相棒
「結局はツバキ頼みか……下衆め」
「フンッ、ツバキは私の使い魔なのよ。ツバキの功績は私の功績、ツバキの罪は私の罪、全てひっくるめてツバキは私のものなんだから! だからツバキが勝ったら私が勝ったも同然よ!」
「カッコ付けるんだったら最後までカッコ付けてくれよ」
割と良いこと言ってたのに、最後の最後で台無し感がすごい
堂々としているけど、言ってることはかなり情けない。
ツバキの傷は癒えきってないし、戦闘を行うのは危険だと本能が警鐘を鳴らすが、シルヴィアがペラペラと時間を稼いでくれたお陰である程度マシになった――と、いうことにしておく。
シルヴィアをそっと床に起き、ナツメに視線を向けた。
「……ずっと、分かんなかったんだ。姉上が、なんでここまで変わっちまったんだろうって。まさか、俺が原因だったなんてな」
知られるつもりはなかったのか、ナツメは少しばかり気まずそうに視線を外した。
「里の連中のことは心底ムカ付いてるし、1人1人の首を刎ねてやりたいとは思っているぜ。けど、どうせ前の世界のことなんだ。もう終わりでいいだろ。今の生活も、けっこう気に入ってるしな」
「おまえに知られようが知られまいが、私のやることは変わらん。そうしなければならない。修羅にならねば、全て奪われる」
「生憎、俺は修羅なんてゴメンだね。せいぜい人斬りか……使い魔程度が性に合ってる。ま、最近はもっと身の丈に合わないものになろうとも一応決めてはいるけどな」
ハテ、とシルヴィアは首を傾げている。
相変わらず肝心な所では鈍感だった。
「ならば――力尽くでそうさせる」
ナツメの周囲から爆発的なオーラが発せられる。
「丸腰でも、容赦せん――!」
スキルで加速したナツメが振り下ろす刀を、ツバキはネクタイを巻いた左腕で防いだ。
オーラによる衝撃で体を持って行かれそうになるが、地面を亀裂ができるまで踏みしめる。
「絶対に、止めてやるよ……!」
「戯れ言を……!」
嵐の如き威力を持つナツメの斬撃に、ツバキはスキルを駆使して食らいつく。
「姉上……ついさっき、里の連中なんてどうでもいいみたいなこと言ったけど、早速撤回するわ。でっかい恨みがあるな。つーか、今できた」
ナツメは眉を潜めた。
「姉上を、そうしちまったことだ。それだけでも、地獄に行って連中をもう1回殺してやりたいって思える」
ナツメに、こんな悲しそうに刀を振るってほしくはなかった。
「結局は私のせいだ。私をこうするために、里長がおまえを殺すように判断を下したのだからな。里の連中よりも、私は私が1番許しがたい……!」
「知った事か! それを姉上のせいとは言わねぇんだよ! 俺を殺ったのは里の連中だ! そのせいで姉上もそうなっちまった! 俺にとっちゃ二重の恨みだ。ふざけんなよ畜生……! そんなの認められるか!」
ネクタイもそろそろ限界が近い。
徐々に拳から血が滲んでいく。
もっとも、鳳は刃こぼれ1つしていないのが悔しいところではある。
「そもそもだ。今の姉上は、ちっとも楽しそうじゃねえ」
「当たり前だ。そんなもの、見出して何になる」
「俺の知ってる姉上は、どんな戦いだろうと笑みを絶やさない人だった! 刀を振るうことが、戦うことが好きだったからだろ!」
「そんなものは幻だ。連中を殺した時に、そう思い知らされた。こんなものは結局、奪うためにしか存在しない! 楽しむのも、護るのも――意味なんて、ない!」
魔力の奔流と共に繰り出される居合い。
左腕で防ぐも、いたる所から血が噴き出し、ツバキの肉体は紙細工のように吹き飛ばされた。
体の内側も外側も死に体だった。
だが――心はまだ、健在だ。
なら、いける。
戦える。
床を殴りつけるように、立ち上がった。
既に目の前にはナツメがいる。
「もう、諦めろ。既におまえに勝機はない」
「お断りだね……! 最後の最後まで食らいついてやる」
「――ええ、そうよ。勝負は最後まで分からない」
鈴を転がすような声と共に、2人の頭上に影がかかる。
「ったく……ウチは出前やないで!」
月光を背にして吐き捨てたのは、金髪のシスター――リドー
その手に握られているのは、一振りの刀。
「受け取りや、ツバキちゃん!」
リドーが投擲したのとほぼ同時に、ツバキも地面を蹴った。
柄と鞘を掴み、覗かせた刃でナツメの斬撃を防ぐ――!
「ぬぅ、業物……!」
ナツメが感嘆の声を漏らす。
刃を交わしただけで、伝わったのだろう。
そう言う所は、相変わらずらしい。
ツバキは体を捻って着地し、刀を完全に抜き放った。
月光に晒された刃は、ツバキも息を飲むほどに美しかった。
「これが……」
「そう、これがあなたの刀――他の誰でもない、ツバキのためにゼロから作られた唯一無二の――あなただけの武器よ」
ぐっと、シルヴィアが親指を立てて笑った。
「得物が増えたとて――!」
迫る鳳の刃を、ツバキは真っ正面から受け止めた。
発生したオーラがツバキの体を吹き飛ばす――ようなことは起こらなかった。
海を割ったかのように、刃に触れたオーラは真っ二つになってツバキを通り過ぎていく。
今までスキルを使ってもろくに斬れなかったナツメのオーラが、この刀にスキルを付与した途端こうなった。
もしやとは思ったが、いざその結果を目の前に叩き付けられると、妙に口元が緩んでしまう。
刀に触れている細胞一つ一つが歓喜の声を挙げているようだった。
「――よろしく頼むぜ、相棒」
そのせいだろう。
かつての自分だったら絶対に言わないであろう言葉が、さらりと口に出た。




