当たり前だ
「なるほど。ここまで揃っているのですね」
立ち上がった男は手で拭くの汚れを払うと刀を握った。どうやら戦いを終える気は無いようだ。
「一人でやるつもりか?」
マイクラストが挑発的に聞くが、彼は態度を改めない。代わりに妙な質問をした。
「私は初めから一人ではない。貴方たちの力の度合いを確かめていただけですよ」
男はそう言って空を切る。すると、濯がれた偽りが消え隠れていた彼の仲間と思われる人物が姿を見せた。
「早いね霧崎。でもま、一人でこの量は無理か」
「酷え奴だな虎々路は。でもま、これくらい一人でやれるだろ」
「ちょ、二人とも。そんなに霧崎さんを責めなくても」
「私、帰っても良いかな」
五人で言い合いになっているのを家継たちはただ呆然と見ていた。
突然現れた人達に対する驚きより喧嘩が何故か始まった事に対する驚きの方が大きすぎるせいでなんとも言えない気持ちになる。仕掛けてもいいものなのかと躊躇う気持ちを取っ払ってくれたのはサイドゥンだった。
「魔弾、射出」
五人全員にめがけて放った攻撃をそれぞれが刀を抜いて防ぐ。彼らはどうして口喧嘩なんかしていたのかも忘れてしまったみたいにその視線をたが一人に寄せた。
「見間違いだと思っていたが、どうやらそういうことじゃなかったのか。やはり自分の目を信じるべきだね」
先にどこかに行ってしまった白井と雪広もサイドゥンと一緒にこちらの様子を見て来ていた。
全員の服装や雰囲気は違うものの、全員が共通して刀を持っている。
「なんだ、めっちゃ好戦的じゃん。なら私もやっていいよね」
その中の一人が家接とマイクラストのいる方を向いたかと思うと突然、煙球をいくつも投げ込んだ。
周囲一帯が煙で見えなくなり、僕はマイクラストを連れて煙幕から出るように走った。幸いかどうかは分からないが家接の霧のように魔力の感知を阻害するなんて代物ではなかったこともあり、敵の大体の位置は把握できる。
「僕が霧払いをするから、その瞬間に目についた相手をマイクラストの魔術で閉じ込めて。あくまで時間稼ぎで良いよ。まるで罠みたいだ。ここに居続けるのは良くない気がする」
「同感だ。あいつらの刀も、なんか魔術を纏っていて変質してるのか分からんがおかしい。ひとまず帰るのは正解だろうな」
「できると思う?」
先手を取られた。まさか自ら視界を絶って相手の動きを見えなくしたのにそのデメリットを背負ってでも突っ込んでくるなんて。短剣で受け止めきれたものの、その勢いに家接は後ずさりしながら前傾姿勢になれず力で抑え込まれる。
「家接!」
「気にしないで。とにかく霧は払うから、後は頼んだ」
家接が足踏みをすると、それと同時に先祖返りの力が発動する。その力の開放の余波で発生した風で煙は全部取り払われ、隠れていた他の敵が丸見えになった。
「器用なこった。でもま、そんなの関係ないけどね」
切っ先が家接の頬に触れると、それだけで裂かれた皮膚から血が流れる。腰につけている鞘からも分かる通り、かなりの業物みたいだ。加えてこの剣技だ。武道の武の字も習得してない家接からすれば受け止めきれているだけで褒めて欲しいくらいであって、今は先祖返りの力のおかげで力だけで張り合っている状態だ。このまま時間稼ぎにならずに負ける可能性は十二分にある。
「それでも、時間稼ぎはしないといけないんで」
僕は鍔迫り合いに近い体勢になった瞬間に短剣に渦を巻くように風を纏わせた。一瞬、刀と剣の交わしている空間が歪んだ瞬間を狙って思いっきり横風を起こす。
「今、って思った?」
僕が仕掛けようとした瞬間に横風を起こした反対からも強い横風が起こって彼女の体勢は崩れなかった。やはりおかしい。さっきから思考が読まれている。
「何かしらのずるをしてるのは分かります。教えてもらえたりしないですか?」
「あははっ!面白いね、家接孝也。面白いから教えてあげるよ」
彼女は髪で隠れていた耳からイヤホンを取り出す。これは、誰かと通信……相手はあの男か。
「そう。思考を読むっていうのは私じゃなくて霧崎の仕事。私の能力はもっと面白いんだから」
彼女が自分の力を見せようとした時だった。メガホンをしているかのような大きな声が響き渡った。
「帰るぞ」
霧崎と呼ばれた男の厳格なその一言は有無の一つすら許さないような雰囲気を纏っている。現に目の前にいる彼女もその声を聞いた瞬間に冷めたような表情になって刀をしまったのだから。
「ちぇ、つまんないなぁ。そんなんだから霧崎はつまらないって言われるんだよ」
「これは頭領の命だ。逆らうなら今ここでお前を八つ裂きにするぞ、虎々路」
「怖い怖い。じゃあ、そういうことだから。次会う時はちゃんと楽しもうね」
再び彼女は煙球を投げると、今度こそ煙に紛れて消えてしまった。
煙が晴れるとサイドゥンたちと対峙していた相手も消えてしまったらしく、文字通り煙に巻かれてしまったというわけだ。
「これは一本してやられたね」
「私じゃなくてベテランの誰かなら状況も違っていたかも。ごめん、力及ばずで」
「強襲されたら誰だってこうなる、仕方ないよ柚葉」
あれだけ協会では喧嘩していた二人もしおらしく慰め合っている。
あれは結局なんだったんだろうか。
協会に戻ってカラ爺に伝えると難しい顔をした。そんなに深刻なことかな。
目的は分からないけれど、やれないことはない。家接は内心戦えると思っている。
しかしことはそう簡単な話でもない。
「刀を使っているなら彼らは間違いなく刀鍛冶の里の者だ。彼らも、蝋火会や僕んとこみたいに名目上は魔狩師協会の傘下に入ってはいるんだよね。けど、彼らの悪癖というか悪行というかに魔眼収集というものがある。これは一般人だろうがなんだろうが、魔眼を所持しているだけで彼らの標的になってしまう。もちろん、魔狩師や魔術師もその例外じゃない。つまり、彼らは敵でもないけど、味方でもない存在っていうことになるかな」
「でもそれならどうして今までこんな表沙汰になってないんですか?」
そんなことを生業にしているんだったらボロが出てもおかしくない。だけどそれにも正しく理由があった。
「それは簡単だよ。純粋に魔眼の所有者が少ないからさ。彼女のように魔眼収集で事業を興している変わり者がいるくらいには需要がある。あともう一つ、理由を加えるとしたらオーストラリアが消えたことかな」
まだ誰も納得はしてない。大陸が消えたことと彼らの動きが活発になるのにつながる点なんて無い気がする。だけど一人だけカラ爺の言いたいことを理解した白井はサイドゥンに聞く。
「それなら私が教えてあげる。サイドゥン、あなたこの世界に確認されている魔眼の所在についてどこまで把握している?」
「それならすぐに答えられるとも。私たち魔眼愛好家の間ではそれぞれが持ち寄った情報によって大まかな魔眼の所在をまとめているものがある。だから今回のオーストラリアの一件は悲しいね。あの大陸にしか発見されていない希少な魔眼はいくつもあった。それをこの生が終わるまでに拝めないかもしれないというだけでとても悲しいとも」
「つまりそういうこと。魔眼はもともと死ぬ前に摘出しなきゃ消えちゃうものだけど、一瞬にして大量の魔眼の行方を消してしまう可能性が浮上した以上、今のうちに得られる魔眼は得ておこうって考えになるのは当然だよ」
活動が活発になった時期と僕らの移動が重なっただけ。でも危険な存在に変わりはない。
「あの」
「家接くん、どうしたのかな?」
「彼らを止める方法ってないですかね」
多分放っておいても良い気がする。だけどNo.0の活動が活発になった今、余計な心配はしたくない。
集中できるようにしておきたい。
「まあ、それは無いね」
「え?」
「だって彼ら、戦うの好きだから」
刀は身に纏うだけでのものじゃない。
血肉を刻んでこそ初めて意味を成す。特に、修羅に堕ちた彼らの魔剣は。




