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異界転生 人斬りの使い魔と没落探偵  作者: 悦田半次


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殺し合いというよりも

「すごい……」


 二回の仕切り直しを経たツバキとナツメの戦いを前に、シルヴィアは感嘆の声を漏らした。

 先程まで、ツバキは嵐に煽られ転覆寸前の小さな帆船のようだった。

 だが今はその嵐に真っ正面から立ち向かっている。

 ひとえに理論上あらゆるものを斬る『切断』スキルと、リドーが届けた新たなる刀――この2つを駆使して、ツバキはナツメに食らいつく。


「なんや、随分動きがかわっとるやん。何かあったんか?」


 新たに傷を増やしたシルヴィアに再び応急処置をしながら(またも病院に担ぎ込もうとしたが、シルヴィアは謹んで断った)、リドーも目を丸くしている。


「刀のお陰、というのはどうかしら。ご主人様の愛がこれでもかと詰まった刀によって覚醒する使い魔――ロマンチックじゃなくて?」

「アホか。武器取っ替えただけで強くなれるんやったら、苦労せんわ」


 強力な武装だけでなく、常に血の滲む鍛錬を繰り返すという浄火機関の人間の言葉は重みが違う。

 もっとも、シルヴィアもそうだったらいいなあと思うだけで、実際には違うだろうとは思っていた。


「じゃあ、あなたはどう見るの」

「ま、心のコンディションやろな。肉体のコンディションは目に見えて悪化しとる。けど人間っちゅーのは心に体が引っ張られることもよくあるんや。良い方向にも悪い方向にもな」


 リドーも、シルヴィアと似たような推測をしていた。

 シルヴィアも同感だ。

 ツバキの太刀筋には、一切の迷いがなくなっている。

 今まで体に絡みついていたぎこちなさを、全て振り切っている。


 利用するのは刀だけではない、腕や脚からなる己が肉体――そして、そこら中に散らばる屋敷の破片すらも武器に変え、ツバキはナツメに対抗する。

 ツバキは、完全に己の戦い方を取り戻していた。


 スキルの余波ごと攻撃を凌ぎ、距離を取って躊躇無く刀を投擲。

 同時に走り出し、ナツメが刀を弾いた好きを突いて膝蹴りを叩き込んだ。

 さらに宙を舞う刀の柄をネクタイで巻き付け、振り下ろす。

 ナツメの頬に一筋の赤い線が走った。


 突然拡張されたリーチに対応しきれなかったのか。

 だがナツメも負けてはいない。

 体を覆う魔力を猛らせ、ジェット噴射の如き高速移動でツバキを翻弄する。

 繰り出される斬撃も、まともに食らえばツバキを殺すことなど造作でもあるまい。

 血煙が舞い、2人の体には、次々と新しい傷が刻まれていく。


「リドー。あなたはどちらが勝つと思う?」

「ンー……純粋に剣術勝負となれば、ツバキちゃん姉やろな」


 意地でもツバキから「ちゃん」を外す気はないらしい。


「アレは『刀を振るうこと』に特化した――最適化したとも言うんかな、まあそんな体や。機関にもそーゆー手合いはぎょーさんおるけど、あの若さでここまで純化しとるのはヤバすぎやね。その点で言えば、ツバキちゃんは剣術では一歩劣っとる」

「つまりツバキが負けると?」

「うんにゃ、そう単純やあらへんよ。ただの剣術として戦えば、ツバキちゃんが負けるのは当然や。大方、仕切り直す前はそうだったんちゃうん?」


 確かにそうだった。

 あの時のツバキは、同様のためかいつもの戦い方が出来ていなかった。

 だが今は違う。

 いつも転生者を相手取るように――否、それ以上の動きでナツメとしのぎを削っている。


「結局な、戦いっちゅーのは相手を殺せればそれでええんや」

「だったら同じ土俵に上がらず、自分が1番得意な方法で戦った方がいいって訳ね。ツバキの持ち味は色々手段を選ばないことだもの」


 刀単体では叶わないのならば、それ以外の戦法を遠慮無く使えば良い。

 深めるか、広げるか。

 どちらを選択するのも間違いではないのだ。

 刀を己の中心に据えたナツメと、肉体を中心にその延長として刀を使うツバキ。

 2つの刃が、月夜に煌めく。


「……けどまあ、あの刀も捨てたもんやないっちゅーのは認めざるをえないわな」

「でしょう? 家賃を何ヶ月も踏み倒す覚悟で作ってもらったかいがあったわ」


 一瞬、リドーは「こいつマジか」と言う目でシルヴィアを見たが、誤魔化すようにんんっと咳払いした。

 ナツメの『鳳』は妖刀と聞いていた。

 斬っても斬っても切れ味が一切鈍らないという、この世界で言う魔剣に該当する刀。

 であれば、どうしても消耗品である既製品の剣では打ち合い続ければ砕けるには自明の理。


 だが、ツバキの手にある刀は何度も打ち合っても刃こぼれをしていない。

 あれだけの腕を持つ刀鍛冶が『渾身の出来』と言うだけはある。

 あの刀がツバキの手にあることが、シルヴィアはちょっぴり誇らしかった。

 そしてシルヴィアは気付く。

 ツバキの口元が、ほんのりとつり上がっていることに。


「けれども、アレね」

「ああ、アレやな」

「この戦いって殺し合いっていうよりも――」

「姉弟喧嘩やね」


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