血は争えない
「また厄介なのに絡まれちゃったね」
「ごめん、私がいたから引き留められたはずだった」
「そんなこと無いよ。柚葉ちゃんはやることやってくれた。それに、サイドゥンちゃんの魔眼はしっかり守ってくれたわけだから」
「ははっ、ちゃん付けされたのなんていつぶりかな」
サイドゥンは少しだけ嬉しそうに笑う。年齢は僕とさほど離れていないけど、もう魔術師としてのキャリアはきっとベテラン以上のものを持っているんだろう。それならそんな呼び方を久しくされていないのも納得する。
「さて、話を戻そうか。正直なことを言うと彼らと真正面から対峙するのはできれば避けたい。僕たちが成すべき最優先事項はNo.0の目的を止めることだからね」
「でも絶対、また現れますよ」
「うん。対処は必要だよね。幸いなことに刀鍛冶の里は本拠地が分かってるんだ。日本に5つ。ここから一番近いとなると神奈川になるかな」
説得をするにせよ、戦いに発展する可能性というのは十分にあったということもあって僕はてっきりそれに同行するものだとばかり思っていたがカラ爺は僕に違う仕事を割り振った。
「今回僕はⅣの目撃情報があったから少し出ないといけない。酒花くんにも着いてきてもらうつもりだよ」
「待って。私も行かせて。Ⅳがいるってことはお父さんもいるはずだから」
雪広はカラ爺に詰め寄ったが、それでも彼は首を縦には振らなかった。
「どうして!」
「……Ⅰはすでに死んだ。イギリスにその死体があると聞いているよ」
「えっ?」
胸倉を掴んでいた雪広の手がぐったりと落ちる。Ⅰはあの後、姿を消したけど死んだっていうのはどういうこと?Ⅳと戦って死んだ?それとも間に合わなかった?だけどその疑問にカラ爺は答えない。だが目を伏せる彼の次の言葉は雪広を絶望に追い込むには十分だった。
「正確には”クォデネンツの守り場”というロシアの魔術協会のような組織によって回収されてイギリスに送られたらしい。死体には彼が生み出したはずの溶液は無く、死体の周辺にもその成分は検出されなかったらしい」
ロシアでⅠが亡くなった。その事実は驚いたがそれ以上に疑問がわく。
僕たちが彼と最後に会ったのは中国の内陸側。もしそのままⅣがいるだろうイギリスに向かったのだとすればわざわざ北の地であるロシアの方を回って向かう意味が無い気がする。それにだ、No.0の幹部はそれぞれが担当する国や地域が存在しているはずなのにⅣだけがそこまで無制限に各地を飛び回れるのだろうか。
「でもね、僕も彼がこんなことで死んでしまうようなタマだとは思えないんだよ。だから今一度その死体も確認させてもらいに行く。ということで改めて雪広ちゃん、僕と一緒にイギリスに行くかい?」
「もちろん。絶対にお父さんは死んでないから」
「そういうことで、僕たち三人はここでお別れ」
「待て」
黙っていたマイクラストが口を開ける。何か言いたげなことがたくさんあっただろうがそれを飲み込んだ様子で話し始めた。
「僕もできればそのⅣ探しに行きたい。だけど生憎メイニーと魔術学園の後処理を任された。今のあそこをよく知っているのはもう僕たちと校長だけだ」
メイニーは先んじて魔術学園に向かっていて、マイクラストももうすぐに行かないといけないと決まっていた。ただそれでもⅣに対する復讐心というものは雪広に負けず劣らずその心にある。
そんな彼の気持ちを汲んだ雪広は「大丈夫。もし出会ったら絶対に倒すから」と自分にも言い聞かせるように言った。
「なら任せられるな。僕はもう行かないといけないから、後は頼んだぞ」
そうして残されたのは僕とサイドゥン。今井はすでに別の仕事に向かっている。
彼らが団体で行動しているとして、僕たち二人でやり合って会話に持ち込めるようにできるだろうか。少なくとも僕と戦いをしたあの少女は話が通じないような気しかしない。
「振り分けると結果的に家接くんたちの戦力が手薄になる。そこで色々考えたんだ。別にこの日本で魔術に精通しているのは魔狩師協会とその傘下だけじゃないってね」
「というと?」
「家接くんはすでに知り合っているはずだよ。とても心強い組織と」
タクシーはすでに手配してある。
カラ爺の言葉通り、協会を出たすぐの道路には予約車と表示されているタクシーが一台停まっていた。
後ろに二人とも乗ると窓が下りてカラ爺の声が聞こえる。
「僕からよろしくって言われてたって伝えといてくれるかな」
「分かりました」
「うん。それじゃあ、互いに頑張ろう」
運転手が窓を閉めると車は動き出す。視界からカラ爺たちが消える瞬間、雪広が小さく手を振っている気がして僕は後ろの窓から見えているのかは分からないけど手を振った。
「なんでこうも二人は奥手なんだろうね」
「どうしたの急に」
前を向いて座った僕はそんな風に呟くサイドゥンに聞いた。
杖を持つその右手の指がトントンと持ち手を叩く音はどこか重くそれでいて心地いい。彼女は目が見えていないにしてはあまりにも周りが見えている。どこかふざけているようで実際は大真面目だというのが最近変わった彼女に対する印象だ。だから彼女の一言一言にはとても興味がある。
「なんでもないよ。私には見えていないものがあるんだなと思っただけだよ」
「まぁ、目は見えないからね」
「急にデリカシーの無いことを言うな。それで、これは一体どこに向かっているんだ?」
「どうだろう。僕もカラ爺から結局聞き出せてないし。運転手さん、これってどこに向かっているんですか?」
ミラー越しにこっちを見た初老の運転手は無表情のまま淡々と目的地を伝えた。
「警視庁公安局特務課です。この車は対魔力漏洩を防ぐために魔力が練られた金属のボディですので仮にこの周りにそういった外敵がいた場合でもこちらの存在を把握することは難しいです。無事に目的地に着くことができるのでご安心を」
男の言う通り車はそのまま地下へと入りエンジンが止まると扉が開いた。
「私の送迎はここまでです。ここからは」
「久しぶりだね家接君」
「湯中さん!」
「私が二人を案内するよ」
久しぶりの再会に少しだけ心が躍っていた。




