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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
8章 貴方が見えない世界の果てで

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VS魔眼収集者

「やはりその魔眼、何かカラクリがあるね。残念ながら早すぎて見えないけれど」

「さてどうだろう」

 これはもっと長引きそうだな……。

 二人のボルテージが上がって行くにつれて戦闘が長引くのは目に見えていた。ここで時間を無為に使う必要はないのに彼女はすでに相手のペースに引き込まれてしまっている。何かきっかけがあるなら僕は彼女を担いで全速力で逃げ切るつもりだ。

 サイドゥンは仕掛けた魔術に加えて緩急を付けながら徐々に彼の逃げ場所を奪おうとしている。対してルッチはステッキを逃げながら配置を行いながら円形状に陣を築いていた。彼女は気づいてか気づかずか攻撃に際していくつかのステッキを破壊していたためその陣の完成はすぐにはされない。

 だが、すぐにできないだけであって完成しないわけではない。僕は戦闘中だった彼女を抱えると霧を展開した。最短距離で霧から出ると稲光のようなものが霧の中で迸っているのが見えた。恐らくあのステッキの中にいれば無差別に攻撃を食らうようになっているのだろう。霧はやがてゆっくりと消えてまたⅡの姿を拝むことになる。

「これじゃあずっと拮抗しますよ」

「良いじゃないか。君たちの方が有利だよ」

「僕達はあなたの策略を止めに来たんです」

「なら今やっていることは何かな」

 確かにそれは間違っていない。彼はまた笑みを浮かべてこちらを見ている。いったいその笑顔に何の意味があるんだ。そう思ったところで抱えていたサイドゥンを降ろす。彼女は自分の足で立つとその姿勢のままこちらを見る。さっきから一言も喋っていない彼女は目の見えていない虚ろになったような目を向けていた。

「サイドゥン?」

 声を掛けても返事が無い。何度が声をかけて体を揺すってもみたが反応すら示さずにただ立っている。いったい急に何が起こったんだ。周りを見ると彼の姿はいつの間にか消えていて視線を彼女に戻すとサイドゥンすらもその姿を消した。

「……まさか」

 こんなに変な状況ということはつまり、僕は今あの男の詐術にかかっているということだ。

 だけど解除方法が分からない。自分の頬でもつねれば夢から覚めるみたいに現実の視界を取り戻すことができるだろうか。そう思って僕が両手で頬を持とうとすると頭を思い切り誰かに叩かれた。

 頭を抑えながら顔を上げるとそこには彼女がいた。

「家接、しっかりしろ!」

 僕はどういうことかと顔を上げた。なんとサイドゥンがⅡの攻撃に押され始めていた。

 もちろん彼女は僕のことを庇いながら戦っていたというのもあるが、純粋に相手の火力感が上がっている。主に水と雷の魔術を中心にした戦い方になっていることで魔弾一本の彼女が徐々に押され始めた。僕はすぐに立て直せるように霧を極小範囲に展開して相手の視界を防ぐ。その上で炎と風を纏わせた短剣を投げながらⅡに向かって一直線に走った。

「サイドゥン、魔弾!」

「あぁ、分かったよ」

 何をして欲しいかは言わなかったが、彼女ならきっとどうにかしてくれると信じて咄嗟に出た言葉だった。そしてその信頼通り彼女はやることをやってくれた。

 彼女の生み出すことのできる最速の魔弾を僕の投げた短剣の柄にぶつけた。速度を上げた短剣はそのままⅡが反応することのできない速度で彼の左腕に突き刺さる。炎と風を纏った刀身によって周囲の皮膚と肉は焼けていき、風によって刻まれた皮膚は赤黒く匂いの強い血を流した。その流れた血を判断材料にして家接は霧の中を進み彼に迫る。痛みに苦しみ短剣を抜こうとしたⅡは一瞬判断が遅れたことで短剣の柄を家接に握られてそのまま切り裂くように引き抜かれ、距離を取った。しかしそれでも右手で左腕を抑えているその手の指の隙間からはとめどなく血が溢れている。

「これはマズいですね。一気に不利になってしまいました」

 展開していたステッキはその数を減らし、やがて彼の手にある一つだけが残る。左腕の血は止まることはなく、とてもじゃないが顔色は良いとは言えない。それでも彼は悠然とした態度を貫こうと懸命に表情だけは崩さないように堪えているように見えた。

「それも演技ですか」

「もしそう見えるのだとしたら嬉しい限りだ」

 そう言って彼が左腕を押さえるのを止めると右手でポケットからスカーフを取り出す。それを負傷した左腕に被せて指でカウントダウンをするとゼロになった瞬間にスカーフを取って見せた。そこにはさっきまでの負傷が嘘かのような怪我一つ無い左腕がある。

 だけどさっき、僕は確かに彼の左腕を切り裂いた。それは紛れもない事実だが彼の能力があればそれも可能なのか?堂々巡りになる問答に終わりをつけるのは難しいが、戦いの火蓋を閉じるのは簡単だ。目の前にいる相手を倒せば良いだけ。それ以上に考える必要は無い。

「倒せれば良い」

「そういうことだよ家接。何も考えなくていい。その雑念の蓄積が私たちの敗因になり得るからね」

 左手で握られたステッキはまた数を増やしていく。そうして僕達は再び取り囲まれることになるが、先ほどと違うのはその使い方だった。

「これははったりなんかじゃないよ」

 それぞれのステッキからサイドゥンの使う魔弾と同じ魔力の反応を感じる。もちろん相殺するために彼女も同じことをするが、そうすれば当然彼女自身ががら空きになってしまう。

「隙だらけだよ」

 彼女の明確な弱点である盲目を利用されてしまった。完全に目が見えているという前提の間合いで戦っていた家接では彼女とルッチがいる場所まで間に合わない。

 風の魔術を使ったとしてもサイドゥンを巻き込んでしまう可能性が高い以上、ここは一か八かでやるしかないと勢いをつけて短剣を投擲の要領で投げつけた。

「遅いよ」

 みぞおち深くに一撃を入れて気絶してしまったサイドゥンだが、その直前近くに設置していた魔術を自分に向かって放つようにしていた。短剣がルッチに届く寸前、背後から放たれた魔弾は空いていた左手で短剣を握りその勢いのまま魔弾にぶつけて相殺する。

「だから、遅いんだ」

 短剣は道ばたに捨てられ、ルッチはサイドゥンを抱えたまま砂塵に紛れて消えた。

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