宣戦布告を彼の物に
特務課に戻り倒れた少女の容態を確認したがいくらかダメージを負ってはいるものの地面に倒れた時に何かしらで安全に着地することができたのか、折れている骨もなく一日休めば目も冷めるとのことだった。
「それもまた、彼女のこの刀の力によるものなんだろうね」
「念のため刀だけ回収しときますか?」
「そうしようかな。目覚めてすぐに刀を握られて逃げ出されても困るから」
別の特務課の人に刀だけは回収される。
彼女の容態次第ではまた他のことができるが、今はとりあえず彼らが撤退した理由を考えるべきだ。
隣の部屋ではすでにサイドゥンが上座を陣取って座っていた。
「やっと来たね。さっき誰かが彼らの退却の理由を教えに来てくれたよ」
「それってなんだったの?」
「聞いたところによると頭領と呼ばれていた人物もろとも一夜にして天目の拠点が破壊されたみたいだよ。拠点探しに向かっていた何人かの特務課の人から報告は受けたから間違いは無いようだけど、その人達も帰る前に始末されてしまったようで実際に天目の拠点の場所がどこかは誰にも分からないってわけ。幸い、大まかな場所だけ分かっているのが救いだと思うよ」
拠点ということはそれなりに人数がいたのにそれを凌駕したということ。しかも追跡の目も完全に潰していることで発見を遅らせようともしている。
つまりあの時連絡が取れなくなったというのはこのことを言っていたんだ。
だとするなら気になる点がある。僕達が戦っていた相手は上澄みだとしてそれだけの組織のトップの存在をそんな短時間で倒せるような存在なんているのだろうか。
いや、いなくはないだろうけど仮にそうだとして動機が無い。少なくとも魔狩師の側から忙しいこの状況で喧嘩をふっかけるような事をするような余裕は探しても見つからない。でもだとするなら誰がこんなことを。
「多分というか、犯人はもう確定しているんだ。さっき彼から電話があったから」
「?」
どういうことかと思っていると後ろの扉が叩かれて外から知り合いが何人か入ってきた。
「カラ爺、どうしてここに?」
「Ⅰへの接触は最重要機密として教えてはくれなかった。帰り際にⅣのことを追って探し回っていたんだけどね、なんか最終的にここに着いちゃった」
僕はサイドゥンを改めて見ると静かに頷いた。
「そういうことだね。もしそうなら聞いていた話からして妥当だと思うよ」
「またⅣが絡んでる…………」
最近の出来事のほとんどにⅣが絡んでいる気がする。一体何がそんなにも彼女を引き寄せるんだ。
前回湯中さんに聞いた話だと日本の管轄はⅠのはず。前回の魔術学園の時もそうだったが、どうしてわざわざ日本にまできて手を出してくる?
考えているとまた扉を叩く音がする。今日はたくさん人が来るなと思いながら扉を方を見ると倒れていたはずの少女が起き上がってこっちに来ていた。
しかも、その手にはちゃんと回収されていたはずの刀があり、物言いたげな表情のまま彼女は何も言わないまま僕の隣に空いていた席に座る。
こうやって敵陣営の話し合いの中で一人単身で物怖じせずに入ってくるあたり、だいぶ肝が据わってる。彼女は自分に出されていたわけもないのにお茶の入ったコップを手に取るとそれを一気に飲み干して机にドンと置く。
誰もが彼女の行動に圧倒されていると、その目は目を閉じたままのサイドゥンの方へと向く。
「先ほどの話、聞かせてもらえますか?」
「敵に塩を送るほど私は心優しい美少女じゃ無いんだ。他をあたることをおすすめするよ」
「なら、あなた。教えてくれる?」
次なる標的は隣にいた僕だった。じーーっと僕に迫ってきて何としても話を聞き出そうとする気概だけはあるので下手に逃げることもできない。
僕は他の人に視線を送ったが大半の人は諦めムードだ。カラ爺にも視線を向けると頷いてから優しく笑った。これはいいということなのだろうか。でも離さないとこの詰め寄りは終わらないので、僕はさっきまで話していたことをかいつまんで彼女にも伝えた。だけどそれは彼女からすれば聞いても心地のいい話ではないし、むしろ気分を害するかもしれない。それでも彼女は僕の話を最後まで黙って聞いてから内容を飲み込んだ。
「それなら私なんかを助けるよりも優先するべきことだね。それじゃあ、私は行かないといけないところがあるから行っても良いかな?」
「構いません。出口は扉を出て右に出たエレベーターで一階を選択すればそのまま歩いて出ることができますよ」
「…………何、言ってるの?なんでそういうことになるのか全然分からないんだけど」
「どういうこと、と言われても。私たちはもとより戦うために会いに行ったわけでは無いと家接くんが伝えているはずですよ?」
「目の前に、敵対している相手が捕まっているのに何にも聞き出さないなんて本当にどうかしてるよ。そこまで終わってるとは思って無かった。本当に、失望だね」
苛立ちを露わにして席を立ち上がろうとしたところでカラ爺が扉の入り口を塞いだ。
「何ですか。出て行って良いって言ったのは貴方たちですよね?」
「それはまぁ、そうなんだけどさ…………。もう少し話を聞いていってからでもいいんじゃないかなと思っただけだよ」
「お構いなく。そのⅣという方は私たち五人で倒しますから」
そう言って無理矢理出ようとする彼女だったがカラ爺はそれを許さない。
「それが無理だと言ったらどうする?」
「無理なわけっ」
「断言するよ。君たちがⅣを倒しに行ったところで返り討ちに遭って命を無駄にするだけだ。だから一度僕達と手を組まないかい?」
彼女はすぐに霧崎と書かれていた連絡先に電話をかける。だがいくら待ってもその電話の相手が出ることは無かった。それがどういうことなのか。カラ爺の言葉を聞いた前と後では勝手に補完していることもあるが意味が変わってくる。
「分かった。なら、今すぐに屋上に出させて」
カラ爺は湯中さんを見る。彼女が頷くと彼も扉の前から離れて出ることを許した。
「私以外に五人、誰か来てください。手を組むという話は本来私なんかの独断では決められないですけど状況が状況です。私の空近で直接天目の拠点まで向かいます」
さっきまで彼女らと戦っていた僕達+カラ爺が推薦して酒花先輩が選ばれた。理由はⅣと相性が良さそうだから。でも、考える時間も惜しい中でカラ爺が決めた人選なら安心だ。
警視庁の屋上に出ると今日は少し強めの風が吹いていた。
風向きを見てから彼女は誰か風を操れる魔術を使える人がいないかと尋ねる。当然だが僕以外は全員僕に視線を傾ける。もちろん知らない彼女もその視線を見て僕の方を見る。
「使えるの?」
「まぁ。一応、風の精の先祖返りなので」
「ならちょうど良かった。あっちに向かって風向きを変えて欲しいの。できるならもっと強めに風を吹かせてくれない?」
「分かったよ」
僕は先祖返りの力を開放して風を引き起こす。無理矢理に風向きを変えたのでかなり魔力を消耗はしたけど、彼女のオーダー通りにしっかりと強風が指さした方向に吹き始めた。
「随分、先祖返りの力が体になじんできたみたいだね」
「はい。おかげさまです」
そんな短い会話の間に屋上の端に立った彼女は刀を鞘から抜いた。
「天を仰げ、空近」
抜いた刀は詠唱を唱えた後でもどこか変わった様子は無い。
だけどすぐに僕達に近寄ると剣を振るって刀身とは反対側を当ててきた。すると地面を踏みしめる感覚が少しずつ消えていき、最終的に両足が地面から離れる。
「うわぁ!これ、なんですか?」
「私の刀の能力は触れた対象に浮遊する力を与えるというもの。その回数が増えれば増えるほど地面を反発する力が強くなって、いずれは何もしなくても地球から離れているくんじゃないかな」
「そんな面白い魔刀があるんだね」
酒花さんは面白いと言いながらひっくり返ったり空中を泳いでみたりしている。サイドゥンとかも同じ感じだ。というか目が見えないのによくそんな受け入れられるな。
「あ、当然だけど手は握っててもらうぞ、家接」
このままどこか遠くまで漂って行かれてしまうよりはましか。僕は彼女の手を握る。
先頭は先導として彼女が、最後尾は年長者の酒花さんが受け持った。僕はと言えば、風の調整が必要な時に彼女からの指示を聞けるように彼女の後ろにいることになる。
「この風の強さなら30分もかからないと思う。行きますよ」
最初にこの警視庁の領域から出ていく。それに続いて僕達も風に乗った。
しばらくは直線に進むしか無いということなので、暇な時間ができる。カラ爺から少しでも情報を引き出すように言われているけれど、本当に話してくれるかな
だけどそういった不安は全部この握っている手の先にいる人物が解決してくれた。
「ところで、呼びづらいから名前を聞いてもいいかな」
「反保。反保一二三だよ」
「変わった名前だ。じゃあこっちの自己紹介しておこうか。私はサイドゥン。隣が家接。あの刑事が湯中で、小さい男子がマイクラストで一番後ろが酒花だ」
「聞いてない」
「共闘関係を結んだ以上、戦闘時に名前が分からないとうのは致命的だよ。自分の安全のためにも必要なことだ」
「安全、ね。それならなんで貴方は一度も目を開けていないの。そっちの方がよっぽど危険だと思うけど」
「確かにそれはそうだ。私としたことが。だけど私はこの通り、元から目が見えない。別にそれを見て気に病む必要は無いがそれでも前線で戦えているのが私の戦力としての証拠だと思って欲しいね」
彼女は盲目というデメリットがあるとしてもそれを凌ぐほどの魔力量と魔眼の力がある。並大抵の魔術師よりは強いのは間違いない。
「では逆にこちらも質問させてもらおうかな」
「良いよ。こっちも質問したから」
「もしⅣを倒せたら、このまま協力関係を続けてくれないかな」
「倒せたら?」
「ああ。倒せなかったら死ぬだけの話だからね。その後の話なんてする必要は無い。だけどもし倒すことができたならそうしてほしいって話だよ。同じ魔眼を収集する同じ穴の狢ということもあるけど、日本に来るたびに狙われてるんじゃ世話無いから」
「霧崎たちも助かっているのが条件なら飲み込むよ。私だって貴方の魔眼については興味があるから」
「じゃあ決まりだ。ということで頼んだよ家接。絶対に誰も死なせてはいけないから」
「いくらなんでも」
「頼んだよ」
あまりにも理不尽過ぎる要求に僕はため息をつくしか無かった。




