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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
8.5章 忍び耐えた者

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忘れたプライド

 霧崎達は同時に刀を抜いて詠唱を行う。洗練された動きは自然だが、それ以上にⅣの動きはまるで初めから二人でいるのが前提の動きで双子のような息のあった魔術はあっという間に7人を取り囲んでいく。

「それは無駄だと、先程分かったでしょうに。たとえ彼でなくともこの程度の魔術、一振りでこのとおり」

 霧崎が振るった一撃が操られている植物に触れると、そこから伝うように木々が爆ぜていく。

「でもまだまだあるよ?」

 地中から生えてきたのは大小だけでなく種類もまばらな幾つもの植物達だ。

 まるで埋まっていた種子を無理やり起こしたかのような急成長に全員で対処しても押され気味になっている。

 サイドゥンや僕のさっきの魔術のような大技をこんな所で連発すればこっちが致命傷を負いかねない。地味に考えられている彼女の攻撃がこちらの選択肢を減らしていく。

「どうする家接。このままだと押されるぞ?」

「分かってますから。とにかくあの二人を離れさせないといけないのが最優先です」

 ただでさえ強すぎるⅣにⅣが加わったら、それは鬼に金棒どころじゃなく鬼にレールガンだ。勝ちの見えない戦いほど、心持ちは悪くなる。

 霧崎たちは攻撃を真正面から受けつつも対応ができるようになってきている。

 僕たちもある程度は捌けるようになってきていた。彼女が攻撃の手を止めないこともあって拮抗状態は続いているが、このままだとあっちの魔力が尽きる方が先のような気がする。

「サイドゥン、一瞬植物を一掃してください。攻撃の隙ができた瞬間に僕が包囲から出てⅣを引き離しに行きます」

「了解。それじゃあ頼んだよ。魔弾、掃射」

 いつものでかい一発かと思われたが、意外にも小さな魔弾をいくつも掃射することであくまで植物の侵食を防ぐために魔弾を使う。

 新調した武器を使うにはうってつけの今回、出し渋る必要は全くない。

 無銘、一文字。天目のあった場所で見つけた業物だったが色々話し合った結果、家接が扱うことになった。その発お披露目の部隊が彼女なのは幸運だ。なんせ、全く加減する必要が無いのだから。

「錬炎、風纏いて、悉く燃やし尽くせ」

 自分で言うのもあれだが、僕の持っている魔術は彼女に対する特攻と言っても差し支えはないと思う。先祖返りの力も、僕自身が得意としている魔術もどちらも植物という魔術に対して強いはずだ。だけどそれでも勝ちきれないのはひとえに彼女の魔術の質が高いことと純粋な対応力や機転が利く力があるからだ。

 なんとか包囲網を脱出した家接は、そのままⅣの方へ向かうが当の二人はそんな家接の姿を見ても全く気にも留めない様子で、サイドゥンたちに対する攻撃を止めるそぶりが無い。むしろサイドゥンの魔術で突破できると知ってより出力を上げたように思える。

「もしかして、私に着いてきてくれるの?」

 以前にも同じようなことを聞かれたけど、返す言葉はあの時から変わっていない。

「お断りします。それより、Ⅰに出会っていないんですか」

「Ⅰ?それって、だぁれ?」

 きょとんとした顔で首をかしげる彼女を見ると、無性に腹が立った。

「なら、ここでやられてくれ」

 家接が刀を振り上げると、それを待っていたかのように地面から蔦が生えて両腕を縛り付ける。振り上げた体勢で身動きを縛られたせいで懐が無防備な状態にさらされてしまう。

「それじゃあ、いこっか///」

 ドンッ!

 とんでもない音と、弾けたように飛び散った蔦が彼女らの周りに落ちる。

「もしかして、私たちは取るに足らないとか思っちゃった?残念。あんたを倒すのは私たちだよ」

 虎々路はステッキのように魔刀を回すと、打ち鳴らして振動を起こした。

「あれ?そっちの目を瞑ってる子だけが強いのかと思ってたのに。でも、それならもっと楽しくなりそうで良かった!」

 視線が外れた瞬間に蔦が絡まった刀を逆手で持ち直すとそのまま炎を纏わせて振り下ろす。そしてしっかりと距離を取ると両手でまた刀を握った。

「5対3は勝てても7対2を勝てるほどあなたは強いのですか?」

「うーん。勝てるかも?」

「なら教えてあげましょう。あなたは私たちに敗北する。頭領の敵はしっかりと取らせてもらいますよ」

「お一人様、ごあんなーい」

 虎々路が言った瞬間、魔刀を二本とも地面に投げつけた。走り出した彼女のもとに返るようにふくらが地面に当たり二刀とも手に渡ると、とどめを刺そうとⅣに向かって両腕を振るう。反射的に防御の体勢を取った彼女だったが、虎々路の狙いは違った。

「残念。はずれだよ」

 そう言って彼女が地面を太鼓のように叩くと、すぐに家接の手を引きながら離れる。

 数秒の後にまた地割れのような音がしてⅣの二人がいた足元の地面が突然地雷でも踏んだかのように爆ぜた。その上にいたⅣは吹き飛ばされ、それを待っていた霧崎と反保が片方を集中的に狙って攻撃をする。何度も反保の刀の攻撃を受けてはいけないと知らないⅣは不用意に受けた一撃に効果がないことに違和感を感じて距離を取ろうとするがそれを霧崎は許さない。蔓で囲まれている自分自身を引っ張り出そうとするがそれそのものの能力を錆丸によって伏せがれる。

 妨害の成果もあってか、彼女は計5回反保の攻撃を受けてしまいその体は何もしなければ宙に浮いてしまうようになっていた。Ⅳはすぐに蔓で自身の体を地面に引き寄せようとするがまたも霧崎によって防がれてしまう。

「さようなら、もう会えないのがとても嬉しいですよ」

「私、負けたなんて言ってないよね?」

 Ⅳは空に引き寄せられながらステッキを振った。すると霧崎の四方を取り囲むように木が生えると枝があろうことか霧崎の方へと伸びていく。さらに地面には無数の蔦が這うようにして彼を追い詰めるのを見て如月は魔術を発動させているⅣへ、虎々路は霧崎を助け出すためにその木々で取り囲まれた中へと入っていく。

「泣け、不如帰。厄介なのは嫌いなんだよ。少し大人しくしててくれないか」

 一瞬動きを止めれればいい。攻撃は髪を掠った程度だったがそれで十分だ。

「え?どういうこと?」

 Ⅳは困惑の声をあげる。霧崎たちを囲んでいたはずの植物の動きが止まり、その隙に浮遊を止める手立てをとろうとしていたⅣはそのまま宇宙に行ってしまう。

「数の有利には勝てない。そのまま宇宙の藻屑となれ」

 一方で、家接たちの相手するⅣは空に浮かぶⅣを見て木を成長させる。そしてそこから接ぎ木のようにしてどんどんと伸びていくと成す術を失っていた彼女に救い手が届く。

 これだけの大樹、虎々路の魔刀があっても簡単に倒すことはできない。数十回打ち込んで生み出した衝撃波でも木を倒すには至らない。

「うそ、せっかく一人倒したと思ったのに」

「どうする霧崎。私の魔刀、そろそろしまった方が良いかな」

「そうしよう。如月の魔術のタネに気づかれたら終わりだからね」

 木にしがみつくⅣ、まだまだ戦える7人。戦況は上々。勝ち筋は十分にある。

 再び戦いの火蓋を上げたのは虎々路だった。

 駄々羅を何十回と溜めていた一撃によって今まで聞いたことのない音と共にこちらに向かって巨木が倒れてきている。

「マズい、逃げて!」

 彼女の叫び声で全員がその場から離れる。倒れた衝撃で起こった砂埃の突風はすさまじく、当然双方その間に敵に一撃を決めんとする。先制したのはⅣだった。

「私、諦めの悪いコは嫌いなんだ」

「そうですか。では他を当たってください」

「だからね、無理矢理連れて帰ることにしたの」

 魔法少女のステッキを鈍器として扱う姿は、到底魔法少女のそれではない。

 仮初の下の本当の彼女が少しずつ、自我を表し始めていた。

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