既知との遭遇
「それにしても、一年も経たない間にNo.0がここまで活発になるとは思わなかったな」
「そうですね。僕もあれからⅠとⅡとⅣ、それにⅧにも会いました」
「けっこう会ってるね。でも誰も死んだっていう情報は入ってないけどやっぱり彼らに勝つのは難しい?」
エレベーターに乗りながら彼女はちらっとこちらを見る。物腰柔らかそうな目にしてはその奥の好奇心は隠せていない。思い返せば戦績として勝った相手は誰一人としていない。だけど出会った中で強さの順位付けをあえてするのだとしたら恐らくⅣが戦闘能力としてダントツなのは変わらない。
ⅡやⅧが戦闘向きじゃないことを加味したとしても彼女は強い。……何よりあれが本体じゃないというのが一番恐ろしい。人形であの強さは異次元だ。
「正直、僕はまた戦いたいとは思いたくない相手ではありますね」
「そうだよね。だいたい、他の幹部級の相手も足取りすら掴めないっていうのが恐ろしいよ。気が付いたら身近にいて、一瞬にして壊滅なんて起こるかもしれないから」
エレベーターがの扉が開いてセキュリティを越える。そこを越えると無菌室のような消毒液が染みこんだような匂いが鼻についた。
「だけど、私たちもただ黙ってるわけにはいかない。だからその前にやることやっておこうか」
湯中の持つ部屋にはすでに刀鍛冶の里についての資料が大量に集められていた。
山のようになった資料の間から一人の人物が頭だけを覗かせている。僕たちが部屋に入るのに気が付いた様子でゆっくりとこちらを見た。
「進捗はどうかな、金谷くん」
「湯中先輩、さすがにこの資料を一人でまとめるっていうのは無茶すぎますって。あ、僕は金谷良太です。お二人の話は先輩からよく聞いていますよ。今回はよろしくお願いしますね」
「よろしく」「よろしくお願いします」
年上の人にこうやって敬語で話されるのはなんだかむずがゆい。サイドゥンは慣れているんだろうけど、僕は全然だ。
「ま、そんな堅苦しくしなくても良いけどね」
「そうなんですか?なら、家接くんサイドゥンさん改めてよろしく!」
随分と明るい人だ。僕がいつもいる人とはテンションが一回り高い。
挨拶も終わると机の上の資料が大量に散乱していることに気が付いた金谷は慌てて資料を整理し始め、湯中もそれを手伝った。最終的に家接もそれを手伝ったが、サイドゥンは終始椅子に座ってそれが終わるのを待っていた。
資料を整理している間にいくつかに一瞬を目を通したが、刀鍛冶の里というのはどうやら一つの場所を指すものではないらしい。あくまで各地にいくつもある刀鍛冶の集落の総称としてそう呼ばれているに過ぎず、そう考えるとこの間の人たちの拠点は他にあるんだろう。
片付けが終わると湯中は初めに自分の席に置いたファイルから別の資料を取り出した。
「まぁこんな資料を読んでいても何にもならないので、重要なものを一枚にまとめておきました」
「せんぱ~い!なんでそれを言ってくれなかったんですか!僕のこの努力が無駄じゃないですか!」
「でも、刀鍛冶の里で生み出される刀だったり魔刀を扱う人たちのことについては理解できたよね?」
「それはまぁ、そうですけど」
妙に納得させられたのか、返す返事に先ほどの怒気は籠っていない。
「二人に教えておくね。彼らの使う刀は少し特殊なんだ。魔刀と言って、刀を打つ時に同時に魔力を流し込むことで魔力を流し込んだ人に備わるなんらかの魔術の力を得た刀に変化するの。そして、魔力を流す代わりに材料に魔眼を使うとその魔刀はさらに強い力を得る。その五人の持っている魔刀はもれなく全部、魔眼が使われているはずだね」
なら霧崎という人は一人で二つの魔眼を持っているのと変わらないじゃないか。
あまりにも理不尽すぎる事実を突きつけられながら彼女は家接たちに渡した紙について話し出す。そこには日本地図がでかでかと書かれていて、その中には赤点が至る所に打たれている。
「これ、なんですか?」
一見しただけでは何の地図なのかは分からない。自分たちの見知った地域にだけ着目してみるけれど、それでも赤い点が何を示しているのかはよく分からなかった。
「僕も分からないです。湯中さん、これはなんですか?」
「これは、家接くんたちと接触した魔刀を使う人たちの出現した地域を指しているんだよ。日本にある魔狩師協会に属さず、そしてなんらかの形でも関わることなく独立した存在として今なおその運営を行っている組織が一つだけあってね、それが今回君たちが会ったその魔刀を使う人たち。組織名は”天目”。シンプルでけっこう良い名前だよね」
「言ってる場合ですか」
「まぁ落ち着いてよ。一旦、その赤い点がある場所をしっかり見てくれない?」
落ち着いていないのはたぶん湯中さんの方だと思うけど。以前よりもなんだかやけにテンションが高いのは気のせいじゃない気がする。彼女の言う通りによく見てみるとその点が打たれている場所の特徴が少しだけ分かってきた気がした。
「強いて言うなら、山林に偏ってることですか?」
「正解!最近、彼らは山林にある村々に行っては残された刀を回収しつつ、そこを拠点にしながら街に出て魔眼の所有者を探すというのを繰り返している。つまり出没場所は限られてくるしなんなら奇襲をしかけることも難しくは無いってこと」
奇襲ができるなら人数不利は簡単に覆すことができる。それに公的機関が味方についているから事態が悪い方向に転がったとしてもこっちが不利になるということ少ない。そういう意味では今回の協力関係は正しいのかもしれない。
少なくとも日本でしかできない戦術だ。
「天目の目的は分からないし、仮にでもこの魔眼と刀の回収が目的と設定して話を進めるのが現状妥当だと思う。で、ここからの作戦立案は金谷くんに任せるよ」
「分かってますって。とりあえず今考えてみた作戦としてはやっぱりどれだけ相手の戦力を分散させることができるかが問題ですね。調べてみたところ、この天目という組織はメンバーが頭領と呼ばれているリーダー格を含めて11人構成の小さな組織でした。そして二人が出会った五人がまとまって行動していることから5人組が基本。刀鍛冶の里のことも考慮すれば、東と西で五人ずつ別れているはずです。なので今考えるべきはその五人です」
「そうだね。五人について何か魔術だったり何かしらの情報は無い?」
「一人、恐らく魔眼所持者がいます」
憶測に確信が持てなかった家接がサイドゥンを見ると彼女は頷いた。
「確かに、あの中に一人魔眼所持者がいたね。名前は霧崎とか言ったかな。恐らく条件があるはずだけど対象の思考を先取りできるような能力を持った魔眼のはずだよ。じゃないと無線を使って伝えるなんてできないはずだから」
彼が唱えた瞬間に使った刀の力は全く異なっていた。
どちらもマイクラストのあの魔術を一振りで無効化しているんだ、そっちも決して油断できるような力じゃない。
「能力を見ることができたのは、その四人を纏めている人だけと。他のメンバーの刀の力、魔術は分からないか。……難しいね」
誰もが戦いを前提に話を進めていたところで、家接は少し逡巡した後に三人に提案する。
「なら、一度休戦協定を結びに行きませんか?」
確信は無いが可能性はあった。
きっと選択を間違えなければ彼は応じざるをその要求に応じざるを得なくなる。




