お届け者です
「私に聞きたいことってなぁに?」
一人隔離された部屋。拷問官はカラ爺。
常に雪広が魔術で空間断絶を行いつつ、万が一の時に対処できるよう霧崎が刀を抜いて詠唱を行った状態で待機している。これほど万全の状態だがそれでも油断ならない。何をしでかしてくるか分からない以上、警戒しすぎなくらいがちょうどいいのだ。
「そうだね。それじゃあまず一つ目。君は何をしにわざわざ日本にまで足を運んだのかな?」
「うーーーん。ひ・み・つ!」
彼女は揶揄うばかりでおおよそ捕らえられているという自覚が欠如してるとしか思えない対応を先ほどからしている。そんな対応にカラ爺も頭を抱え始め、遂には諦めて神妙な顔つきになった。
「それなら、Ⅰについては知っているんじゃないかな」
「うん!最後は凄い結末だったよ!どんな終わり方だったか知りたいの?」
「教えて。そしたらあなたをその後息もできないようにしてあげるから」
身を乗り出して来た雪広は怒り心頭でカラ爺の制止すら振り切ってしまいそうだ。
そんな彼女を抑えて椅子に座りなおしたカラ爺は質問を続ける。
「言わなくていいよ。………質問を続けるね。君のような人形は何体いるのかな」
「全部で5体だよ。それ以上は制御できないからって言ってたね。でも、本当に制御できてるのかな?そんな風に思ったことは一度もないよ」
「あと二体……」
「安心して。日本にはもういないよ」
だが誰も彼女の言葉なんて信用していない。信用されていると思っていて話してしまうあたりが彼女っぽいと言えばそうだが、今回に限っては彼女が人形だということからもより信頼性は落ちている。
今のところⅣを見つけたという情報はどこにも入っていないらしいので引き続き警戒を強めるしかない。
「じゃあ最後に。こらなら君は正直に答えざるを得ないから質問するね」
「どうかな~。私は私が楽しくなるなら嘘だってつくよ?」
「湯田川浩孝は今どこにいる」
その瞬間、笑っていた少女は表情を固めた。
ゆっくりとカラ爺を見る彼女は恐る恐るといった様子で口を開く。
「なんで、その名前を?」
「質問をしているのはこっちだよ、Ⅳ」
カラ爺は動揺している彼女とは裏腹にとても冷静になっていく。そんな様子を見ていた雪広は少し恐ろしいなと感じつつも正しい行いだと思った。同時に自分がⅣに感情移入しそうになっているということに気づいて当てようのない怒りが湧いた。
静かに感情を表にしないのを見てさらに感情的になったⅣはカラ爺に向かおうとするがそれはあっけなく雪広の四方印によって防がれる。ダンダンと叩く音が空間の隔たりに響き、そんな彼女を見たカラ爺はこれ以上話を聞くのは難しいと判断して部屋を出て行こうとする。
「待って、何を知っているの?教えてよ!」
そんなⅣの悲痛な叫びはカラ爺にも聞こえていたはずなのに振り返るどころか立ち止まろうともしない。同じ部屋にいた雪広は涙を流し始めた彼女を見て、このまま潰してしまおうかと手を合わせようとすると部屋を出て行ったはずのカラ爺に止められた。
「やめておくんだ。彼女を倒せばまたもう一体新たに人形が生み出されてしまうかもしれない。そうしたらⅣの情報どころかこちらの戦力がさらに減ってしまう。気持ちは分かるけど、我慢して欲しい」
これは本体じゃないということを心にずっと留めていた雪広だったが、すでに限界に達していた。
今この瞬間に彼女を葬り去ってしまうのをこらえているのはとても苦しい。だけどこれは自分にしかできない仕事だからと我慢をしていた。なんで、どうして。
それでも、Ⅳの足元にも及んでいない事実には目を向けることはできなかった。
「ねぇ、教えて。教えてよっ!空咲!」
三人はゆっくりと拷問部屋をあとにする。
部屋を出た瞬間に霧崎はどっと肩を落とした。
「空咲さんとおっしゃいましたね。あなた、Ⅳについて何か知っていますね?」
「知らないよ。僕は何も」
「当然ですが、我々があなた方と組んだのはⅣを討つことができる可能性が高いと踏んでの事です。もしⅣについてそちらだけが知っている有益な情報があるのだとすれば、これは立派な契約違反です。そうなれば我々はあなたがたのもとで動くことはしませんが」
「その点なら安心して欲しい。この情報、というよりさっきの話はカマかけだから。少なくとも僕以外に知っているのは一人だけだろうし、この情報をもとに動けるほどの大事な話でもないからね」
「それは、信用していいんですね?」
「もちろん。僕の朝霧を賭けてもいい」
聞き覚えのないものだったが、それを大事なものだと判断した霧崎はゆっくりと首肯する。
まぁ、どっちかと言えばこの状況で疑う理由もなかったというのが大きいが。
三人がそうして拷問部屋から離れている頃、同じようにⅣの人形を拷問していた隣の部屋では激しい戦闘音が反響していた。
「私のことが、そんなに好きなの?」
「いったい何の話をしているんですか。僕はただ、Ⅳがどこにいるのかを知りたいだけです」
片腕と両足を失った人形はただ顔を上げて話をすることができない。戦いの跡はすさまじいものになっており、簡単には傷がつかないよう鋼鉄に魔力を込めてダメージを最小限にするよう施されていた壁や天井も傷だらけになっている。
「じゃあやっぱり、私に着いてきてくれないの?」
「まだそんなこと言ってるんですか。もう何回も言いましたけど僕はあなたたちに着いていく気は」
と最後までいいかけたところでこの防音処理が施されている部屋にまで響くような音がした。一体なんなんだと思って後ろを振り向くが、この部屋にまで届いていたのは音だけだった。
「あ、やっと来たみたい」
「何がですか」
「お迎えだよ。私たちのお迎え。じゃあね、また会えたらいいなっ」
鋼鉄の扉は爆弾でも取り付けられたのかと思うほど派手に吹き飛んでいく。そこから伸びた蔓は四肢をほとんど失ったⅣを丁寧に抱えたかと思うとそのまま扉の奥へと引っ込んでいこうとするので慌てて刀を振るって蔓を切り落とす。だがそれを補うようにいくつもの蔓がこちらに、他の蔓はその間に扉の奥へと消えてしまう。
「ちょっと、邪魔!」
炎で燃やし尽くして扉を急いで出るとその蔓は通気口から侵入していて隣の部屋にいたⅣも回収しようとしていた。異常事態を察した数にがこちらに向かってくる。その中には雪広もいたためすぐに魔術で通気口を塞ぐとさすがにそれ以上侵入するのは難しいと思ったのかゆるゆると通気口から撤退していく。
「すぐに外に人を回して、逃がさないように!」
「はいっ!」
カラ爺の声に数人が反応して飛ぶように入り口へと走っていく。通路に放置された二人のうち一人は千載一遇の機会だと植物の魔術を使うが、背後にいた霧崎がそれを全て雪いだ。
「四方印、東西」
「こうなればしょうがないね。両手足は切り落とそう」
そう言うと雪広は二重に同じ魔術を使うと空間が断絶したことで四肢も同時に切り落とされた。
人形ということでそこに痛みの感情は無いらしく悲鳴を上げるでもなく、ただ単にやられちゃったといったような雰囲気で抵抗することを諦める。
「魔封の匣に二人とも入れておかないと次は何をしでかすか分からないな……。本当に君たちは厄介だね」
人一人が入りそうなトランクケースが運ばれてくると、そこに詰め込むようにしてⅣたちが押し入れられる。彼女たちは抵抗するも声をあげるだけで蓋が閉まると声すらもあまり外に漏れてこない。
しばらくして外に出て行った人たちが戻ってくる。
その表情を見るにどうやら取り逃がしたみたいだ。だがそれはもう仕方がない。想定していたことだとカラ爺が言うと申し訳なさそうに彼らは行ってしまう。
「いつになったら、Ⅳにたどり着けるんだろうね」
そんな零れたようなカラ爺の言葉はその場にいた全員に刺さった。
Ⅳの素顔すら知らない僕らは、まだ彼女の盤上にいる。




