第1話
一ヶ月前。
「凪、ちょっと頼みがあるんだけど」沼田透は幼なじみの水野凪に電話で切り出した。
「何かあったの?」
「俺……また失戀したんだ」
ずっと沼田透に片思いしている水野凪は、その言葉を聞いて心の中で密かに喜んだ。だが何でもない風を装って声を返す。
「もう何回目?今度は透が振ったの?それとも振られたの?」
「実は毎回相手から振られてるんだ。何が悪いのか全然分からなくて、だから君に頼みがあるんだ」
「どういう風に手伝えばいいの?別れないように説得してほしいとか?それなら無理だよ」
「そういうことじゃない。率直に言うよ——俺の彼女のフリをしてほしい。疑似恋愛で、毎回振られる原因を突き止めてほしい。頼む——」
「いいよ」水野凪は彼が言い終わる前に即座に承諾した。
電話が切れるのが怖かった。彼に心変わりされるのも怖かった。それ以上に、彼が他の誰かに助けを求めることなんて、絶対に耐えられなかった。
「でも、条件がある」
「言ってみて」
水野凪は数秒間ためらってから、勇気を振り絞って言った。
「私たちは疑似カップルだけど……エッチな要求は一切禁止。いい?」
彼女は損をするのが怖いわけじゃない。むしろ逆だ。彼から求められたら、自分が理性を保てなくなるのが怖いのだ。
沼田透は一瞬驚いたように固まったが、すぐに「分かった。模擬なんだから、もちろんエッチなことはしないよ」と快諾した。
「あと二つ……最後まで聞いてくれる?」
「どうぞ」
「この期間中は、他の女の子と付き合わないで」
「はは、じゃあ男の子としか付き合えないのか?」
「真面目に言ってるの。もし無理なら……他の人に頼んでよ」水野凪は言い終わった瞬間に後悔した。彼が本当に他の誰かに頼んだらどうしよう。
だが沼田透はあっさりと「分かった。期間中は他の誰とも付き合わないよ。最後の条件は?」と言った。
水野凪は声を潜めて、電話口で最後の条件を伝えた。
そして、返事を待った。
沈黙が三十秒以上続いた。かすかに聞こえる彼の呼吸音がなければ、通話が切れたと思っただろう。
「……分かった。約束する」
沼田透はそう言って、気まずい沈黙に終止符を打った。





