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逢海寛人 7月10日 午前2時19分 渡良瀬市 市街地

投稿が少し遅れました。すみません。

 僕の目の前で響夜さん達が発砲を始めた。

 僕も出来ることなら戦いたかったが、僕は響夜さんから生存者の避難を任せられていたので、戦闘には参加出来なかった。


「皆さん!落ち着いて!早く逃げてください!」


 僕は逃げ惑っている人々に叫んだ。しかし前と後ろを感染者に挟まれた生存者は只、混乱するしかなかった。

 響夜さんは迫り来る感染者相手にたった八人で立ち向かっている。矢島さんは僕とは反対の方で敵を迎え撃っている最中だ。


「もう……どうして皆聞いてくれないんだろう……」


 逃げ惑う生存者は僕のいう事なんて聞いてくれそうにない。皆が自分が生きることだけを考えているからだ。それは僕も同じことだけど……。

 

「寛人!聞こえてるか?」


 遠くで響夜さんが叫んでいる。僕は人ごみからやっとの思いで顔を出し、叫び返した。


「聞こえてます!何ですか!」


「受け取れ!」


 その声と同時に一丁の拳銃が飛んできた。僕はそれを見事にキャッチする。9mm拳銃だ。


「これを使えってことなのか?」


 しかしこの状況では使い方など聞いていられない。自分で考え、行動する。それが生き残るための手段だ。


「聞け!」


 僕は宙に向けて発砲した。生存者は静まり、こちらを見る。


「皆、落ち着いて逃げろ!後ろに奴らが迫っているぞ!」


 僕が指差した方向を皆が見て、どよめきが広がる。

 感染者は後、三十メートルの所まで近づいていた。このままでは生存者と衝突するだろう。


「生きたかったら、落ち着いて逃げろ!」


 僕は何処かの独裁者の演説のように叫んだ。

 生存者たちは先ほどとは打って変わり、静かに避難を始めた。

 

「やるじゃないか!少年!」


 両脇の欄干から感染者を狙撃している朝比奈さんが僕を褒めた。その間も朝比奈さんは次々と感染者の頭を撃ち抜いていく。しかし響夜さんたちが次第に追い詰められていくのは目に見えていた。

 感染者たちの数の多さには、小銃程度では歯が立たないような気がするが、それでも響夜さんたちは撃ち続けていた。


「響夜さん!あそこ!」


 僕は朝比奈さんと山縣さんが狙撃を行っている両脇の欄干を指差した。あそこに上れば、奴らは追って来れないはずだ。

 しかし既に距離は十メートルまでに近づいている。


「分かった!右翼と左翼が先に上れ!」


 響夜さんの声で、白鳥さんと村上さんが欄干に上りはじめた。同じく狼森さんと松山さんも反対の欄干に手を掛け、上りはじめた。

 響夜さんと準一さんはまだ中心で戦闘を行っている。


「響夜!そろそろ限界だ!」


「よし!じゃ、アレ使うぞ」


 準一さんが頷き、胸ポケットから丸い球体を取り出した。響夜さんもそれに続いて、同じ物をポケットから取り出し、一斉に奴らに投げつけた。

 それはフラッシュバン、別名スタングレネードだった。

 二つのフラッシュバンは奴らの前に落ち、光と爆音を出して炸裂した。

 寛人が恐る恐る目を開けると、そこには気絶していたり、地面をのた打ち回る奴らの姿があった。その隙を逃さずに響夜さんと準一さんはそれぞれの方向へと走り出した。


「急いで!」


 僕は叫んで、同じように人ごみを掻き分けて欄干へと向かった。

 僕が向かっている方の欄干では既に矢島さんが上りきっていた。後は僕と響夜さん、準一さんが上れば全員無事に逃げることが出来る。

 僕は足に力を込め、人ごみを掻き分けて、何とか塀までたどり着いた。響夜さんが僕を持ち上げ、先に上らせる。


「隊長!早く!」


 狼森さんが叫んで、響夜さんを引きあげた。向こう側では無事準一さんも欄干に上っていた。

 全員が上ったのと同時に、駐屯地の方角からヘリがやって来るのを確認できた。そのヘリには対地ミサイルが装備されている。


「気をつけろ!対地ヘリだ!」


 響夜さんの叫びで僕は身を屈めた。

 ヘリからミサイルが発射され、感染者と生存者を吹き飛ばした。凶悪なミサイル弾頭は感染者と生存者に平等な死を与えていく。

 あっという間に国道は死体や体のパーツで埋め尽くされ、見るに耐えない光景が生まれた。

 グロテスクとかそう言うレベルでは表現できない、見ていると吐き気がこみ上げてくるような光景だった。更にその死体を後から来た感染者が貪り始めた。


「……松山、ロープで下に下りるぞ」


 国道は橋のようになっていて、ロープを使えば下の安全な場所に下りることが出来た。

 先ほどのヘリに続くようにして駐屯地の方角からは何機ものヘリが飛んできた。その内の一機の進路は、この国道の脇を通るようだ。

 響夜さんがそれを見て、松山さんにロープを手渡した。


「松山、ちょっとロープを頼んだ」


 松山さんは響夜さんからロープを受け取った。

 響夜さんはヘリがやって来るのを待っているようだ。でも一体、何をするつもりだろう。

 ヘリが国道の脇を通る瞬間、響夜さんはあり得ない行動に出た。


 そう、五メートルの距離をヘリまで飛び移った。

 普通の人間ならあり得ない。僕はおいおい、と突っ込みたくなったが、その気持ちを飲み込んだ。


「ちょ、隊長!」


 響夜さんは見事にヘリに掴まり、そのまま飛んでいった。


「待っていろ!直ぐに戻る!先に学園に戻ってろ!」


 そう言い残し、あり得ない人、橘響夜は飛んでいってしまった。

 僕らはそれを見送ることしか出来なかった。


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