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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
9章 Battle in New York

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120/220

開幕の宴

「はーい」

 ある日の昼下がり、珍しくインターホンが鳴り家接が出るとそこには見たことのない男が立っていた。

 だが妙だ。この間カラ爺は勧誘が多いからと隠匿の魔術式を家中に仕込んで一般人はこの家を認識することができないようにしていたはず。

 つまりこの男は魔術師か何かということになる。

 生憎、今日は家に僕以外いないのでまた来てもらうことになりそうだ。

「どうされましたか?」

「あぁ、いや。家接孝也様はいらっしゃいますか?」

「それなら、僕ですけど」

 僕に用があるなんて誰だろう。残念ながらそんな心当たりは記憶のどこを探しても見つけることができず、僕一人で話し合っていい相手なのか悩んだ。だが相手の優しそうなその雰囲気にのまれてつい彼を家にあげてしまう。

 彼は居間に座って早々家接がお茶を出す間もなく話を始める。

「今回お家にあがらせてもらったのは他でもない、近々アメリカで開かれる祭典にぜひとも参加していただきたいからなのです。こちらがその招待状ですね。開催日程は封筒の中にある紙に書かれていますのでご安心を。それで、今回の祭典なのですが……」

「待ってください。僕はそんなものに参加するなんて応募もした記憶はないんですけど」

「ですから私は今回行われる祭典の周知を目的に世界中を渡り歩いております」

「じゃあ辞退します。すごく今は忙しくて。そんな祭典を楽しむよりもやらなくたいけないことがあるので」

 未だにⅡのしたことは魔術を使う者使わない者にかかわらず持ちきりの話題になっているし、魔刀使いの犠牲と引き換えに得たⅣの情報をもとにした本体への追跡は続いている。この日本という国一つを取ってもNo.0によって失われたものは大きすぎる。それの後処理と並行したそういった捜索が進行しないのも彼らの信条と魔術を扱う者の信条が相反していることにある。

 いつかは反撃の目を摘む必要があるのを今か今かと耐えているときにそんな悠長なことをしていられないのはたくさんの出来事に実際に経験してきた家接にはとてもよくわかることだった。

 相手は断ることを想定していなかったのか、驚いた表情を見せたがすぐにそれは好機といった様子でこちらに差し出していた封筒の中を出すと改めてこちらに向けた。

「では、これを見てもお断りしますか?」

 封筒の差出人はNo.0のⅢからだった。日本に現れてもおらず。近隣国及びイギリスには目撃事例のない幹部。しかも元々Ⅲは出現地域すら断定することのできていない幹部だったはずだ。

 そんな人物が差し出した手紙を持っている目の前にいる相手はもしかして。

「あなたがⅢなんですか?」

「…………ふふっ。そんなまさか。あまりにも恐れ多いことですよ。我々はA級4N犯。罪を清算する者。それだけ覚えてもらえれば満足です」

 組織名は聞き覚えがない。少なくとも魔狩師協会と関係を結んでいない組織。

 そして言っていることがとても物騒なのを見ても普通の組織ではないのは間違いない。このあたりで家接は彼を家にあげたことを後悔し始める。分かったことは、この男はきっと僕たちの敵だろうということだ。まともに話を聞いていてはどんなものに巻き込まれてしまうのか分かったものではない。

「余計に話を聞く気にはなれないですね。僕たちが今追っているのはⅣです。Ⅲには興味がないです」

「そうですか……。ではⅢが皆さんを集める理由をお話しすれば招待に応じるというのはいかがでしょう。これが単なる祭典ではないということを理解していただけるのでは?」

「だから何度も言っていますけどその話は!」

 突然家の中なのにも関わらず風が唸った。当然それは家接が話をしていた相手に向かってだ。攻撃は命中したに思われたがすぐさま反撃が風が起こった方向に向かって放たれる。砂埃のようなものが起こり、それが鎮まると攻撃をしかけた相手が見えてくる。

「ごめんね家接くん。その話、乗ってくれると嬉しいな」

「おや、家主さんのご帰宅ですか」

 互いに攻撃をしておいて、その上無傷で笑いながら話を続けようとしているところに狂気を感じる。

 何事もなかったかのように座って話に加わろうとするカラ爺。さっきの彼の提案に乗ってほしいとはどういう意味だろう。

「いきなり訪問客に対して奇襲をするというのは人としての常識を疑わざるを得ませんが、私の提案を受け入れてくれるのでしたら潔く目を瞑りましょう」

「提案を受け入れるというのは仕方なくだよ。決して君のような部外者を認めたわけじゃない」

 事実、彼は席についても手にしていた扇子を机に置くでもなく握ったまま。部屋が暑いわけでもないのにそんなことをしていてとても変だ。

 男は席に着いたのを確認して改めて僕にした説明をカラ爺にしようとするが話を盗み聞きしていたカラ爺はすぐに説明を聞いたうえでの結論を述べた。

「話はちゃんと聞いていたよ。僕がその提案を飲む理由は二つ。A級4N犯はそもそもNo.0と魔術世界のいざこざに興味をこれぽっちも持っていないということ。僕たちがⅣを探そうが、Ⅲを殺そうが、はたまたⅧを利用しようがきっと静観を続けるだろう。あくまで君たちの興味、そしてそれに対する趣向は分かっている。二つ目は単純に無視できない事態になってきているからだ。どうやらA級4N犯は僕たち以外の魔術の組合にも手をかけているみたいだね」

「そうですね。それがお望みのようなので」

「それを聞いていくつかの組織が目的としているものを手にするためにアメリカへと向かった。全員が手札を開示した頃には動き出していたというわけだ。であれば早い者勝ち。どうやら僕ら魔狩師協会のメンバー以外はNo.0の動向に必要以上に注視していないみたいだからね。あくまでそれは変数の一つ。魔術師協会の異端が何かを企てている程度にしか認識をしていないようだし、簡単に目的を達成する可能性があるものが目の前にあったからそっちを優先した。まるで魔術師だ。それで、魔狩師協会も動き出さざるを得なくなったんだよ」

 不本意なカラ爺の態度からも、決定がそう単純に決まったわけではないということが伺える。

「それならば快くⅢがあなた方を集める理由をお話しすることができます」

 まともに話を聞いていなかったわけではないが、カラ爺の話を聞いていてどうしても納得できないことがあった。どうして他の魔術師の組合が納得できるような条件をこの男は提示することができたのかと。全員が納得することのできる条件なんてこの世には存在しない。それこそどんな望みでも叶えるといった魔法じみたことならできるのかもしれないが、そんなものは非現実だ。

 だから、カラ爺が彼の提案に納得してほしいといったことに対して表面上では納得するようなことがあったとしても、絶対に心の内では納得することはないと思っていた。

 だが男は最初からすべてを確信したうえで言葉を放った。それがたとえ彼の逆鱗を逆撫でし、交渉の場を殺戮の現場に変えるかもしれない選択になったとしても。そうでもしなければ彼はあの地にやってこない。そして男の望みもまた、果たされることはないのだから。

「その祭典はⅧとの謁見を賭けた戦い。Ⅲはある交渉の末に未来を見通す魔術を有するⅧとの面会の権利を得た。彼女にかかればあなた方の求めるⅣの行方やその未来だって知ることができる。そして、あなたの探し求めている湯田川浩孝のことだって知ることができるのですよ?空咲譲さん」



――――――――――――――――――――

「っ!はぁ……はぁっ!」

 胃がすべて逆さまになってあらゆるものが流れ落ちてくるかと思った。

 家接をそうまでさせたのはカラ爺の殺気だ。こんなにも殺意に満ちている存在を見たのは初めてで、本能的に直視してはいけないと家接の生存本能が訴えかけていた。

 体感一分の出来事、実際には数秒のことだったがカラ爺はすぐに我に返り家接を心配した。

「ごめんね家接くん。我を忘れていたよ。まさかあれだけ取り乱していたⅣを滑稽だと内心思っていた自分がこんな振る舞いをしてしまうなんて。やっぱり年は取りたくないね」

「そうでしょうか?怒りは火を灯すには不可欠だと思いますよ」

 油を注ぐような発言では水に流すことはできない。

 だがカラ爺はそれ以上怒りに身を任せることはなかった。

「どうして湯田川浩孝を知っているのか、なんてベタなことは言わないよ。それもこれも全部アメリカで聞かせてもらうとも」

「そうですか。では受け取ってもらえるということでよろしいでしょうか?」

「もちろん。だから、さっさとお暇してもらおうかな。雪広ちゃん!」

「はいはい」

 ずっと隠れていた雪広がやっと姿を見せると彼の体は空間の歪みに吸い込まれて消えてしまう。完全に姿が見えなくなるとカラ爺は扇子を閉じて机を叩いた。

「それじゃ、準備を始めよう」

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