勝つために。
「しぶといなぁ。早く捕まってよ」
「こっちのセリフです。早く折れてください」
一度引き離せた二人のⅣだったが、また揃ってしまった。二度目を試みたがそれも上手くいかずに時間だけが経って今に至っている。さっきと同じように霧崎たちが連携をしかけようとしても、一度引っかかっていることもあってか絶対に途中で連携が途切れる。
そのせいもあって二人が揃ったままの相手をしているため、攻めに移せないでいた。
「彼女の植物、あなたの刀に触れても全く発火しないですね」
「昨日雨だったんじゃないの?」
「あぁ、なるほど」
虎々路がそう言うと霧崎は納得した様子で途絶えることのない蔓の応酬を捌いていく。
「それよりも気になることがあるね」
その会話の中に入る人がもう一人。さっきから優雅に座っているだけのサイドゥンだ。彼女は6人がさばききれなくなり押された瞬間にだけ魔弾を掃射して形勢を傾かせないようにしている。そのため、基本的に魔力切れを起こさない。そして切り札にもなり得る。
「どういしたの、サイドゥン」
「こんなにも長期に戦っているのに、どうして相手は魔力切れを起こさないと思う?たとえNo.0の幹部だとしても魔術で編み込んだ人形如きではこんな継戦能力があるとは思えない」
サイドゥンの言うことは一理ある。彼女は以前のような派手な魔術をまだ一つもお披露目していない。出し惜しみしている可能性もあるけど、ずっと攻め過ぎず守り過ぎずを調節して攻撃しているような気はする。
「狙いがあるとしたら、きっと魔力切れだろうね」
「せいか~い。早くしないと、追い詰められちゃうよ?」
前線をはっている家接、虎々路、佐々の三人は後ろの話にあまり参加できない。家接も、とぎれとぎれに聞いているだけで全体の内容を理解しているわけではなかった。特に虎々路は大多数の蔓を一撃で葬れる魔刀ということもあり、一番忙しなく動いている。
「だ、誰か交代して…………」
そろそろばてて立てなくなってしまう頃だが、まだ後ろでは話が盛り上がっていてイライラが蓄積する。それに目の前にいるⅣももう長くは待ってくれない。
「反保さん!」
「どうしたの?」
「僕に一瞬魔刀を向けて下さい。一振りしたらきっちり5秒で魔術を解除してくれませんか」
「良いけど、何するつもり?」
「Ⅳを一人倒します」
最悪死んでしまうなんてことを考える必要はない。彼女は全部人形なんだ。それなら致命傷以上を与えたとして、それを僕が気にしていては全くもって意味が無くなる。
やるなら一撃で、そして絶対に仕留める覚悟がいる。
「それなら、魔力供給を行っている部位を破壊しないと。じゃないと人形だった倒れてもずっと攻撃の手が止まないよ」
「サイドゥン!どこが弱点か分かる?」
彼女は目を見開いてゆっくりと二人のⅣを見比べている。何が弱点なのかはすぐに分かった。
人間よりも構成要素が少ない人形の弱点、つまり魔力供給が行われている地点を予測するなど造作もないことだ。Ⅳ自身の魔力の流れを見てサイドゥンは自分の目を疑うことはしなかったが、その見たままのものを理解することはできなかった。
「弱点は……無い。だけど倒す方法ならあるね」
「どうするの?」
「夜を待とう。彼女を倒すなら夜が一番だ」
「どういうこと?」
「魔術には得意な気候が存在するものもあるだろう?植物の魔術は恐らく昼間の方が魔力消費が抑えられるし威力も多少は高くなる。それならもうすぐ日が沈むから、それまで待ってから全員で反撃しようか」
「そういうことなの?それなら、もう終わらせちゃうね。みんなとは十分遊べたもん」
すると彼女らは最初に敷いた魔法陣に蔓で書き加えを行う。
蔓も陣の一部となって浮かび上がった紋様は出来上がった瞬間に起動する。
「伸びて、茂って、満たして生きて。此処は私の遊戯場」
地面がうわっと風の流れのように草が生い茂ったかと思うとそこからさらに木々が急速に成長して家接が薙ぎ払って更地になっていた場所が一瞬で森の一部と化した。
木々が乱立したことで彼女らの姿は見えなくなり蔓の攻撃がより追いづらくなる。
「先に仕掛けられてしまいましたね。これでは作戦も意味がありません」
「木を切り倒すのは僕とサイドゥン、あとは虎々路さんくらいしか無理そうですね」
「そういうことだ。正面突破といこう」
一番力を持て余しているサイドゥンが魔弾で一直線の道を作り上げる。軌道にあった木々はもれなく削り取られて跡形もなくなる。その間に霧崎たちは木々の間を走り抜けてⅣに接近していく。
サイドゥンの魔弾を止めた相手とはちょうど見合わせることのできる状態になり、僕と虎々路は魔弾で開かれた道を走る。Ⅳはといえば、抗戦の姿勢を見せるわけでもなくただステッキをゆっくりと振るだけだった。
だがそれだけで蔓は彼女の思いを理解したかのように動き始める。
地面は草が伸び放題になっているので蔓が動いていてもどこにいるのかがはっきりとは分からない。
「錬炎、風纏いて、悉く燃やし尽くせ」
炎を纏った風の刃で地面にある草を根こそぎ燃やし尽くすと、その中から飛び出てきたように蔓がこちらに向かってくるのが見えた。
「飛んで!」
「分かってるよ!」
僕の声に反応した虎々路は前方に刀を投げるとちょうど二人が踏み込む瞬間に衝撃が起こって体が浮かび上がった。二人を狙っていた蔓は急に浮き上がった二人に反応できず、その、まま方向転換するがもう遅い。
すでに家接は二人にとって追い風になるように風向きを変えていた。あれだけあった距離も、もう5メートルもない。互いに武器に力を込めて構え始める。
「でもそれじゃあ私には」
「だから私たちがいるんだよ」
如月が二人を斬りつけ、それに気を取られている隙に反保が数回Ⅳに刀を振るう。
そして佐々が二人を縫いあげて木々の間に吊るし上げるとサイドゥンが8包囲からの魔弾を発射する準備を始めた。とどめと言いたげに二人の攻撃は寸前で止まりあと少しでも動けば終わりの場面。
そこまでいったとしても、結局は目の前にいるこれは人形に過ぎない。
ただし、捕まえることができるのだとすればそれはⅣの本体に近づく大きな一歩にもなる。
だからこそここまで厳重にして捉える必要があるんだ。
「霧崎さん、僕と場所を代わってもらえませんか」
「分かったよ」
そう言って刀を引くと同時に彼の刀が彼女の首に向けられる。
「雪広、来てくれる?」
電話で一言、向こう側では面倒くさそうな顔をしているのが目に見えていた。
だがものの一分もしないうちに僕の隣に彼女が転移してくる。事情を説明すると「今度はシュークリームでも買ってきてもらおうかな」なんて言いながらⅣの人形二体を魔術で閉じ込めると全員の武装が緩んだ。
「あっちもこのまま閉じ込めちゃっていいの?」
見ると酒花さんたちが今も徐々にⅣを追い詰めながらも戦いが続いている。
「そうだね。お願い」
「その前に、私が行くよ」
そう言って飛び出した如月は彼女を一振りすると驚いた顔をしてⅣは急に立ち止まる。その瞬間に雪広が魔術を使った。
「四方印、東西」
閉じ込められた三体はただただ疑問を抱えたまま雪広の結界に閉じ込められている。
戦闘が終わり全員が集まってくると、早い話ではあったがこれからの処遇について話し合った。
結論として魔狩師協会が先の二体を、そして公安局特務課が一体を預かり拷問を起こなうということで結論がついた。
「それではまた後に。それぞれの成果を持ち寄って集まりましょう」
そう、ここからⅣに繋がる手掛かりを得られなければ何の意味もない。
あくまで戦いに勝利することは前提条件なのだから。




