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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
9章 Battle in New York

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その仮宿は海を越え

「どうやら私たちに遣わされた男の素性ですが、あのA級4N犯という組織に所属している者のようです」

「ワシが言うのもあれだが、向かうのはやめておいた方がよいのではないか?」

 聡明に見える男の後に続いて老人は深く腰掛ける長髪の女性に進言する。

 しかしすでに彼女の思いは決まっているようだった。

「問題ありません。今回は私が直接向かいますので」

「それは……。お言葉ですが、この招待状の送り主はあくまでNo.0です。そんな敵の思うつぼですよ」

「話から察すれば招待をしたのは私たちだけではないはずです。つまり、そこはいくつもの組織が入り乱れる場になる。私たちの動きを完全把握できるわけではないと考えるのが妥当な点を考慮すれば、それを機にⅢを討つことは難しくないでしょうね」

 目下、Ⅴの問題を抱えているとしても隣国でそういったいざこざが起きればそれに乗じてNo.0の幹部を減らすのは何も間違った選択ではない。むしろそのチャンスを生かさずにこちらの国に侵入してくる方が大問題だ。

「それに、今回は大御爺様がいるのですからここを預けることができます。頼みましたよ」

「私はもう引退した身。若い者たちをまとめることなどできないよ」

「そんな謙遜を。この組織を作ったのはあなたなのですから。そんなに自分を低く見積もらないでください。チャンスではありますが、国の外に出るのですから相応の危険は伴います。最悪の場合を考えれば、私と部下の二人を連れていきますね。私の秘書はあなたにお預けするので、どうか勉強させてあげてください」

「……現宿主に言われては返す言葉もない。できる限りのことはやらせてもらいます」

「はい。お願いしますね」

 女性は宿を出る。

 扉の外には雪で全てが覆われた真っ白な世界が果て無く続く。

 雪は降っても降っても消えない。人の足跡はすぐに上塗りされて何も無かったことになる。

 彼女が歩いていった先に見えるのはそれは小さな町だ。そこには人の精気を感じることは無いが、生き抜いている人々がいることを窓から透けて見える朧げな光が示してくれている。

「こんなところにいた」

「宿主、準備はできたよ」

 二人の男女は車から降りて一人で立っている彼女に声をかけた。

 長くその場に留まり続けたせいか、その髪や服には雪がうっすらと積もっている。彼女はそれを払いながら車に乗った。ゆっくりと体を蝕んでいた冷気が車の中の温かさで溶けていく。内側から冷えた体をどうにか温めようと体が動いている。

「行きましょうか。こんなものさっさと終わらせてしまいましょう」

「「了解」」」



 全陣営が揃ったのはマックスが招待状を送ってからちょうど1週間が経った頃だった。

 パーティ会場の入り口は四人の黒服が立っていて、招待状を見せると陣営ごとに個室へと連れていかれる。家接たちもそこに向かうと個室に通されるがその間にある廊下は真っ黒に塗られていて少しだけ不気味だ。

 部屋には大きな液晶が一枚とそれを見るために設置されただろう椅子が10はある。あとは冷蔵庫が一つあり、そこには飲み物がこれでもかと詰め込まれていた。だがⅢの用意した物であるというだけであまり信用にはかけていたので手は付けなかった。

 しばらくして招待者が全員集まったのか液晶がゆっくりと起動音をあげながらつく。

「あ、あー。これ、聞こえてるかな」

「OKみたいだよ」

「そっか。じゃ、みなさんこんにちは。私たちのことを見るのは初めてかもしれないけどたぶんみんな名前は知ってるよね。No.0、Ⅲだよ」

 その画面に映っているのは二人。今まで数字を持っている幹部は軒並み一人だったけど、彼女らは二人で一組なのか。赤と青の印象深い髪色をした二人は健康的な足を出し引き締まった体を魅せる服を着こなしていた。まるでアイドルのような二人だが画面越しでも彼らがNo.0の幹部なのはなんとなく分かる。

「今回、開催する祭典は一人の勝者を決める戦い。8つの陣営の中から一番になるまで終わらないの。そしてその勝者にはⅧとの謁見と一つだけ彼女に未来を見通してもらうことができるよ」

 ルールはシンプル。故に小細工は無意味。

 陣営が一番にならなければその他の方法で目的を達成することはできない。

 だからこそどの陣営もわざわざこのアメリカまで足を運んできたはずだ。

「開催場所はこのアメリカ国内。別に国外に出てもいいけど、その場合どれだけ経っても勝者が決まらないってことだから。私がⅧとした契約が無駄になっちゃうからそれはやめて欲しいな」

「ついでに言うと私たちに対して危害を加えた瞬間にペナルティが発生するから。……どれだけ派手にしてもいいけど、そこはちゃんと巻き込まれないようにするから安心して。でも、あなたたちは魔術の秘匿がなんだって言っているからそんな派手なことはしないと思うけど」

 もの静かな少女の方は的を射たことを言っている。

 参加陣営がどういった人たちなのかは分からないが、彼女の言ったことに関してはおおむね同意があるはずだ。その点で堂々と異を唱えているのはNo.0くらいだから。

「それじゃあ、指定の位置に全員が着いたら始まるよ」

 そう言うと液晶の画面が消え、同時に床に敷かれていた絨毯が淡く光り始めた。

「これ何?」

「僕もなんだか。とにかく部屋から出た方が」

 家接はすぐに扉を引っ張るがそれは簡単に外れた。

「ちょっと家接何やってるの?」

「いや、これは」

 慌てて繋ぎ直そうとするもくっつくどころかその継ぎ目すら見当たらない。まるでそれは最初から扉に貼られていてみたいな感じだ。仕方ないのでドアノブを捨てて扉を蹴り破ろうとするもどれだけやってもびくともしない入った時にはそれほど重くなかった扉なのに今ではまるで壁を前にしているかのような重みが足から伝わってくる。

「四方印、南」

 魔術が起動する前に雪広が三人を建物の外に転移させた。

 8つの部屋に同時に起動した魔術は参加者を四方八方へと転移させるという魔術だった。以前Ⅰに施してもらった魔術式を再利用した形での魔術だったため、出力できるだけの魔力量があればまだまだ実用的な代物だ。

「魔力の反応が、消えた」

「とりあえずこの戦いは始まったんじゃないか?」

 マイクラストが言うや否や、さっきまで重厚そうに立っていた建物が突然柱が抜けたかのように崩れ落ちる。歩いていた人々もその音に驚き、それを見て警察に連絡をいれるようなそぶりを見せる。中であったことがばれないようにすることも織り込み済みなのか、どこからか火の手が上がってあっという間に炎が崩れた建物に燃え広がる。

「証拠はしっかり消していくのね」

「と、とりあえずここから離れた方が良いんじゃ」

 メイニーが自信なさげに言うとみんなそれに頷いたので彼女の顔も明るくなる。

「確かに。それが今は第一優先かもしれない」

「でもこういう時ってどうするのが正解なんだろ」

「どこかに拠点でも作るのが良いんじゃないか?」

「でもそんなことしたらい場所を晒しているようなもんじゃない?」

 だが言っていても仕方がないのでとりあえず近くのホテルに入って部屋を取らせてもらった。四人部屋というものは存在しないらしいので三人部屋を借りることにする。だがそこに四人はいてはいけないと言われたので仕方なく雪広だけ魔術で直接部屋に乗り込むことになった。

 部屋に入るとそこには先に中を物色していた雪広の姿がある。

「ま、いいんじゃない?」

 窓を見ると街を見下ろすことができるほどの景観があった。

 だがそれ故にばれればどこからでも的になる。どちらにしても長居はできない気がする。

「カラ爺に貰った情報によれば」

 開いたノートにはいくつかの組織の名前と、?と打たれたものがいくつかある。

 そのうちの一つには興味深いことが書かれていた。

「この祭典には、サラマンダーが潜んでいる」

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