように私からは言っておきますから。なのでまずはⅤについての情報を得ることを優先するべきです」


 彼の言葉に口々に言い合っていた意見は消えていき雪広はさらにページを捲った。そこにはⅤが壊滅させた組織が地図上に記録されたものだったのだが、最も最近彼らが滅ぼしたとされる組織がこの資料に直接書かれていた。そのため筆跡は雑ではあるが日付まではギリギリ読める程度であるが問題はそこではない。


「なるほど…………北欧に進出している。導主、確かⅤの管轄はロシアでしたよね?」


「そのはずだよ。だけど正確な管轄についてはこっちが把握するのにも限度があるからね。でもそうなると困ったことになってきたかもしれない」


 まるでそこには触れてはいけないとでも言いたげな深刻な表情を浮かべる。だが家接はパッとその理由が思い浮かばない。


「なんでですか?」


「君たちでも知っているだろう。北欧神話という言葉くらいは。あそこには今も微かな神秘が眠っているんだ。もしもその遺物が一つでも奪われるなんてことになったら、ヤバいどころ話ではなくなってしまうよ。これは今すぐにでも止めに行かないといけないかもしれないね」


 それほどにⅤの動きは活発であり、到底現地の魔術師だけでは止められないものになっていた。焦った様子でアイオーンを出ていくレイモンドを見て五人は思わず固まり、大変なことになっているのだと改めて理解することとなった。

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