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逢海寛人 8月14日 午前8時01分 渡良瀬市 私立律明学園

お待たせいたしました、約一ヶ月ぶりの更新です。


最近はもう忙しすぎるので、学園都市に妹達(シスターズ)じゃなくて、弟達(ブラザーズ)の生産でも頼みたいくらいです。

 

「うぅ……、頭が割れそうなんですけど……」


 僕は背中にリュックを背負い、律明学園の校門の傍に立っていた。

 周りでは響夜さんや準一さん、阿久津さんと矢島さんが僕と同じように、銃や荷物を持って、出発の準備をしている。僕らはこれから、僕の友人の屋敷に向かうのだった。でも、全員が頭痛に悩まされている。


 理由はというと、もちろん昨日食した卵の厚焼きが原因である。

 あの後、生徒会室で卒倒している僕ら五人を発見し、保健室まで運んでくれたのは浅代さんや雅人たちだった。原因は熱中症や脱水症状など、色々と挙げられたがのだが、和泉さんの名誉を傷つけたくないと響夜さんが言ったので、敢えて本当の原因は伏せて、熱中症ということにしていた。まあ、それでも五人が同時に熱中症になるというのは変な話だが……。


 それでも何とか回復することが出来たので僕は今、ここに居る。

 今回ばかりは自分の自己修復能力の高さと、鋼鉄の胃袋に感謝すべきだろう。でも、多分次は無い。だから、今度からはあの和泉さんの料理(シロモノ)だけは絶対に口にしないようにしよう。


 出発前の僕らの傍には、見送りとして雅人や鈴、実質的に留守を任される女教頭の刈谷さんが居た。

 雅人が眠そうに欠伸をする僕の腰にある拳銃を見て、予想通りの台詞を吐いた。


「おい、寛人。そんな装備で大丈夫か?」


「大丈夫だ、問題ない――、と言いたいところだが、一番イイのを頼む」


 その返事が聞けて満足したのか、雅人は満面の笑みを浮かべた。このニコ厨はもう駄目だと思うが、そこは敢えてツッコミを入れないのが大人というものだ。


 僕は笑顔で立ち去っていった雅人を横目で見送り、響夜さんを見た。今、響夜さんは、肩に掛けていた小銃の最終チェックをしていた。なにやら同じ部屋で寝泊りしている高校生があの小銃を見て興奮していた記憶があるが、僕自身は軍オタと呼ばれる属性ではないので意味は分からなかった。


(まあ、昨日見せたこの拳銃ですら大興奮だったもんな。しつこく撃たせてくれって強請(ねだ)ってきたのも

正直ウザかったんだよな。やっぱ、あの種類の人間は分からないよ)


 心の中で呟いてみる。

 僕は背負っていたリュックを背負いなおし、ピシピシと自分の頬を叩いて気を引き締めた。


「よーし、出発するぞ」


 響夜さんが僕らを見て、眠そうに出発を宣言する。

 今回の調査には途中までハンビーを使用することになっている。目的地の屋敷までは坂道を登らなくてはいけないのだが、もし屋敷に奴らが大量に巣食っていた場合、車ではエンジン音で誘き寄せてしまう恐れがある。それを避けるためにも車での移動は途中まで、ということにしている。

 

 まあ、正直に言わせてもらえば、僕は坂道を自分の足で登るのは好きじゃない。僕が今朝、それを響夜さんに言ったら、


「そうかそうか。なら、車で行って、奴らに囲まれてみるという貴重な人生経験を積んでみるか?」


 と若干、ふざけた反応が返ってきたので、笑って誤魔化した。でも僕は瞬時に理解した。響夜さんは本気(マジ)でやりかねない。




 ハンビーの運転は免許を持っている準一さんがすることになった。

 助手席には響夜さんが乗り、後ろには僕と阿久津さんと矢島さんが乗ることになった。


「俺、初めて軍用車両に乗ったんだけどな。意外と乗り心地がいいじゃねえか」


 乗って早々、矢島さんが感想を漏らした。


「まあ、普通の軽トラとあんまり変わりませんね。あくまで僕の感性ですけど……」


「いやいや。軽トラよか、シートの座り心地がいいぞ。親父が農家だったから、軽トラはしょっちゅう乗ってたんだ」


「確かに軽トラは長距離走行には向いてませんよね。長距離は大型担当みたいな感じですから。軍用車両は悪路での長距離走行に適しているんじゃないですか――――ってか、阿久津さんも喋ってくださいよ~」


 僕は会話を打ち切り、何時も鈴や雅人にツッコむような感覚で阿久津さんの肩を叩いてみる。すると……、


「ひゃっ!!」


 何だか僕が猥褻行為を仕掛けたのかと誤解されそうな嬌声が返ってきた。前の席に座る二人に聞こえなかったことが幸いだ。


「いやいや!そんな反応されても僕が困りますっ!」


 僕も勢いで押し切ろうと大声で言ってみる。ちなみにこれは僕の習性ともいえる行為だ。この僕、逢海寛人という人間は状況が悪くなるとテンションで乗り切ることがしょっちゅうなのだ。ってか誰に説明してんだ?

 ふと、隣の阿久津さんを見ていれば、僕のテンションに何やらドン引きしている模様。


「あ、ああ……ご、御免なさい!今、考えてみれば男の人と話すことがあんまり無かったんで……、ちょっと驚いたっていうか……その、えーっと……」


 かなり緊張しているのか、その態度には明らかな動揺が浮かんでいる。僕ってそんなに女の子に話し掛けると、違和感が沸く存在なのかなー、と少し不安にもなった。

 でも、男は冒険なんだよ! と目を爛々と輝かせて宣言した雅人を思い出し、諦めずに話し掛けてみることにした。


「えっと、えーっと、阿久津さんは映画とか見ます?」


「へ?わ、私?うーん、そうね。私は恋愛ものが好みかな~」


「へぇ~、そうなんですか!僕はSFが好きなんですよ!」


「そ、それは面白そうね!」


「でしょでしょ!」


 とりあえずノリで会話をしてみた。何だか、今の会話を録音して、後で聞いたらとても恥ずかしい気がする。それだけ僕は吹っ切れてみた。

 しかし……。


「…………………………………………………………………」


「…………………………………………………………………」


 会話は、続かなかった。

 お互いが顔を背け合って、会話と呼べるものは成立しない。理由は簡単で、どちらも不器用だからだ。


「何だお前らぁー、顔赤くさせて黙り込みやがって。こっちは気まずいんですけど~?」


 目の前で僕と阿久津さんのやり取りを聞いていた矢島さんが茶々を入れた。

 きっと矢島さんなりの会話を和ませるための気遣いだったのだと思う。でも、僕の頭脳はこの状況を打開できるような策を考え出せる程磨き上げられてはいなかった。


「そ、そうだ!これから行く所なんですけどね、とってもお金持ちなお嬢様の家なんですよ。それで、それが僕の同級生でしてね。物凄い高飛車な子なんですよ」


 僕は何とか話のネタを作り、持ちかけてみる。


「ああ、いるよな、そういう高飛車なご令嬢様が。俺、マジで苦手なタイプだわ」


「それって、私も含まれるんですか?」


 突然、阿久津さんは尋ねてきた。

 その顔は真剣そのもので、何か途轍もない不安を浮かべている。


「あ、何か気を悪くしてしまいましたか?」


 僕は地雷を踏んでしまったのかと、自然に口調が丁寧になる。普段は調子のいい矢島さんも黙り込んでしまっていた。

 阿久津さんは冷え切ってしまった空気を気まずく思ったのか、


「あ、あははは!御免なさい!ちょっと嫌なこと、思い出しちゃって!」


 でも、僕は真面目だった。


「阿久津さん、無理しなくていいですから、僕たちで良かったら話してくれませんか?」


 これで良かったのだろうか? 少し不安になる。

 もしかしたら、人の傷を大きくしてしまうかもしれない言葉のはずだ。でも、聞かずにはいられなかった。僕は普段から、調子のいい人間だと言われる。でも、今は生きているかも分からない親からこうも言われた。”お前は人の痛みが分かる人間だ”と。だからこそ、と僕は思う。

 阿久津さんはこれから僕たちと暮らしていくかも知れない大事な仲間だ。もし何気ない会話で自分の、人に公開したくないような過去の事を思い出させてしまうかも知れない。

 だったら、それは解決してあげたい。

 人間としての善意だとか、そういうのではなく、”自分勝手な正義感(ねがい)”として。

 

 僕の思いは通じたのか分からない。けれども、阿久津さんは重い口を開いてくれた。


「皆さんに悪いかもしれませんけど……、お金持ちの子供って、どう思います?」


「どうって、まあ高飛車な人も多いですよね。何というか、成金的な?」


「はい。実は私の実家は結構、有名な家柄だったんです。そのせいか、昔からよく近所の子に虐められたりしてたんです。それで、もしかしたら皆さんにとって不快な言動とかがあるかもしれません……」


 阿久津さんは正直に打ち明けてくれた。


「もしかして、それで実家から遠い律明学園に通っているんですか?」


「はい」


「何だ、そんな事だったんだね。阿久津さんは全然、普通の人だよ。胸を張って皆と接していても、大丈夫だと思うよ」


「……ありがとう御座います。貴方みたいに正直な人にそう言われると、何だか気分が明るくなります」


 僕はあまり大きな地雷じゃなかった事に安心して、胸を撫で下ろした。


「ラブコメってるみたいだが、緊急事態発生だ。全員、降りる準備をしろ」


 束の間の安心を味わっていた僕の耳に突然、響夜さんの声が響いた。その顔は何時になく真剣だ。


「何かトラブルでも?」


 僕は気の抜け切った声で尋ねた。響夜さんは意味ありげな笑顔を浮かべ、上を指差した。上には重機関銃が設置されている。そこから外を覗いて見ろ、という事らしい。


「……?」


 僕は顔に?マークを浮かべながら、顔を出してみる。


「……………………………………………………………………………………ああ」


 僕らが進んでいた道は住宅街の中の一本道だったらしい。そしてその一本道を塞ぐかのごとく……、



 数百体の奴らがびっしりと道を塞いでいる。しかもエンジン音に誘われて、こちらに近づきつつあるようだ。

ユーターンするほど道幅は広くない。つまり……、


「完全に追い詰められてしまいました。どうしましょう?」


 僕は更に気の抜けた声を出すことしか出来なかった。


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