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異界転生 人斬りの使い魔と没落探偵  作者: 悦田半次


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いい夢を

 ペルペトーの屋敷は酷い有様だった。

 突如発生した魔力エネルギーによって、跡形もなく崩壊した。

 この崩壊が、2人の転生者による衝突によって発生した者であると信じるものはどれほどいるだろうか。


 その瓦礫の山の中で生存しているのは4人のみ。

 リドーは落下してくる瓦礫を煉獄一直線ゴー・トゥー・パーガトリィーで切断することで、シルヴィアと共に難を逃れていた。

 そして爆発の中心となった地点には、2人の転生者がすれ違うように立っていた。

 ツバキとナツメ。

 沈黙を保っていた2人だったが、先に口を開いたのはナツメだった。


「……本当に、おまえは甘いな」

「ご主人サマのがうつったのさ」


 口から血を伝わせながら、ツバキは笑った。


「俺の勝ちだ、姉上」


 瞬間、ナツメの体が揺らいだ。

 どさりと、体が地面に落ちようとしたところをツバキが支える。

 が、元々体躯がナツメより小さいこととツバキもツバキで限界が近づいていたこともあり、2人揃って倒れ込んだ。


「負けた……そうか、私は負けたんだな。負けることが、できたんだな」


 ナツメの口調も、表情も、一緒に星空を眺めていた時のように柔らかかった。


「目ェ、覚めたか?」

「ああ……頭にかかっていた靄が、晴れた気分だ。快晴、とまではいかないが」


 ふう、とナツメは嘆息した。


「まさか、私のスキルを丸ごと斬るとは……無茶苦茶なことをする」

「一か八かの賭けだったけどな。うまく言って何よりだよ」


 ナツメからは既にスキルの気配は感じない。

 彼女の中から『修羅の剣』、同時に『抜刀術』は永遠に失われた……そんな確信があった。 


「だが……やはり納得はいかんな。どうして私は負けた。アレはどう考えても、今の私が放てる最高の一撃だったはずだ」


 少し拗ねたような声。

 そう言えば、ナツメは結構な負けず嫌いであった。

 鍛錬で負けたときはもう1回もう1回とせがんでくることもよくあった。

 ツバキもツバキで似たような事をするので、最終的に互いに疲れてその場で寝て朝を迎えるという事もよくあった。

 それだけでも、ナツメが元に戻ったのだと目頭が熱くなる。


「なんで負けたか、ね……」


 ツバキのスキルは敵のスキルを斬ることができる。

 だからこそ、正面きってのカウンターを選ぶことが出来た。

 本来であればオーラをスキルで斬り、純粋な刀と刀の勝負に持ち込むつもりだったが――予想外の出来事が起きた。


 鳳とツバキの刀がかち合い、スキル同士の衝突が発生した直後、まるで何の障害もなかったが如く、ナツメを斬っていた。

 さながら、視界を絵と見立てた際に、その絵を丸ごと切断したような――そんな感覚だった。


 一瞬だけ、視界が刀の軌道に合わせたのようにズレたのも拍車をかけている。

 ちらりと見てみると、鳳は健在。

 斬られたのはナツメも満身創痍ではあるが、あの一撃による傷は存在しない。


「俺にも分かんねーよ……けどアレだ、心で勝ってたとか、どうだ?」


 三文小説のようだが、技術もスキルも、そして得物の質も拮抗していた。

 となれば、最後に差が付いた部分はそれくらいだろう。


「心、か。以前のツバキだったら絶対に言わなかっただろうな。それも、あの女の影響か?」

「かもな」

「だが、やはり甘いぞ。私を殺し切れていないではないか。あの面妖な力があれば、殺すことなど容易かったのではないか?」


 確かに、そうだ。

 あの力を使えば、ナツメを真っ二つにすることすらできただろう。

 だが――


「嫌だよ。なんで姉上を殺さなきゃなんないんだ。俺の目的は姉上を止めることだった。んで、もう止まってる。これでいいだろ」

「むぅ……」

「……殺されることで償おうなんてするなよ。そんなこと、何の意味もねぇ」


 ナツメに死なれたって、ツバキにはこれっぽちも嬉しくない。

 仮にシルヴィアが殺されていたとしても、だ。


「だが、私は……」

「俺は姉上に生きてててほしいんだよ。さっさと死んだら勿体ないだろ……せっかく生き返ったんだからさ、この世界で」


 ナツメはしばしツバキを見ていたが、ふっと微笑んだ。


「ありがとう、ツバキ。甘いまま……強くなってくれて」


 そう言って、ナツメは沈黙した。

 すうすうと、静かに規則的な呼吸をしている。


「いい夢見ろよ、姉上」


 悪夢は、もう終わったのだから。


「……ん、俺もそろそろヤバいな」


 緊張が緩んだせいだろうか。

 抵抗する暇も無いまま、ツバキも姉の温もりを感じながら意識を手放した。





「うっ、うっ、良かった、良かったわねツバキ……!」


 おいおいとハンカチで涙を拭っているのはシルヴィアであった。


「けっ、まったく派手にやってくれたわ。やっぱ転生者はクソやクソ。今のうちに殺しとこか?」

「それはダメよ。せっかく、本当の意味で2人は再会できたんだから……ああ、なんて素晴らしいのかしら。やっぱり、ハッピーエンドが1番よね!」

「腕切った相手にソレ言える嬢ちゃんも相当やな……」


 転生者を従えているだけあって、やはり頭のネジが何本か飛んでいるのかもしれない。


「はぁ、安心したら私まで眠くなって――」


 ばたん、とシルヴィアが倒れた。

 幸いリドーが手当てしたこともあってか放置するのはまずいが、まだ余裕はある。


「……ん?」


 ふと、リドーは周囲を見渡す。

 そして気付いた。

 この場で生き残っているのは4人。

 そして、今意識があって立っていられるのはたった1人であることに――!


「ウチが運ぶんかいコレェェェェェェェ!?」


 渾身のシャウトが、月夜に響き渡った。


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