榮羹のために
五人の訪れた場所は、すでに人が営みを放棄している廃墟だった。
魔狩師をやっているとこういう場所での仕事は多い。とは言っても僕自身はあまりまともに仕事をした記憶が無いけれども。なので魔狩師としてプロの雪広がいるというのはとても心強い。
「えっと、カラ爺によるとこの辺りのすでに廃墟になっている村が魔術師の拠点になっている可能性が高いみたいだね」
「場合によっては破壊もやむなし……ってそんなこと勝手にしていいの?」
「いいんだろ。ならさっさと全部流して終わりで帰るぞ。面倒くさいし」
半ば投げやりになっているマイクラストはすでに仕事達成度云々よりも面倒くささの方が勝っている。だけど早く帰りたいのはお互い様だ。何より、そんなことをしてサイドゥンが納得して帰るとは到底考えられなかった。
「さて、どこにいるのかな?」
すでに独断専行しているサイドゥンには白井さんが着いてくれたので良かったが、こっちにもそんな彼女を見てひとりでに行動を開始した人がいた。
「マイクラスト!待ってってば」
「なんであのサイドゥンとかいうやつは良くて僕はダメなんだ。魔眼持ちだかなんだか知らないが、そいつを見つければ良いんだろ。なら別に団体で行動する必要は無いと思うけどな」
「そうじゃなくて。サイドゥンは自分の持っている魔眼で他の魔眼持ちを見つけられるからわざわざ別れて探す必要が無いんだって」
「そうか。良かったな」
ダメだ。全然聞いてない。僕は彼の腕を引いて止めるも振り返った彼は睨みつけたまま握った腕を振り払う。
「なんで怒ってるの?」
「……なんでもねえよ」
マイクラストはゆっくりと杖が立つように地面に差し込んでいく。
「波紋を起こせ、ゆらぎが示すは彼の敵。風が囁き凪は消えゆく。風纏、空殻」
突風がどこからともなく降り出したかと思うと、パッと風が鳴き止んで杖を持ち上げたマイクラストが歩き始める。僕はまだ彼の魔術を一つしか見たことがない。五行で言えば水。その系統の魔術師か使えないと思っていたけどそんなことはなかった。
「今、何したの」
「魔眼持ちの居場所を探したんだよ。この村に近づいている気配は一つ、それも僕達が通ってきた道じゃ無い。多分獣道か何かを通って来ている。尾行されないようにしているみたいだが、ここに魔力の気配をいくつも感じて離れたぞ。追うなら早いほうがいいだろ」
「分かった。雪広、いける?」
「転移は無理だよ。座標が分からないし。とりあえず二人とも寄って」
二人が並ぶと、それを指で囲んで唱えた。
「四方印、北。これで姿は消える。魔力も多少は漏れないようになっているから。魔力を発した瞬間に姿は術は解けるから気をつけて。私はあの二人のところ行ってくる」
雪広がいなくなって、マイクラストと目を合わせるとすぐに彼は動き始めた。まだ向かっている方向には魔力を感じないけど、けっこう感知範囲の広い魔術なんだな。
しばらく彼に続いて走っていると僕でも感じることのできる気配が一つ進んでいる方向に現れる。
「この距離になったら多分気づかれる。とりあえず別れるぞ。できるだけ魔力を悟られても言いように挟み撃ちで攻める。いいな?」
「もちろん。念のため、霧を出しておいても良いと思うけど」
「いや、それは大丈夫だ。せっかく今は姿が見えていないんだ。その利点を活かさない手は無い」
マイクラストは左回り、僕は右回りで相手を挟み込む形にする。
だが、その相手に接近して奇妙なことに気がついた。
「なんでこっちに反応を示さないんだ?」
いくらなんでもこの距離で反応しないはずがない。これは誘われていると思った方がいいのか。それともこのまま挟み込んで仕掛けるべきか。マイクラストが距離を詰めいてるのを見ると決断できる時間はそこまで長くない。
「そうだ」
家接は、ある方法を思いついてすぐに来た道を引き返した。
マイクラストはほとんど所定の位置についたところで急に家接の魔力が動き出したのを感じた。
「おい、何やってんだあいつ」
まぁいい。こうなったら一人でもやってやる。
そう思ったマイクラストだが、彼もまた相手の妙な点に気がついた。
「なんでこっちの存在に気がつかない?」
攻撃を仕掛けるために距離を近づけるマイクラスト。だが、相手はこちらの存在を全く認知していないかのような振る舞いを見せている。雪広の魔術は魔力を隠すとは言ったが、それはあくまで認識阻害程度のものであり、しっかりと魔力感知能力があったり意識して魔力を感じようとすれば感じ取れる程度のもの。それにここまで近くまでくればそんなもの無くても感じ取れないとおかしい。
こいつ本当に魔術師か?
「そう、疑問に思いませんでしたか?」
「はっ?」
マイクラストはとにかく相手と距離を取った。
あり得ない。姿が見えていないはずなのに彼は確実に僕と目が合った。しかも直前まで彼が歩いている姿を目にしていたんだぞ、どうやってこの距離を一瞬で縮めた?
「あぁ、分かりますよその気持ち。貴方の心が不思議で不思議でたまらないと言っているのが聞こえてくる。ですがその答えをお教えすることはできません。貴方自身の手でその答えを見つけてくださいね、マイクラスト殿」
それを聞いた途端、マイクラストは心に決めた。こいつはここで葬っておかないといけないといけないと。そう決めたからには隠れている意味も無い。杖を彼に向けて叫んだ。
「そうかい。なら、お前をここで殺すほか無い」
死を身近になってからだろうか、この言葉は重みが加わったと同時に軽くも感じたのは。
少なくとも、目の前の相手が僕達の脅威になり敵対となって現れた。その時点で死を覚悟して現れた相手のはず。文字通り殺す気で行かないと勝てない気がする。
「おっと、それは困りますよ。貴方、ではなく彼女は生け捕りにして捕らえなくてはならないので」
「波紋は消えた、ゆらぎが示すは彼の敵。水面に沈み凪を成せ。水纏、空殻。誰のことか知らないが、まずは僕を倒してからにしてもらおうか」
紳士のような服を着た相手は余裕のある笑みを見せ、腰にある刀の鞘に手をかけた。




