心弾んで、姿は増えて
幽谷響が示していた場所がかなり正確だったということもあって彼女の足取りは比較的簡単に見つけることができた。ただし、気になる問題もいくつか抱えることにはなったが。
「それで、その西側の人たちと連絡を取る方法はないんですか?」
「残念ながら、無い。そもそも私たちが彼らと連絡を取り合う意味があまり無いというのが理由だね」
「たぶん、顔知ってるのも霧崎だけだと思うよ」
それなら連絡を取り合っていないというのも納得できるような気がする。
でもそうなると、彼らとⅣが接触するのは避けられない。早く向かいたいのはやまやまではあるけど雪広がいない今、最速の方法がこんなに綺麗な座席に座って窓の外を眺めているしかないなんて。
だけどわざわざⅣが日本に訪れたチャンスをものにしないわけにはいかない。
移動中、京都に入った時点で酒花さんは先祖返りの力でいつどこから降りられても良いように準備を始めた。彼の呼び出した幽谷響はもちろん一般の人には見えないので車内であっても心置きなく力を使うことができるのが良かった。
「近くなってきたよ」
酒花さんがそう言ったのは、京都駅が近くなったあたりでのことだった。
最初に探知を行った時とあまり変わっていないような気がする。そのまま京都駅で降りると酒花さんが先頭になってみんなを導く。団体で街中を走る図はあまりにもシュールだが、そんなことを言っていられる時ではない。人目につくのは承知で全員が走る。
車を借りれば良かった気がすると思ったくらいの時だった。突然、酒花さんが立ち止まって幽谷響に聞き直す。何かあったのだろうか。
「そんなこと、あり得るのか?」
「何があったんですか」
「原理は分からないけれど、Ⅳの反応が分裂したと言っている」
「構わない。そのまま追跡を続けてくれないか」
霧崎はそんなことは気にしないと言いたげで、他の仲間も気持ちは同じらしい。
反応は分裂しても僕たちが向かう場所は変わらない。彼らの意思を尊重して、それ以上は時間もかけるわけにはいかないと再び走り出した。
街を抜けて舞台は山道へと切り替わっていく。それでも止まらない足にサイドゥンは少し辛そうだったが、隣にいる湯中さんが彼女を支えていてくれたおかげで速度は落とさずに済んだ。
「どうして止まる?」
足を止めたのはこれで二度目。
少し苛立ち気な霧崎は過剰に詰め寄るでもなく、静かに酒花に尋ねた。
「急に、僕たちが走って来た場所からⅣの魔力を感知した。どうやらこっちの動きは森に入ったあたりから読まれていたみたいだ」
「なるほど。どちらの数が多いのかな」
「東に2、西に1だね」
「なら、私たちと家接とサイドゥンは東を受け持とう。あとの三人で西を頼んでも良いかな」
「分かった。位置だけ伝えておくと、こことここだよ」
酒花さんは何も言わずに彼に位置を伝えると、湯中さんたちを連れて西に向かってしまう。
僕たちも東に向かって走り出したが、その途中でどうして僕とサイドゥンを選んだのかを聞いた。
「気になりますか?」
「それは……まぁ」
「なら教えてあげましょう。Ⅳとの戦闘経験があるのがこの中で唯一貴方しかいなかったからですよ。それに、さっきの酒花という男と別れたので、幽世の魔眼の力を借りて進むので良いと考えたからです。これであなたのその疑問の解決になりましたか?」
「ありがとう。それなら、その期待に応えられるように頑張るよ」
「話をしているところ悪いけど、そろそろだよ」
一番後ろでどこからか拾ってきた枝に乗りこなしているサイドゥンが言った。
「どこから拾ってきたんですか、ていうかいつから乗ってるんですか」
「走るのがしんどくなったからね。それにこっちの方が疲れない」
それは飛行魔術が使えたらの話だ。さすがにそんなポンポンと習得していい、というより習得できる魔術ではないとカラ爺から聞いている。Ⅱの戦いのときも思ったけど、サイドゥンは本当に魔術に関しては天才なんだと思う。少なくとも僕なんかよりは何倍も。
そろそろと言われた通り、魔力を遠くから感じる。
複数人のその魔力はぶつかっていて、もう既に戦闘は始まっているようだ。
「急ごう」
7人がたどり着くと、そこには全く同じ顔をしているⅣが倒れた五人の男女の前に立っていた。
手には彼らが持っていたであろう刀があって振り向いたその顔はとても退屈そうにしている。勝者の前に倒れる彼らはすでに闘志の眼ではなくなっていることもあって、立ち上がる素振りすら見せていない。
「本当につまらなかったな。こんなに早く終わっちゃうなんて」
「十郷!…………返事はない、か」
恐らく西側のリーダーをしていた男に声を掛けたのだろう。返事のない彼らを見て、霧崎はすぐに切り替えて目の前の相手に集中する。
「倒したのは、あなたですね?」
「なに、言ってるの?五人はもうすぐ死んじゃうよ?」
「サイドゥン」
「彼女の言う通りだ。何か、外部から魔力が吸い取られている。推測するに植物かな。それを取り除かないと魔力が奪われた後は生命力まで吸い取られるよ」
だが、最悪なことに位置が悪い。倒れている彼らはⅣを挟んだ向こう側だ。
近づくにはどうしてもⅣとの接触が避けられない。しかも魔刀まで奪われてしまっていて、すべて植物が絡んで取れないように宙に浮いている状態だ。こうなると彼らがたとえ起きたとしても戦線復帰は難しい。
「ん、私と戦ってくれるの?」
「当然。私たちが相手をしよう。雪げ、錆丸。すべて無に帰そう」
「面白いこと言うね。少しは私を楽しませてよ。あっ、私たちか!」
同じ顔をした少女同士が背中を合わせると、同時に持っている杖で地面に陣を書く。線対称のそれは同時に鏡合わせの動きをすることで一瞬で高度な陣でも生み出すことができた。
「命芽吹いて、散る際輝く。我が袖降るるは落葉に満ちる。木枯らし吹いてさざめいて。きりきり舞い」
突然、植物が成長を始めると一気に葉の色が緑から赤黄色に変わって散っていく。それが風を纏って吹き乱れた。しかしそれは一瞬で植物の四季を巡らせたのではない。
吹き荒れた木の葉は触れると家接たちの肌を裂く。そしてこれだけの風だ。到底防ぐという防御手段で対応できるものではなかった。
「ヒンメルエルデ、ベハーシャン」
だけど家接の魔術は風に関することなら誰にも負けない。それらを全て薙ぎ払う力は木々をもろとも破壊ししていく。Ⅳの魔術の力が想像以上だったということもあり、被害は以前ほど大規模なのものではなくなっていたがそれは彼女を驚かせるには十分だった。
「僕は以前のようにはいかないぞ、Ⅳ」
「あなた、誰?…………でも、少しは楽しくなるかも」
Ⅳは笑みを浮かべると杖を地面に叩きつけて、彼女が以前持っていたステッキが姿を見せた。
「がっかりさせないでね」
白に染まった魔法少女は全力で楽しみながら、悪を執行した。




