鷹見真一 7月10日 午前2時13分 渡良瀬市 私立律明学園
大分、間を空けたくせに短めです。
先ほど出会った響夜たちが駐屯地へ向かってから、小一時間が経過した。
俺は今もバスから荷物を警備室に運び込むという作業を続けていた。
「佐伯、尾上、後はこのでっかいポリタンクを運んどけ。それで終わりだ」
「あいよ」
尾上は気だるそうにポリタンクを校舎内に運んでいった。俺は最後の仕上げにバスで待機している和泉を校舎内に運ぶ事にした。
バスの一番、後ろの席で和泉は大人しく座っていた。流石に女優ということもあって、とても可愛らしい。しかし俺は別に年下が好き、だとかそういう趣味はないので、別に意識することも無かった。
「和泉さん、少し失礼します」
俺は和泉を軽く抱きかかえ、バスから下ろした。
和泉は恥ずかしいのか、頬を紅潮させている。もしかして俺に惚れてる? などとは思わない。惚れるとした先ほどの隊長さんとやらだろう。
俺は抱きかかえたまま、真っ直ぐに生存者がいる教室に向かった。俺がドアを開けると、中では中学生や高校生が緊張感もなく、雑談に花を咲かせていた。
中でも窓際に座っている一人の女性に中高生、おもに男子が固まっている。俺はその女性に見覚えがあった。和泉を驚いたように声を上げた。
「瑞穂さん!無事だったんですね!」
和泉の声に、瑞穂という女性はこちらを見た。その顔が輝く。
「和泉さん?良かった!無事だったのね!」
その人物は、渡良瀬市の人間なら誰でも知っているご当地女優、長谷川瑞穂だった。同じ女優ということもあって、和泉とも知り合いのようだ。
「先ほどは御免なさい。私、貴方を見捨てたみたいで……」
「いえ、気になさらないで下さい。私だって貴方の立場だったら、逃げていますよ」
「そう?ありがとう……」
二人の会話が一通り終ると、再び男子生徒がサインやら、質問の回答を求めて瑞穂の周りに集まってきた。俺は気まずくなり、和泉をその部屋に残して警備室へと向かった。
警備室では佐伯が一人で機器をいじっていた。
中には専門的な知識がないと動かす事が出来ないようなものもあるが、大抵は勘で動かす事が出来るものだ。
「これ見てください。プレイステーションですよ。何で警備室にあるんでしょうかね?」
「さあな。警備員も暇なのかもな」
俺は心の中で給料泥棒め、と呟きながら、警備室のモニターのスイッチを入れた。
モニターに学校の敷地内に設置されたカメラからの映像が写し出された。どのカメラにも奴らの姿は確認出来ない。まだ学園内に侵入している奴はいないようだ。
俺は一通りモニターを監視し、不振な物が見当たらないことを確認し、視線を佐伯に移した。
「もう少し余裕が出来たら、一緒にゲームでもするか?」
「ええ、いいですね。でも僕達、生きて帰れるんでしょうか?」
「信じろ。絶対に自分は生きて帰ると信じろ」
俺はそう言って、佐伯の肩を叩いた。俺はそのまま警備室を後にし、校内の巡回に向かった。
とても暇な仕事だが、何もしないよりはマシなので、タバコでも吸いながら巡回することにした。いざ、タバコを吸うと、何時も吸うものなのに、何故か美味く感じた。こんな事態になっているからだろうか。
俺は煙を吐き出して、溜息を吐いた。
「てめぇ!どこに目ぇつけて歩いてんだ!?」
「ご、御免なさい!」
嫌な会話のやり取りが聞こえた気がした。いや、気のせいではないだろう。
それは人間が一番、関わりたくない会話だ。恐らく、肩をぶつけられた不良生徒の魂の叫びだろう。ぶつかられたらキレるべし、というのが不良のモットーらしい。
俺は面倒だが、止めることにした。一応、警官だからな。二人の高校生の間に入り、制止する。
「君達、今の状況を考えてくれ。喧嘩するより、することがあるんじゃないのか?」
「うるせぇな!税金泥棒は黙ってろ!」
俺はその言葉にカチンと来たので、静かな声で不良に言った。
「その税金を払っていない君には言われたくないな。せめて、払ってから言ってくれ」
不良は尚も恨めしそうな表情で、俺を睨んだ。怒鳴られていた高校生は既に何処かに逃げてしまったようだ。不良も、絡む相手が居なくなったせいか、唾を吐くと、立ち去っていった。
俺はその後姿を見つめ、高校時代の自分を思い浮かべていた。
昔、俺にもああいった時代があった。世の中に不満ばかり抱いて、教師や親、友達に八つ当たりばかりしていた。それでも、俺には友達が居なくなる事はなかった。今でも、恵まれていたと思う。
俺が警官になったのは、友達から薦められたからだ。
俺の反抗期が終った頃、俺は正義感が強くなっていた。不良時代に鍛えた喧嘩の腕で、他の不良を殴っては、他の生徒から感謝されていた。
高校を卒業しても、大学には行かず、直ぐに警官になった。それで今に至るわけだ。
「今思えば、もう俺が不満を抱いていた社会も崩壊しちまったてわけか。こんな状況じゃ、もう世界も終わりかもな」
そう思うと、俺は何処か寂しく感じた。大事な物を失ったような気もする。
俺の友達、同僚は無事なのだろうか?そしてこの事態は何故、起こってしまったのだろうか?そのうち、突き止めようと俺は思った。
「そろそろ戻るか。暇になってきた」
俺は呟き、警備室に戻ろうと、身を翻した。そこに丁度、佐伯が走ってくるのが見えた。
「鷹見さん!鷹見さん!皆が戻ってきました!」
皆というのは、例のイケメン隊長率いる特殊部隊のことだろう。それが戻ってきたという事は、脱出手段が見つかったという事か、それとも最悪の事態、置いて行かれたかのどちらかだろう。
俺は頷き、佐伯とともに前庭へと向かった。
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