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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
9章 Battle in New York

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イレギュラーはすぐそばに

「これでのべ7つの組織に招待状を送ることができました。お二人が要求したものはすでに送り届けたというのに私には心を明かすことはないようですね」

「すごく当たり前のことだよ。こっちは名前も所属している組織も、そして目的だってあなたは知っている。なのにあなたは自分の名前だってまだ教えてくれていないんだよ?そんな相手が心を明かしてくれないなんて言うのはずるいなんて話じゃない。ただの傲慢だよ」

 ソフィアの言葉は確かに腑に落ちた。隠し事だけでは信頼は勝ち取れない。こちらも誠意ある対応をしてこそそれに相手も答えるというもの。目的のためならそのような些事、気にすることはない。

「………そうですね。今回は私に落ち度があったのかもしれません。謝罪いたします。改めて、私の名前はマックス。マックス・フェローです。どうぞよろしく」

 そう名乗り手を出す彼を見てミレナは笑みを浮かべると、動かなくなったその腕を取ることなく払った。

 どうなったんだと自分の腕を見るがそれは宙に浮いたまま意思を持たなくなった岩のように動かない。

「あなた、何をしたんですか」

「どうかな。自分の腕に問いただしてみればいいと思うよ?」

「結局は私すら利用するつもりだったようですね」

「もちろんそうだよ。私たちは初めからこの計画を二人でこなそうとしてた。そうしたらちょうどいい駒が自分から寄ってきてくれただけ。でも、このまま死んじゃうのは可哀想だから祭りに参加させてあげるね」

「お断りします。私はあくまで元No.0の幹部に用があるので。このような祭ごとに参加するような時間は決して……っ!否が応でも参加させる気みたいですね」

「もちろん♪この戦いは短いけど果てしない、長い夜のお話になるんだよ」

「それ、Ⅷの受け売りだったよね」

「うっ、それはいいの!」

 未だに体のどこも動かすことができないマックスは二人のやり取りを眺めながら反撃の糸口はないかを探る。恐らくだが、魔術を使用しているのは物静かな少女の方。かなり魔力を隠すのが上手いけれども、はっきりとこちらを縛っている魔術と同じものを感じる。

 以前毒入りの飲み物を飲ませてなんともなかった少女が彼女に口に含むのを避けさせたところからしてこの二人、姿は似ていても同質の魔力を持ち合わせているわけではない。双子だと踏んでいたが、名前が異なるのはフェイクではなく事実かな。

 いくらか推論をたてたが、それを発揮するにはこの拘束を解かなければならない。

 どこまでいってもこれは魔術。解く手段はどこかにあるはずだ。

「拘束してくれたのは構わないのですが、私たちもこの祭りに参加するのであれば仲間に連絡をさせてもらっても?相手は精鋭を送り込んでくるはずです。加えて人数制限など伝えていないのですから私ひとりでは相手にならないです」

「そっか。それじゃあ面白くないもんね。ソフィア、解除……」

 拘束が一瞬解かれる。その瞬間を見計らっていたマックスは魔術を回路を高速で回し起動に至らせようとしたがそれにいち早く気が付いたソフィアはミレナの言葉を待つ前に独断でマックスの動きを封じた。同時に、操れるようになっていた魔術の感覚を失ったことで魔術回路の所有権を奪われてしまったことを悟った男は笑みを零した。

「もう、拘束を解くことはない。特に魔術回路に関しては」

 だが顔を上げたマックスは諦めた様子はなく、逆に彼女たちに対して問いかけた。

「お二人は気にしたことはかもしれないが、ここは都市部の端。東には緑の無い砂地が少し広がっているんだよ」

「それがどうかしたの。もう魔術は使えないんだからそんなこと気にしても仕方がない」

「だとしたら僕はこんなに余裕ではいられないかな。もう逃げる手は打っておいた。次に合うのは宴の場ということで。先ほどの話、やっぱり面白そうだから乗ってみることにしたよ」

 彼の言葉が終わったのを待っていたかのように頭上からまるで地響きのような唸りを上げた音が聞こえてきた。侵食していくその音は徐々に近づいていき、最後には天井を突き破ってそれは侵入してくる。

 そうか、もうすでにあの一瞬で魔術を起動せずとも用意はできていた。

 途中で魔術が使えなくなってもいいように建物の外にあった砂を配置することだけに専念したからこそ、その重みでその後にどうなるのかは考えに入れていない。男もこの建物の崩壊に巻き込まれているのが何よりの証拠だ。

 ソフィアの魔術ではこの状況を彼を使ってどうにかすることはできない。とすれば出番があるのはミレナの方だ。

「クラックアウト」

 彼女は天井の崩壊とほぼ同時に壁に亀裂を入れていた。

「ここから出るよ、ソフィア」

 彼女の手を引くと同時に、埋もれてしまいそうになっていたマックスを蹴り飛ばすことで亀裂の入っていた壁が完全に崩壊する。

 宙に放り出された三人だが、二人はマックスの背中を踏み台のようにして地面に向かっている。そして地面に落ちる寸前になってソフィアは一瞬だけ魔術の拘束を解いた。

 地面に落ちた衝撃なのか砂が待った衝撃なのかは分からない。しばらくして視界が開けた時に死体は一つもなかったことから全員が無事だったというのは確かだ。

「全く、人使いが荒いですね」

「そうかな。私にしてはいい使いようだったと思うけど」

 この少女、無口なだけでやっていることはとてもヤバいような気がすると薄々感じ始めたマックスだが、彼もまたこなしている事のレベルでいえばさして変わりはない。

 砂の山に立った三人はそれを滑り下りて砂まみれになってしまった街を眺めた。マックスは未だに魔術の拘束だけが解かれていないことを不満にしながらソフィアに尋ねる。

「一度命を助けたんですから、その分一度見逃してくれても良いのでは?」

「あなたがこの祭典に参加するのは決まったことみたいだから、見逃してあげる。ミレナもいいよね?」

「うん。だけど次私たちに逆らうなんてこと考えたその時は絶対に許さないから」

「ちゃんとこの一枚はあなたのために取っておいてあげる」

 ソフィアが掲げた銀の小さな板のようなものにはマックスの名前が彫られている。彼女たちは仕事があるからとすぐにその場を去ってしまったがマックスは内心得られた情報の多さに感激すら覚えていた。彼からすれば彼女の魔術のからくりなど知る余地がなかったのにも関わらず自らそのタネを明かしたのだ。ラッキーとしか言いようがない。

 そのうえほとんど自由の身で組織にも戻れる。祭典の間はさすがに彼女たちもこの身を宴の一部とする以上介入することはまずない。

 そして一番はこの祭典であぶりだせるかもしれない元No.0の幹部だけでなくⅧから直接情報を得る可能性が出てきたことだ。彼女たちと組むことになってからⅧの魔術について詳しく聞かされていてからその恩恵に預かりたいとは思っていたがこんな形になるとは思ってもみなかった。

「やはり天運はこちらに傾いている。今こそが我々の勝機なのかもしれないな」



「危険だね」

「やっぱ危ないよあいつ」

 彼と離れてから、余計に彼の奇妙さについて二人は語り合っていた。

 ソフィアからすれば魔術の制限というのは魔術師として致命的な一撃になるはずだと考えている。

 だから一度魔術との繋がりを切った時点で叶わないと屈服すると思っていた。だけどあそこまで戦意を全く折ることなく反撃してくるなんて。

「でも祭典が始まっちゃえば私たちのことなんて目を向けてる暇はなくなる。それまでは静かに過ごしておこう」

「それもそうだね。あいつが全部やってくれたし。あとは日になるのを待とう」

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