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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
8.5章 忍び耐えた者

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黒く深く、灰になって

「反保、いったいどういうことなのか説明してもらえますよね?」

「もちろんだよ霧崎。言っとくけど私は悪い取引になんて応じてはいないよ」

「…………嘘ではないみたいですね」

 僕の顔を一瞥した彼は焼けて跡形もなくなってしまった建物をまた静かに見つめている。

 他にも三人がそこに立っていて、それぞれが思いを秘めたままそこから離れられないでいた。

「頭領を倒した相手が分かった。そしてその上でその相手を協力して倒すっていうのが取引の内容。そこまで悪くは無いでしょう?」

「それはあくまで取引でこちらが得る利益の話ですよ。相手方が出した条件でそれが良いか悪いかを判断できます。いったい何を交渉材料にされたんですか?」

「魔狩師もとい、各国の協会に属している魔術師との協力関係の締結。つまり組織に属している人達の魔眼を取るのは止めて欲しいってこと。もちろんこの子も」

「なるほど。では、それでいいでしょう。正直言って貴方の魔眼の能力は”魔眼を探す”ということに関して他の追随を許さないレベルで特化したものなのでこちらとしては是非とも手にしたかったですね。ですが魔眼探しなどというお遊びをしている暇も無くなってしまった。今は頭領を殺した者を見つけて同じ死を迎えさせなくてはならない」

「そのことだけど」

「まだ何かあるのですか」

「これは、彼らの仲間から聞いた話だからどこまで信用していいのか分からないけど、私たち五人で頭領を殺した相手、Ⅳに挑んでも返り討ちに遭うだけだって言われたんだ。にわかには信じられないけど冗談を言っているようにも聞こえなかった」

 カラ爺はあのあと一つの仮説を立てた。

 もしそれが本当だとするなら彼女がこの日本にわざわざ来ている理由にも納得ができるし、魔術学園での出来事で彼女があんな幕引きをしたのにも理解ができた。

「ある男が言うには、君たちの頭領を殺したのは人形だ」

 サイドゥンの唐突の切り出しに四人は彼女を睨みつけた。

 だが、そんな視線も彼女には見えない。だから何も気にせずに話を続ける。

「以前、日本の魔術学園で事故……というより事件が起こった。完全に秘匿された存在として運営を続けることのできていた魔術学園の場所が世間に知れ渡ったと共に、そこに収められていたいくつかの魔導書が消え去った。犯人は二人。一人は雪広四季という少年。No.0の所謂幹部補佐の地位にいた人物だ」

 人差し指を出した彼女はさらに中指も突き立てる。

「そして二人目。自称:雪野白。No.0の幹部、Ⅳだ。彼女はそこでいくつかの魔導書を持ち出したうえに植物の魔術を用いて魔術学園の位置を世間に知らしめた。No.0には管轄があり、すでにⅠが日本の管轄だということが判明していた。だから私もその報告書を読んだときに疑問に思ったんだ。どうしてⅣがわざわざ極東まで足を運んでいるのかってね」

「確か、No.0の幹部にはそれぞれ目的と管轄がある。そのどちらかにⅣが求めていたものがあったんじゃないのかな」

「私たちもそう考えている。Ⅳはそこまでして手に入れたい何かがあるはずなんだ」

 カラ爺から聞いた話もそんな感じだった。そしてカラ爺はそこから先の仮説も立てていた。

「私たちの仲間の一人は、Ⅳは不老不死の力を手に入れようとしているのではないかと考えていたね」

「不老不死?それは現実的に可能な話をしていますか?」

「現実的かというより、すでに実現されている。Ⅰは理論上不老不死を可能にするものを作り上げたと家接たちから聞いているよ」

「そんな馬鹿げた話、信じるとおもってるの?」

 虎々路が言ったように、霧崎たちはあり得ないといった様子だ。だが僕達はそれが生み出される瞬間を確かに目にした。あれだけ周到に、そして殺意を持って生み出されたものだ。信じるなと言う方が無理だ。

 だから霧崎に視線を向けられても僕は静かに頷くことしかできない。表の反応と心で思っていることが同じだったことを見てやっと彼は信用する気になったらしい。

 だがその話には続きがある。

 もし、その仮説が本当だったとして、Ⅰの悲願が叶った瞬間にⅣの悲願も叶ったことになるのか。

 だけどそれは考えれば考えるほどそれは結論の見えない螺旋の中に思考が飛び込んでいく。

 すべてはⅣの口から聞き出せば良いだけの話だ。

「っとまぁⅣについて長々と語ったわけだけど、本題はここからだ。彼女は前回日本に初めて姿を現した時はなぜか人形を用いていた。今回も人形を用いている可能性は大いにある」

「頭領が人形如きにやられたとでも?」

「状況証拠を考えれば、そういった結論なるのもやむを得ないということだ。四人を統括する者なら冷静な判断力が必要だということを忘れない方がいい」

 癇にさわる言い方だがそれを聞いて霧崎は逆に冷静になった。

 頭領という統括権を持っている者がいなくなった今、東西それぞれの統括は五人組のリーダーに与えられる。冷静になれなければレ正しい判断はできなくなる。それを暗に彼女は諭したのだ。

「申し訳ない。冷静さを欠いた発言だった」

「別にいいとも。それより、Ⅳがここに来たということはまだその人形は日本を発っていない可能性が高い。きっとここに訪れたのも何かを得るためにきたはずだ。心当たりは?」

「無いね。基本的に魔刀を渡された者は新たな魔眼を探すために各地を転々とする。以前に出会った場所も、廃村に眠っている可能性のある刀や魔眼に準じた高い魔力を孕んだ物が無いかと探していたんだ。ここにいるのは頭領とその護衛役50人。そして、刀を打つ職人と大量に保管された魔眼やそういった遺物だよ」

 今となっては全て灰になってしまっているが、ここにはきっと貴重な魔眼や刀が大量に保管されていたに違いない。そんなものを簡単に燃やしてしまうあたりが本当にⅣの仕業に思える。

 怒りがひしひしと再燃してきたのか、虎々路は灰になった建物を踏みつけて服や靴を汚しながらも何かを探し始めた。彼女は顔をあげたのはその灰の中から何かを見つけたときだった。

「見て」

 彼女が灰を避けてできた場所を見るとそこにはすでに枯れてはいるが、植物があった。

 近くにはホルマリン漬けになった魔眼が瓶に入っており、外に小さく「制火の魔眼」と書かれている。

「確か、そのⅣは植物の魔術を使うんだったよね。これがその魔術で生み出された植物なんじゃない?」

 灰の下に隠されていた植物。軒下に生えていた植物という可能性が無いわけじゃない。

 だけどこれがⅣの魔術によって生み出されたものだとすれば、日本に出ていく前に追いつくことができるかもしれない。試してみるだけの価値は十分にある。

 問題はこの魔術の持ち主をどうやって調べるかにあった。

「今から私が連絡するので、すぐに車に」

「問題ないよ。僕がいるから」

 車に向かいながら電話を掛けようとした湯中さんを止める。酒花さんが突然、灰の中を歩いて植物のあるすぐ近くまで行く。

「こうも適任すぎる仕事が目の前にあると、なんだか読まれているような気がして時々恐ろしく思っちゃうよね」

 誰に言うでもなく彼は呟くと、以前見た先祖返りの力を解放した。

「そういえば、家接君には言っていたかな?僕の先祖返りについて」

「確か妖怪の先祖返りだって言ってましたよね。鎌鼬を呼んでいましたから」

「そう。でもあれは実際に妖怪の力を借りているだけで僕の力じゃないんだ。僕はぬらりひょんの先祖返りだから、色んな妖怪との縁がある。そんな記憶が体に宿っていてね。例えばこんな風に好きな妖怪を呼ぶことができる。出ておいで、幽谷響」

 犬のような猿のようなよく分からない生物が突然現れる。そしてその生物は酒花さんの言うことを聞くと静かにその枯れた植物に手を当てて目を瞑った。

 しばらくするとそれはまた酒花さんに何かを言うと颯爽と森の中に姿を消した。

「まぁ、彼は少しシャイなんだ。だけどちゃんと仕事はしてくれたね。この植物の魔術を使った人物は西に、詳しく言うと滋賀と京都の県境に今はいるみたいだ」

「…………待って。そこには私たち以外の残りの魔刀使いが五人組を組んで今、同じような命令を受けているはず」

「わざわざ西に…………。そのままイギリスに向かうつもりかな」

 だけど逃がすわけにはいかない。

 そう、Ⅳはあらゆる方面に喧嘩を売りすぎた。その代償が支払われるのは、もう遠い先の話ではなくなってきていた。

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