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KING  作者: 安三里禄史
十二章
69/77

12-4

 夜が明けるよりもはやく、キングになってから数日が過ぎようとしてもおさまらない高揚を発散させるため、リーズはアストレーヴの通りを走っていた。なにかとあぶないから朝を待て、と兄のロレンツに忠告されたが「ひとのなかを走りたくない。なにかあっても自力で解決する」と言い張って、兄の不安を募らせた。

 固い地面に足が疲れ、土の道はないのかと気楽に路地を徘徊していると、どこからか騒ぎが聞こえてきた。大通りをのぞくと、遠くの広場にひとだかりが見える。行ってみると、角灯を手にしたふたりの王宮騎士に男が尋問されていた。リーズは知り合いのその男に仰天して、ひとをかきわけ声をかける。

「ナジさん! どうしてここにいるの?」

 ナジはリーズに気が付くと、ほっとして助けを求めた。リーズが事情を聞いていると、いつのまにか騒ぎを知ったヴァンクールがジークを連れ、広場に来ていた。自分と同人種のようなジークの風貌をナジはまじまじと見ていたが、かれが誰であるかは認識していないようだった。ロスカ語を知らないヴァンクールの横でジークはナジの話を一心に聞いていた。

 状況を把握したジークは、「馬を貸してください」とヴァンクールに頼み、事情を説明しながらドルレアン邸へ急いだ。

 そのうちに、騎士に知らされたグランディオたちが広場へおりてきた。ナジはテオジールを見ると、嬉しそうに笑顔を見せて頭をさげた。誰であったかと角灯を近づけると、ノーラルのロスカ人集落で騎士に殴られ怪我をしていた男だとテオジールは思い出した。

「テオジールさん、ハーシュがウォールレストに連れ去られたみたい!」

「どういうことだ」テオジールはリーズに説明をもとめる。

「えっと、最近ロスカから来たっていう女のひとが、ウォールレストのロスカ人を集めて計画してたんだって。ハーシュに復讐するためだって、殺すつもりだって」

 テオジールはアーヴィンに屋敷を見てくるよう指示した。太陽神派の反乱は予想していたが、ナジが事実を言っているとして、どうやってアストレーヴの門を通ったのか、そして屋敷へ侵入したのか。広場と大階段をしきる門の錠はあいていたらしいが、不明な点が多く、すぐには信用できなかった。

「なぜロスカ人であるあなたが、我々にそれを知らせるのです?」

 ナジを知らないグランディオもテオジールと同じ見解であったが、念のためグレンとキースに馬の用意を指示した。

 リーズがグランディオの質問をナジに通訳すると、こう答えた。「リーズさん、こう伝えてください。あなたたちは我々を助けてくれた。王都でのことはわたしは知らないし、事実かもしれない。けれど簡単にあなたたちを悪人だと決めつけたくなかった。わたしがしていることはロスカにとって間違いなのかもしれないが、残酷な計画を知っていて知らぬふりをするのは、恩を仇でかえすことになりはしないか、よくよく考えた。じつはいまでも迷いながらここまで来たけれど、あなたたちのおかげでわたしたち家族はウォールレストに住むことができ、しあわせに暮らせているのです」

 リーズはナジの思いを、所々聞き返しながら騎士たちに伝えた。

 ナジはさらに続ける。「計画は教会の中で聞きました。かれらに協力すると言って、ここまで来ました。少年を眠らせ馬車に乗せたとき、個人的な恨みを晴らしたい男がいると嘘をつき、ひとりでここに残りました。それと、王宮の場所を探していると子どもに出会ったので道を聞きました。言葉が通じなかったのでどうにかして状況を説明しようとしましたが、子どもは帰ってしまいました。一気に喋ったので怖がらせてしまったかもしれません。もし今この場にいれば謝りたいのですが」と、最後に周囲のひとだかりを見回した。

 リーズが伝える内容は群衆も聞いており、そのなかの誰かが、「当然の報いだろう!」と言い放ったが、リーズはそれを幻聴かと思った。

 馬の蹄の音がして、ヴァンクールが広場に現れた。人びとの期待を裏切った少年を助ける必要などない、と群衆はヴァンクールを囲み、抗議した。

 このさわぎをリーズは考える。あまりのひとだかりにうんざりし、豆粒のようなハーシュメルトの声もとどいてこないのではつまらない、と昨日の演説を聞かずに帰ったリーズには、なぜかれが急に嫌われだしたのか、理解できなかったのだ。

「どけ! 邪魔だ!」

 手綱や足を掴んでくる群衆を手で払いながらヴァンクールが叫ぶ。かれがもたもたしていると、途中はぐれたジークが遠くの路地から大通りへさっと現れ、疾風のごとくウォールレスト方面へ馬を走らせていた。ジークが狭く走りにくい路地を選んだ理由を、ヴァンクールはこのとき気が付いた。

「どけと言っている! 一貫性のないやつらめ!」

「それはおまえのほうだろう、ドルレアン! 敵対していたハーシュメルトを助ける理由がどこにある!」押し寄せる群れから怒号がとぶ。

「信念を貫くためだ、おれの正義の邪魔をするな!」無理矢理馬を進ませるも押し戻される。

「放っておけ! すこし痛い目をみればいい!」

「そうよ! 戴冠式までしておいて務めを放棄するなんて、わたしたちをばかにしているわ!」人びとは絶え間なく声をあげる。

「いい加減にしろ! 退かぬなら」話し合いは無駄だと感じたヴァンクールは威勢よく剣を抜く。「串刺しにしてやる! さあ、首を差し出せ!」

 銀の残光消えぬうち、馬のいななき轟きて、あげた前足地に着くころは、群衆散りゆき道となる。

 遅れを取り戻すように疾走するヴァンクールが見えなくなったところで、ようやくグレンとキースが馬を連れ、続いてアーヴィンも屋敷から戻ってきた。

「屋敷中、探しましたが、どこにもいませんでした。それどころか、ルディアーノまで!」

 乱れた呼吸のせいでたどたどしく報告するアーヴィンの顔は、いまが昼間であればどれほど青ざめているか、誰の目にも明らかであっただろう。グランディオたちが王都を発ったのは、まだ日の出前の時であった。

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