要求では無い、これは命令だ
先日訪れた廃村は、戦闘の痕跡もそのままにして使われているようだった。一度の戦闘ごときでは拠点を変えるつもりは無いのか少し離れた地点からでも魔力の反応を伺うことができる。
「完全に舐められてますよこれ」
「まぁ、それに見合った強さを持っているってことだからね」
金谷はさっきからそわそわとして落ち着きが無い。実際に出会っていない二人からすれば相手は未知の存在であってあまり強気になることはできない。だが、裏を返せば相手も二人のことを知らないんだ。
相手の能力がほとんど分かっていないことを考慮しても上手くすることができれば不利な状況を返すことができるかもしれない。
「じゃあ、作戦通りにいこう」
湯中の号令と共に、四人は二人ずつに分かれての行動を開始した。
サイドゥンが予め敵がどこにいるのかを把握し押してくれていたため、奇襲は容易にすることができる。
だが、まず最優先にするべきなのは霧崎という男を戦闘に参加させないこと。そのための奇襲と言っても過言では無い。
「いたね」
霧崎を見つけた。多分200メートル以上離れているが、魔力そのものを視るサイドゥンからすれば距離なんていうのは関係ない。きっと相手も気づくことの出来ない距離から観測されていれば奇襲に感付くことは不可能なはずだ。それに、後ろでは分かれて待機している湯中さんたちがいて僕達の動きを待っている。あまり時間はかけられない。
「やっぱり、ここは先手必勝で行こう。力の暴力で彼らに格の違いというものを見せつけようじゃないか。一瞬で形勢逆転といこう」
「魔弾で集中放火してもすぐ気づかれるから意味ないよ。他の手を考えないと」
「分かっているよそんなことくらい。だから目の前にすごくちょうど良い人がいるなぁと思っただけだよ」
ちょうどいい人ってまさか僕のことを言っているのか?
自身に指を向けるとサイドゥンはうんうんと頷く。
「一回、私の魔弾みたいに全力で風の魔術を使ってみてよ。風の精の先祖返りなんだから、竜巻くらい起こせるんじゃないかな」
「良いんですか。どうなっても知らないですからね」
「安心して。後ろの二人がなんとかしてくれるとも」
「いや、そんな買いかぶりされても困ります」
「だけど奇襲するならそれくらいしないと。数の有利を覆すくらいの何かはしないとね」
自分の中で無意識のうちにセーブしていたが、まだ本当に全力を出したことはない。
Ⅳと戦う日までに強くならないといけないんだ。もっと自分の力を見つめ直すべきなのかな。
「分かりました。そこまで言うなら一回本気でやってみますよ。でも、加減できる自信はないので少し離れていてください」
そう言って僕は先祖返りの力を解放する。流れる血液のように風の精の力が体中を伝播する。溢れそうになるその力を感じつつもそれをせせらぎのように空気中にゆっくりと漏れ出させていく。
「ヒンメルエルデ」
静かに吹いていた風の向きがゆっくりと変わっていき、それは穏やかなながらも確か力をもって強くなっていく。何かの前触れを察知したかのように鳥たちはざわめいて羽ばたきと共に風はさらに吹いていく。木々が揺れ木の葉が舞い、風はその力の底を知らないかのように強く強く、強くなる。
「ベハーシャン」
風が渦を巻き始める。
人が立っていられるのかも怪しいほどに強くなった風は中心に向かって何もかもを引き寄せるように引力を引き起こす。木々も生物も見境なく、その悉くを飲み込んでいき天を破るほどにまで高く舞い上がった竜巻はその地面すら削り起こす。
当然、中にいた彼らはその竜巻に飲み込まれどこかに吹き飛ばされるか、なんとか耐えるも相当に体力を消耗するかのどちらかだ。
後ろの三人も驚いていたが、それ以上に家接自身が一番驚いていた。
竜巻はやがて力を失ったようのその半径をゆっくりと縮めていくとその跡形が地面に現れ始める。
あれだけ木々が生え自然豊かだった森はそこだけ全てが失われたような更地になっており、竜巻が全て消えるとぼろぼろになった姿の四人が倒れていた。
かろうじて立ち上がることのできた霧崎も随分と疲弊しているように見える。
「雪げ、錆丸」
刀の柄からゆっくりと錆を帯び始める。彼が手始めに切ったのは倒れた自分の仲間たちだった。
一振りでぼろぼろになっていた服は元に戻り、二振りで立てなくなっていた彼らが立ち上がれるほどの元気が戻った。自分自身にも二回ほどその刀身を打ち付けると仲間と同じように服の汚れも体力も戻っているように見える。
刀は気づけばさっきよりも錆が進行していて、刀身の半分以上が錆ていた。
「やられたのは、反保かな」
「なら大丈夫じゃない?たぶん死んでは無いよ」
「私はしばらくこの刀を休ませないといけないので。すみませんがしばらく三人で相手をお願いします」
「はいはい」
全員が刀を抜いた。
奇襲をしかけてこの様なのかと思うと相手が格上なのは明らかだ。
もう一度同じことはできるが、対策されているかもと思うと迂闊にできない。
「一回の詠唱で一人やってしまうなんて、流石というかなんというか」
「でも今なら人数有利は消えましたね。叩くならチャンスですよ」
金谷の言葉を聞いてサイドゥンは「魔弾、照射」と言って全方位から四人に向かって休憩する暇も与えない攻撃を開始した。
「金谷くん、彼女を援護してあげれる?」
「了解です。先輩って近距離戦の方が得意ですもんね」
「一言余計!」
金谷は更地になった場所に延々と放たれる魔弾を見ながら鞄から帽子を出すとそれを深めに被った。するとさっきまでの柔らかな雰囲気だったのが一変し神妙な顔つきになると霧崎たちの方に目を向ける。
「蟒蛇、影ごと飲み尽くせ」
そう言って彼の影から伸びた蛇はそのまま地面を這いながら四人に近づいていく。
家接は影と共に走りだし、遅れて湯中も続いた。
「錬風、悉く斬り尽くせ」
追い風を起こして一歩一歩が大きく彼らに近づくのは数秒しかかからない。短剣とはいえ、風圧と勢いの乗った一撃は相手を吹き飛ばすのに十分すぎる。
家接の一撃を受け止めた少女は大きく吹き飛ばされた。
「虎々路!」
「いいから、佐々は前見て!」
彼女の前には湯中がいる。すでに準備の整ったその構えは家接は一度見たことがあった。
「纏、風の器」
彼女の拳はみぞおちに入り、そして同時に風の拳が二段階の攻撃になったように同じ場所に命中する。だが、彼女はかろうじて立てている。苦しそうな表情ではあるが、まだ戦いの意思は消えていない。すぐに刀を抜くと吹き飛ばされた少女も着地の前に刀を抜く。
「あとの二人はどうにかするよ!」
後ろで金谷さんの声が聞こえたので僕は霧崎ともう一人のことは考えないようにした。
「弾けろ、駄駄羅」
「仕立てな、絹猫」
それぞれの刀の形が変化し、同時に魔力の感じが変わったような感じがする。
「佐々、相手変わろう。そっちの方が相性が良い」
「分かった。なら、すぐに終わらせてよ」
「当たり前。こんな奴すぐに倒してさっさとあの奥の子を連れて帰るんだから」
もちろん二人ともそんなことを許すはずが無い。
家接は強風域を発生させ、それと同時に湯中は地面に拳を当てると魔術で金谷とサイドゥンの足場を高くするとともにその前方の地盤を下げて堀を作り上げた。
「これで簡単にはいけなくなりました」
「もちろん倒されるのは貴方たちですよ」
四つ巴の戦いが始まった。




